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短編2「神の戯れ」part2

「あれ?なんでオリサ一人?」


 リビングに入ると神様はおろか、いつもなら朝食の準備を始めているリーフも脱衣所で洗濯機を回しているルルの姿もなかった。


「神様は庭に居たよ。リーフちゃんたちは先に外に出てる。みんな居ないとトールがまたパニック起こして押し倒されちゃうから、あたしが待ってた」


 いつものオリサに比べてまだ若干硬さを感じる。


「そうか、俺たちも出ようか。オリサ、さっきは本当にごめん」

「まあいいよ。トールがいろいろ不安になっちゃうのはよくわかってるし。でも、女の子の部屋に急に入るのはダメ!」

「はい、以後気をつけます」

「よろしい。あと、左のほっぺだけ赤いけどどうしたの?」


 左頬?なんだろうと自分で触ってみると鈍い痛みを感じる。


「いでっ」

「どこかにぶつけたの?」

「ぶつけ……、ああ、そう言えばさっきみんなの部屋に行く前に慌ててベッドから降りようとしてコケたんだ。そのまんま、顔と肩から落ちた。たぶんそのせいかな。ちょっと痛いけど、まあすぐに治るよ」

「顔からって……。まったく、慌てたせいで死んじゃうかもしれないじゃん。ホントに気をつけなよ」


 返す言葉もない。


  ・・・・・・・・・・・・


「リーフちゃん、ルルちゃん、おまたせー」


 庭にはキャンプ場にあるような大きめのウッドテーブルがあり、神様、ルル、リーフの三人はそこで待機していた。

 ウッドテーブルは庭でバーベキューをしたとき便利なようにと設置したものだ。

 リーフと神様は何か会話をし、ルルは我関せずといった様子でタブレットを弄っている。


「神様、これで全員揃いました。お話をお聞かせくださいますか?」

「うむ、トールよ、元気かね」


 朝のやり取りなど存在しなかったかのようにいつもの調子で話しかけてきた。

 俺は腰掛けながら返事をする。


「最悪ですよ。神様の言葉に慌ててベッドから落ちて顔と肩が痛いし、オリサ達に迷惑かけるし。さっき、俺の部屋にいましたよね?なんだったんです?あの話」

「まあそう怒るな。今日は特別だ」


 ケラケラ笑う神様だが、何がなんだか。それは俺だけではなかったらしい。


「何かあったのですか?」

「一人で楽しむのは悪趣味だ」

「ちゃんと理由を聞きたいよね」


 ホントに。


「それで、何があったんですか。まさか嘘を()くために俺の部屋で待機してたわけじゃないでしょう」

「いんや、その通りじゃよ」

「はぁ?」

「神様、一体何をお話しなのですか?」

「神様ごらんしーん」

「とりあえず斧を握っておこう」


 まてまて、世界が終わる。


「トール、今日は何月何日じゃ?」

「ルル、タブレット見せて。えーと、四月一日です」


 今日から新年度だ。だが今の世界で詳細な日付なんて役に立たないだろうに。あれ、四月一日?


「神様、まさか……」


 嘘だろ。神ともあろう存在が、そんなくだらないことのために?人間をおちょくるためだけに朝から現れた?嘘だろう?


「トール、どうしたの?今日って何か特別なの?」

「何かわかった様子だな」

「あの、トールさん。眉間に皺が寄っています。大丈夫ですか?」


 唯一理由を理解した俺に視線が集まるのを感じる。こんな馬鹿みたいな催しのために慌ててみんなに迷惑をかけたとは情けないし申し訳ない。悪いのは全部神様だけど。


「ルル、その便利な板で『エイプリルフール』って検索して読んでくれ。全部カタカナだ」


 俺は頭を抱えて机に突っ伏した。説明はルルに頼もう。


「『四月の愚か者』……ですか?」

「なんだろ?」

「『えいぷりるふーる』、変換、これか。……は?」

「どうされましたか?」

「あの、ルルちゃん?なんか怖い顔してるよ?」

「お前達、読むぞ。『エイプリルフールとは、四月一日は嘘を()いても良いという風習。起源は不明』……まさか、これか?」


 神様、馬鹿なのかな。


「えーと、神様?この風習がやりたくてトールにあたしが居なくなったって嘘を()いたの?」

「そうじゃ!人間たちがやっているのを見て面白そうだと思っていたのだ!」


 ニコニコ顔で説明する神様。腹立つわぁ。


「神様、楽しかった?」


 いつもより低い声でゆっくりとオリサが尋ねる。


「ああ、まさに『仰天』といった透の顔が見られて満足じゃ」


 この老人は。


「嘘の内容はどのようにしてお決めに?」


 これまたリーフが威圧感のある声を出す。


「透が驚きさえしてくれりゃなんでもよかったんじゃよ」


 神様の笑顔を受けて、リーフの眉間の皺がより深くなった瞬間を見逃さなかった。


「世の中には笑えない冗談もあるのだがな。トール、かわいそうに。無念は晴らしてやる」


 ゆっくりと立ち上がるルル。その背中はいつもより大きく頼もしく見える。

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