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第003話 転移一日目 三

 早速、庭に出て農業用ドローンの準備をする。


「……なんで田畑も無いのにドローンなんて物が有るのかね」


 農業用ドローンのセッティングをしながら、理由は知っているけれど、毎回使う度に思った事が言葉として口から漏れる。


 何故、家に農業用ドローンが有るのかは単純な理由で、それを購入したのが親父だったからだ。なんでも親父の代で爺さんの実家、以下、本家とする。に田畑を譲った際、地区の若者が少ないから農作業を手伝って欲しいって話になったそうだ。


 ウチの地区では高齢化が進み、男手は幾ら有っても足りないのが現状。春先、夏場、秋口の道路沿いの草刈も地区の男全員が参加していた。その面子めんつを見ればほぼ地元老人会に変わりなく、若者と言えば親父の年代を指すぐらいだ。


 本家は地区のご意見番みたいな役割もしていたので、結局、断る事も出来ずに手伝いをする事になったそうだ。ただ、ここで親父の面倒臭がりな性格が発揮されたらしい。


 田植え、稲刈りはまだ機械に乗って操作するので楽だけれど、肥料を撒く時に農薬散布の機械を背負って田んぼの中を何度も往復しなきゃいけない。


 そこで親父は田畑を譲った時のお金で最近流行の農業用ドローンを購入を決めたそうだ。確か、新車の軽自動車が買えるぐらいの値段だった筈。それを足りない分も補填して一括払い。きちんと講習会に参加して技術認定も取得したらしい。


 親父が農薬散布の手伝いに行った時は、補助の人と一緒に農業用ドローンの面倒を見ながらも、その場から殆ど動かずに作業をこなしていたそうだ。


 それを見ていた地区のみんなから頼まれるようになって忙しくしていたのは本末転倒だと思うけれど。他にも飛ばす為に色々な手続きが必要だから俺としては別な意味で面倒臭い気がする。


 そして、親父が死んだ後、それを俺が引き継いで、色々と世話になった本家や地区の他の家の農作業の手伝いに、休みの日限定だけれど、刈り出される事になった。


 本家の小父おじさんは俺が農業用ドローンを操作している横で「楽をする為のお金と労力の使い方は見習わなければいけないな」と親父の思い出話を語りながら感心していた。


 一応、俺も親父の真似をして面倒そうな農業用ドローンを本家の小父さんに譲る話をしたけれど、上手くかわされ、し崩し的に農薬散布の手伝いをする羽目になってしまった。俺も技術認定書取得したよ。


 さて、運行前点検を終えて、手にしたモニター付きコントローラーを操作する。


 本来は二人以上で運用しないといけないんだけど、今は非常時なので見逃して欲しい。尚、航空機等の飛行空域や家屋が密集している場所、百五十メートル以上は飛行禁止区域に当たるので特別な許可がないと駄目だった、筈。


 ローターを起動させて農業用ドローンを飛ばす。目視で約百メートルぐらいの高さだろうか。本来の使用ではそこまで高く上げる必要はないんだけれど、今回は別の目的でそこまで上昇させた。


 若干、上空で風に煽られている感じだけど上手く操作してホバリングさせる。農業用ドローンの動きに注意しながら手元のモニターを見ると、搭載されたカメラの捉えた風景が映し出されていた。


「…………」


 遠く周囲を小高い山が囲うように存在していて、その向こう側がどうなっているのか判らないけれど、視認出来る範囲では、起伏が少なく見渡す限り木で覆い尽くされている。


 農業用ドローンを旋回させて四方を映し出してもそれは変わらず、如何やらここは地形的に小高い山に囲まれた盆地みたいな場所らしい。


 そこを覆い尽くし広がった森? 樹海? の中で、我が家の敷地だけが四角い形で切り取られ場違いな空間を作り出していた。


 山の向こう側に更に高い山の峰が連なって見えたけど、これも普段、家の界隈では見た事の無い形をした山々だった。家の外に出て確認した結果、更に訳が判らなくなった。


「……ここって何処なんだ?」


 俺の呟いた言葉に誰かが答えてくれる訳でもなく、空に見える太陽は眩しく、緩やかな風の流れが頬に触れて、木々の葉が擦れ合いさわさわとした音を立てている。味覚と嗅覚は……少し青臭い匂いがするけれど、吸い込んだ空気が美味かった事にしておこう。


 そう、身体の五感がこれは現実だと教えてくれている。


「……現実、なんだよなぁ」


 そんな言葉を吐いて、そんな結果をもたらした空中でホバリングしている農業用ドローンをしばし見上げる。


 この間、絶望感と言うよりも虚無感に襲われていたので、無意識の内に農業用ドローンを着陸させて後片付けを終わらせていた模様。


 俺は何時の間にか家の玄関に立っていて、閉めた扉の音でようやく我に返り、ドローンをちゃんと片付けたのか、片付けなかったのか、曖昧な記憶しかなかったので、車庫まで再確認しに行ったのはご愛嬌。


 家の中に戻って、居間で食後の毛繕けづくろいをしていた、現在、唯一の心のオアシスであるチーカマを抱き上げて外での出来事を報告する。


「……と言った具合だ。チーカマよ、如何しよう。ここは俺達の知らない場所だ」

「ニャー」


 暫く眠そうな顔をして俺の話を大人しく聞いてくれていたけれど、最後に「私は眠いんだ、さっさと降ろせ」みたいな抗議の鳴き声を上げただけだった。連れないヤツめ。


 チーカマをそっと床に降ろして解放してやる。彼女は身軽な動きで部屋の隅に据え付けた猫タワー中段にある箱の穴に入っていく。そこから長い尻尾を出したまま寝るようだ。


 家猫のチーカマには外が如何なっていても関係ないか。まだ午前中なんだが、これから寝るとか羨ましい限りだ。……そう言えば俺もさっき寝ようとしたっけ。猫のことは言えないな。


 ……実際問題、家のインフラが、ガスは兎も角として、汲み上げている地下水の出所さえ怪しくなった。そして謎の電力で稼働中の水道ポンプや家電が何時まで使えるか判らない。


 むしろ、いつ停まってもおかしくないと考えられる。


 こうなるとリフォーム時に、予算の都合上諦めてしまったが太陽光発電のソーラーパネルを無理してでも設置するべきだったか。震災時の教訓もあった筈なのに活かせなかった。


 取り合えず、地下水を汲み上げられる内に、何時まで動いているか判らない水道ポンプを使って出来るだけ水の確保を優先するか。

我が妄想……でした。

読んで頂き有り難うございます。

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