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第008話 転移十五日目 一

 朝、敷地の外に建てた杭に針金を張巡らせるつもりで家に出たら、生垣の向こう側に狼っぽい四足の野生生物を発見した。


 狼って確か夜行性って聞いた事がある。生活のリズムが逆ですれ違っていたのか、或いは今まで出会わなかったのは運が良かっただけなのか。


 生垣の隙間から見えた感じだと、今はまだ周りに打ち込んだ杭の匂いを嗅ぎ回って徘徊している。


 もしかしたらこの辺りは連中のテリトリーだったんだろうか? なんにしても、このままでは遅かれ早かれ敷地内に狼の侵入待った無しである。


 現状、敷地の周囲に杭は打ち込んだけれど、針金で囲うのは今日から始める予定だった。もっと早く作業をしていれば、せめて一部だけでも囲っておけば、と後悔をしても今更しょうがない。


 息を殺し、音を立てないように回れ右をしてそっと家の中に入って今後のことを考える。


 篭城するなら色々と道具が揃っている車庫がベストなんだろうけど、家の中に居るチーカマは外に出したくないし如何しよう。


 病院に連れて行く時に使うケージに回収して車の中に入れるか。いや、それだと俺が食われた時に逃げることが出来ないから拙いか。って言うか、俺が食われる前提の表現もだなぁ。


 老練なチーカマの事だから上手く逃げおおせるかもしれない。家猫だから自分で餌を獲るのに苦労するかもしれないけれど、身動きが取れないよりはマシかもしれん。


 最悪の時は、上手く家から脱出してくれ。そんな淡い希望を持ってそのままにすることにした。


 では、車庫に移動しますかね。そっと玄関の扉を開けて、敷地の外の様子を伺いながら抜き足差し足で車庫に移動した。


 間の悪い事に、車庫の勝手口の扉を開ける寸前、門から中を覗いていた狼と目が合った。獲物を発見して仲間を呼ぶような遠吠えを上げられてしまった。


 それを見て俺はもう形振なりふり構わずに、勝手口から入って「急がなければ狼に襲われる」そんな思いを抱き焦りながら、中にある武器になりそうな物を探して視線を動かした。


 最初に目に付いたのは黒の軽自動車、白い軽トラック。自動車でロードキルしまくれば……って周りは草を刈って切り株だらけのオフロード。駄目だ、ウチに有る車じゃとても走れる環境じゃない。


 そもそも、それなりの大型バイクにすら当たり負けするんじゃないかってぐらいの車だ。それに軽自動車の車体も柔らかい。幾ら生体の狼に体当たり出来たとして、最初はなんとかなるかもしれないけれど、数をてれば相当に凹むだろうし、自走すら怪しくなるだろう。そこを襲われればひと溜まりも無い。


 農業用ドローンは、構造が脆いからぶつける事すら適わない、辺りを探る偵察用ぐらいにしか使えない。鉈……を使うなら発動機付きの草刈機がマシだろう。だが、どうだ? メインパイプが細過ぎて頼り無さそうだ。ならばと、ゴッツい見た目でこれしかなかろうと、チェーンソーに手を掛けた。


 悪戯する子供も居ないし、直ぐに使うと思って燃料を抜いていなくて良かったと思いながら、焦る心を抑えながら地面に置いてハンドル下部に足を、フロントハンドルに手を掛け固定して、スターターハンドルを思いっきり引く。


「よーし、一発でエンジン始動」


 思わず笑みがこぼれる。ホラー映画なんかだとらし演出で大概起動せずに二度三度ってスターターハンドル引いたり、車だったら何度もキュルキュル音させながら鍵をひねってたりするんだよな。


 そんな他愛もない事を考えながら、チェーンソーのリアハンドルを握りスロットルレバーを引くと小気味よい軽めのエンジン音を響かせながらガイドバー上のソーチェーンが勢いよく回りだす。


 さっきまでビビッてたのに武器になる物を手にした途端に気分が高揚する。威嚇するつもりで暴走族みたいな音の緩急を付けながら、狼が集まってきている門の前へ向かう。狼も若干後退あとずさりして引いているようにも見えるけれど、今なら神も殺せそうなそんな気分。


「男には、やらなきゃいけない時も、有るっ!」


 俺はチェーンソー抱えて門の入り口に立って集まってきた狼と対峙する。狼得意の集団戦で囲うにしても、左右の生垣が邪魔をして簡単には越えてこられないだろう。ここで一対一のタイマンで迎え撃つ。


 様子見の攻撃か、或いは鉄砲玉か、後から来た集団の中から一匹が唸り声を上げて襲い掛かってきた。俺はそれに合わせチェーンソーを構えてスロットルレバーに添えた指に力を入れる。


「ギャン!!!!」

「……、っ!?」


 狼が門の入り口に飛び込んできた瞬間、見えない壁にぶつかったかのように弾かれた。これは、もしかして……。


 それを見ていた狼の集団は堰を切った様に門の中へ向かって飛び掛ってくる。が、やはり入り口で弾かれている。


「…………ふ、ふへへ。脅かしやがって」


 あー、怖かった。俺は悪役染みた台詞を吐いてその場にへたり込む。物語の主人公が大技を決めようとして不発。悪役が身構えていたけれど何も無かったことに安堵して、その台詞を吐いたら時差で技の効果が発揮される。みたいな、そんなフラグナイヨネ? ……謎のバリヤーさんいきなり無くならないよね?


 ……って言うか、これってもしかして謎のバリヤーさんのお陰で家の敷地に入れなかったから周りをたむろしていた、とか? 虫どころか狼クラスの大きさにも対応出来るのか。なんにしても助かった。


「イージーモードさいこー……」


 幾度も壁に突っ込んでくる狼を見ながら、俺は力無く地面にへたり込んだ状態で棒読み気味にそう呟いた。

我が妄想……でした。

読んで頂き有り難うございます。

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