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逆異世界転移物語 〜エルフ・ドワーフ・魔法使いと地球でゆるくぬるく暮らす物語〜  作者: シンドー・ケンイチ
第六章「降臨、天の使者」
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「降臨、天の使者」part18

「本当に暑そうだね」

「ええ、お家にお邪魔する前から軽く汗ばんでいたもので……、あ!クサいっすか?」

「いや、そうじゃなくて!シャツがスケ、あ、いや、シャツが身体にくっついてるから……」


 口から出てきた言葉があまりに見たまま、欲望に素直な表現で自分に呆れる。精一杯言葉を選んで言い直したが、そこまで改善されてもいない気がする。


「そうなんすよ。へばり付いて気持ち悪いんすよねぇ。あー!もういいや、脱いじゃえ!」


 そう言うと天ちゃんは立ち上がってシャツの裾を握り一気に捲った。あまりの思い切りの良さに止める間もない。


「ちょっ!いや、何してんの!」

「大丈夫っすよ。この時間、外はまだ冬でもこの部屋は常夏っすから。トールくんも暑ければ脱いじゃっていいっすよ?手前は気にしませんから、無礼講っす」


 弾みながら勢いよく現れた豊かな胸部とそれを隠す豪奢(ごうしゃ)な刺繍で彩られた紫色の下着も気にせず、天ちゃんはケラケラと笑っている。俺は大変気になるのだが。


「あら?トールくん改め、童貞くん、キンチョーしちゃってますぅ?」


 当たり前だって。

 突然のことにどうしていいのか戸惑ってしまう。だが、ここで無言だったことが却って天ちゃんを面白がらせてしまったらしい。


「あらあら、かわいいっすねぇ。ふふ、どうです?お姉さんと楽しいことしませんか?」

「な、何かゲームでも?」


 精一杯の冗談だが、そんなものじゃないことくらい当然わかる。


「ゲームでも間違いじゃないっすね。心の駆け引きみたいな?でも、どちらかというと『アクティビティ』でしょうか。身体を使った、激しい戦いっすよ。へへ」


 彼女はそう言うとソファーの上を四つん這いの姿勢でゆっくりと近づいてくる。正に女豹だ。自然とその胸元に視線を送ってしまう。髪から垂れた一筋の汗が谷間へと流れていく様があまりに扇情(せんじょう)的で目を離すことができない。戸惑っているうちに天ちゃんはあっという間に目の前へとたどり着く。彼女に触れる気は無いはずなのに、離れることが出来ない。


「幸いここは防音がしっかりしてます。どうっすか?お姉さんが卒業に導いてあげるっすよ?実はですねぇ神様から聞いちゃってるんすけど、トールくん三人が来てすぐ子作りしたがってたらしいじゃないっすか。逞しいっすね。いいんすよ?下半身に正直な人は嫌いじゃないっす。いいえ、大好きっす」


 中性的な顔が、忘れたい記憶を刺激しながら楽しそうに誘惑してくる。


「オリサちゃんにも、リーフちゃんにも、ルルちゃんにも、誰にもできないステキな経験をさせてあげるっす。一生忘れられない体験をトールくんのカラダに残してあげましょう。どうです?新世界への扉を開いてみませんか?」


 指先で俺の頬をゆっくりなぞりながら蠱惑(こわく)する言葉を並べる。だめだ、頭が追いつかない。確かにここなら声が出ても問題ない。天ちゃんはすごく魅力的だし……、我慢なんてしなくていいのかもしれない。

 俺は頬を(もてあそ)ぶ天ちゃんの手に触れた。おそるおそる、小さな雛鳥を傷つけずに抱くかのように。

 天ちゃんが唇を舐めるのが見えた。嬉しそうに。ゆっくりと。天使だけあって、彫刻のように、絵画のように美しく整ったその顔が不釣り合いなほど欲に(まみ)れた行動をとる。その動作による影響は俺の鼓動に如実(にょじつ)に現れた。


