暇つぶしつぶし
僕に与えられた時間は僕のもので、その時間を『暇である』と定義したのも僕だ。
よってその暇をつぶす権利があるのも僕だ。
僕はそう、『奴』に再三伝えてきた。
しかしどうしたことか、『奴』は僕の暇を嗅ぎつけてはやって来る。
『奴』というのは、それには性別がない。いや、正しくは定まっていないのだ。
時には学校の先生であったり、母方の叔父であったり、はたまたグラマラスな女性だったりする。
美味しそうな匂いで迎えてくれることもあれば、やたらと僕を急かしたりもする。
小説を読もうとしても、テレビを見ていても、『奴』は容赦なくやって来ては僕の暇つぶしの邪魔をする。
僕はある日『奴』に言った。
どうして僕の邪魔ばかりするのか。僕は自分の暇をつぶすことさえ許されないのか。
『奴』ーその日は同じクラスの女子だったーはこう答えた。
それは貴方が抗おうとしないから。私の邪魔を防ぐ方法は幾らでもあるはず。
なるほど、それもそうだ。
そんなことを考えているうちに彼女はいなくなった。
いつもこうだ。『奴』はふらりと現れては気付かぬうちに消えていく。厄介な奴だ。
次の暇な時間を、僕は万全の体制で迎えた。
コーヒーにお菓子、ゲームに漫画。それだけでは飽き足らず、昔のアルバムまで引っ張り出してきた。
およそ『奴』とは無縁の物を並べ、意気揚々と暇をつぶし始める。
『奴』は来なかった。
遂にやった!『奴』の撃退に成功したのだ!
喜びも束の間、その日の夜は今まで経験したことのない絶不調に襲われた。
なんだか頭がぼーっとして、思考速度が格段に落ちているのがわかる。
気付くと、目の前に『奴』がいた。今回は部活の先輩の姿をしている。
やはりお前には俺が必要なんだ。お前、俺のことが好きなんだろう。
そんな、そんなはずはない。僕が『奴』を好きだって?笑わせる。そんな風に思ったことは一度も…。
いや、果たして本当にそうだろうか。
『奴』と一緒にいると、時には現実ではあり得ないような体験をすることもあったけど、振り返ってみればそれも良い思い出で、『奴』と一緒にいると、心が安らいで、『奴』と一緒にいると…。
僕、貴方のことが好きだ。何よりも、大切に想っている。
僕の言葉に、先輩は微笑んで言った。
こんな俺を受け入れてくれて、ありがとう。
僕は、先輩の胸に飛び込んだ。
それ以来、僕は自分に正直に生きることに決めた。
やはり無理をするのは良くない。
僕の一日の予定の中に、『昼寝』が追加された。
『奴』の正体、分かっていただけたでしょうか…。
ちょっとぼかしすぎた気もするので「意味わかんねえよ」という方は何かしらのリアクションをいただければ幸いです。