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第013話 転移十六日目 四

 廊下の壁から警戒心を含んだ瞳でじっと見ていたチーカマに、話が通じたか判らないけれど状況の説明をした。


 足を拭き終えたソーニャはチーカマの姿に驚いていたけれど、ウチの飼い猫だと紹介して納得してもらった。


 バケツとタオルは後で片付けるとして、俺とソーニャ、チーカマの二人と一匹で台所に向かい、ソーニャにはテーブルの席に着くよう勧めた。


 そして、冷蔵庫からペットボトルの痩せられるかもしれないお茶を取り出して、コップに注いで渡した。


 最初、おっかなびっくりな感じでコップに口をつけて飲んだけど、どうやら喉が渇いていたのか一気にあおって飲み干していた。


 間を置かず、空になったコップへペットボトルに残っていたお茶を注いで、新しいペットボトルを蓋を開けて出し、「お代わりが欲しかったら自分で注いでね」と、テーブルの上に置いた。「ただし、晩御飯もあるので飲むのは程ほどに」と、付け加えておく。その言葉が効いた、或いは遠慮したのか二杯目はすぐに手をつけなかった。


 さて、晩飯の準備だ。っと、その前に足元でまとわり付いてくるチーカマにカリカリを出してお皿に投入して与える。チーカマは待ってましたとばかりに、顔をお皿に突っ込んで食べ始めた。


 台所のオープンキッチンに立つ。フライパンを持ってガスコンロへ向かってテーブルに置いていた肉を使って肉野菜炒めを作り始めた。換気扇を回していたけど、台所に豚肉の焼ける匂いに混じって調味料や胡椒の空腹を刺激する匂いが漂った。


 出来上がりを深皿に盛りつけして、レトルトの味噌汁も添える。ソーニャにはスプーンとフォークをつけて渡すと早速食べ始めた。お腹が減っていたらしい。


 ご飯は炊く時間が無かったのでなし。それでも結構な量を作ったのでお腹いっぱいになるだろう。俺もテーブルに着いて頂きますといって食べ始める。会話のない静かな食事の時間が終わる。


 食後の一服という事で、俺もペットボトルのお茶を用意してコップに注いだ。そして、ソーニャからここに来た経緯を聞くことにした。


 曰く、森の中で薬草の採取中に狼に襲われて、仲間たちと逃げ回ったけれど、途中ではぐれてしまった。


 自分は運よくこの家に辿り着くことができたけれど、仲間たちはまだ森の中を逃げ回っているかもしれない。だから見つけて助けてほしい。


 そんな内容で庭で聞いた話に少し情報が加わっただけだった。


 テーブルに付いてから今まで、ソーニャは言葉にはしなかったけど、心ここに在らずといった感じで終始落ち着きがなかった。内心では話し終えた今も友達の心配をしているのだろう。


 悠長に晩御飯を食べている余裕はない。今すぐにでも探しに行きたい。そんな感じに見えた。


 それでも俺の答えは決まっていた。


 夜の森は危険だ。暗い所為で痕跡を見逃す可能性。そこから彼らの存在を見落とす可能性。更に最悪なのは自分の位置を見失い遭難する可能性。


 出かけるなら陽が出る時間帯の朝早く、明るくなってからの方がいい。ソーニャは眠れない夜になるだろうけどそこは我慢して欲しい。そう強く説いて半ば強制的に納得させた。


 怒ったつもりはないのだけど、気落ちした姿を見ると、すぐに動けず申し訳ない気持ちになってくる。


「…………」

「…………」


 その所為か、俺もソーニャも言葉無く沈黙が続く。そんな状況にえられらないのと、ソーニャの気持ちを少しでも紛らわせられたらと、話題を変えてここら辺の地理と街での生活や身の上の話を聞くことにした。


 気落ちしていたソーニャは、それでも俺の言葉を聞いてくれて尋ねたことにポツリポツリと答えてくれた。


 まず、場所のことについて尋ねた。


 これは今後において近隣の住人と、平穏で穏便な付き合いが出来るといいいのだけど、どう関わり合いになるかを考える上でも参考になる。


 如何やら農業用ドローンで見た小高い山の陰に人の住む集落……街が在るらしい。名前はデャバランと言うそうだ。


 デャバランは王都ウンドゥールから遠く離れた国境沿いの街になるらしい。辺り一帯は辺境伯が治めているという。この事から国を統治する王様が居て、その配下に貴族たちが存在するようだ。


 アニメや漫画、ラノベなんかの知識を元にすると、上位の者による理不尽な要求やら無礼討ちなどの、この上なく平民の命が安そうな世界を想像してしまう。


 ソーニャはそのデャバランの街で仲間たちと一緒に仕事斡旋組合に加入しながら様々な仕事をしているとのこと。


 仕事斡旋組合に登録されている仕事は多岐に渡っていて、色々な仕事に従事していく中で自分に合った職を見付けて就いていくのだそうだ。


 それの話を聞いて、仕事斡旋組合を職業訓練と就職活動を兼ねたハローワークみたいなものだなと思うに至っった。


 仕事に就ける年齢が成人年齢でもある十三歳から。そして、どうやらソーニャとその仲間たちは成人前らしく、その仕事斡旋組合を通して仕事をもらい、今はまだ自分に合った職業を探している身なのだそうだ。


 ……そうか、異世界の子供たちは十三歳で成人を迎えて仕事を始めるのか、なんて逞しい。


 俺がソーニャと同い年の頃なんてなぁ、なんて心の中で当時の自分と比べようとしたところで、そこでふと日本の法律や条例を思い出した。……ソーニャが成人前ってことは未成年、十三歳未満なんだよ。……あれ、俺ヤバくね?


 一応、保護したつもりで家の中に招き入れたけど、視点が変われば誘拐とか未成年略取的な犯罪にされるんじゃね? 例えばソーニャのご両親にすれば。


 ソーニャやその仲間たちが夜になっても帰ってこないてなると、ご両親や街の人たちが探しまくってるんじゃね? えっ、だよ、見知らぬ土地で犯罪者になるの。


 そんな思考がぐるぐると渦巻き始め、背中に流れる嫌な汗を感じながら、それでもなんとか上辺を取り繕いながら会話を続ける。


 当然、聞くのはそのご両親のこと。夜になっても帰らないと心配しているんじゃないか。そんな感じで。


 ソーニャは最初自分のことを語らず、はぐらかすように仲間たちの両親の話をした。


 仲間たちの父親たちは街の自警団や猟師組合に所属していて、母親の方は食堂の接客業や衣類の縫製業務をしているのだとか。


 そんな両親の影響で、仲間たちと一緒に仕事斡旋組合で成人前の見習いとして、簡単な作業や仕事に従事して色々と経験を積んでいるそうだ。


 ただ、そこにはソーニャのご両親の話はない。改めて尋ねてみると、少し間を置て、寂しそう話してくれた。


 ソーニャのご両親はおらず街の教会が運営する孤児院暮らしだそうだ。成人したらなにかしらの職に付き早く孤児院を出て独り立ちしたいと教えてくれた。


 ……どうやら地雷を踏んでしまったらしい。俺の馬鹿っ。


我が妄想……でした。

読んで下さりありがとうございます。

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