「ふふふ、最初は誰だって緊張して何もできないもんなんす。大丈夫っすよ。手前がリードしてあげますから。恥ずかしくなんて……あら?」


 妖艶な雰囲気から一転、先程まで冗談を言い合っていたときと同じトーンの声で扉に視線を動かす。


「な、なに?」


 天ちゃんが一線を向ける方角が気になる。しかし、ソファーの背もたれで扉への視界が防がれている。それも事実ではあるが、実際のところ俺は情けないことに仰向けに寝転んだまま動けずにいる。四つん這いで自分に覆いかぶさる天ちゃんの横顔 ―そして、すぐ目の前に並ぶ汗ばんだ豊かな胸元も交互に― 見つめることしかできなかった。


「扉を叩く音がした気がするっす。ちょっと行ってみましょう!」


 するりとソファーを降り、あっという間に扉へと近づいてゆく。しばらく呆然としていたが、俺も慌てて起き上がり天ちゃんの後を追った。


「オリサちゃん、聞こえますか!?扉が壊れました!ルルちゃんの斧で壊しちゃってください!!」


 どうやら扉の向こうにオリサが来てくれたようだ。


「ちょっとだけ隙間があったから、なんとか声と叩く音が届いたんすよ。いやあ、ミイラにならずに済みそうっすね」

「そうね」


 惜しいことをしたような、これでよかったような、なんとも言えない気分だった。


「残念そうな顔してますね。イイコトはまた機会を見つけてしましょうね」


 そう言って俺の尻を軽く叩く。

 直後、扉から強い激突音が二度三度と響き、ついに重く頑丈そうな扉が音を立てて室内に転がり込んできた。ルルが斧で壊したあと、思い切り蹴り飛ばしたようだ。これが扉を開ける際のプランB、俺が鍵を開けられなかったときによく見る光景だ。


「大丈夫か?遅いから見に来たが……、は?どういうことだ?」


 ルルがいぶかしげに俺たちを見つめる。何があった。


「あっつ!何この部屋!サウナなの!?こんなとこ、ずっといたら死んじゃうよ?え!?天ちゃんなんで下着なの!?」


 ああ、ルルの表情の理由がわかった。俺も暑さで判断がだいぶ鈍っているらしい。


「話せば長いんだけど、扉が壊れて出られない上に暖房も操作できず、あまりに暑くて脱いじゃった」

「決してやましいことはしていませんよ。助けていただきありがとうございます!十分休んで明日にはちゃんとしたお部屋を作りますから!」


 やましいことが起こるまで秒読み段階だったけど、もちろん言わない。


「この程度の温度で音を上げるとは軟弱な。鍛冶師にはなれないな」

「なる予定ないし。早く出ようよ!あづいよぉ」

「賛成。水飲んでシャワー浴びたい」

「ホントっすねぇ。いやぁ、お騒がせしました」


 本当だよ。だが、天ちゃんには世話になったのだから文句など言ったらバチが当たる。


「お風呂湧いてるから入るといいよ。どっち先に入る?」

「天ちゃんどうぞ。レディーファースト」


 階段を登りながらオリサから出た質問に即座に返答した。俺はとりあえず混乱する頭を落ち着けたかった。


「すんませんねぇ、家主を差し置いて。それじゃ、一番風呂いただいちゃいます。あ、それとも一緒に入ります?トールくんもオリサちゃんもルルちゃんも」

「俺はいいっす」


 なぜ当然のように混浴なんだ。


「わたしも結構」

「みんなでお風呂入るの楽しいのに。あたしは一緒に入りまーす!」

「んじゃ早速行きましょう」

「おー!」


 元気なもんだ。オリサはすぐさま着替えを取りに寝室へ向かっていく。ルルが天ちゃんを脱衣所へ案内しているのを見ながら、リビングのソファーに腰を下ろした。

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