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年下の上司  作者: 石田累
79/202

extra2 復元ポイント(17)

 朝―― 普段から誰よりも早く起きる果歩は、その朝も、5時前に目が覚めていた。

 正確には、目が覚めてから、携帯を目元まで近づけてようやく時間を知ったのだが。

 ――真鍋さん……。

 ぼやけた視界で、真鍋を探す。

 探すまでもない、温もりで判っている。私の隣で眠っている人……。

 彼が起きない内に、早くコンタクトを入れてメイクを直さないと。

 昨夜、眠りに落ちる前にもう一度シャワーを浴びると言って素早くコンタクトを目から外した。裸眼で部屋に戻るのは恐ろしかったが、ベッドにもぐりこめば、力強い彼の腕が守ってくれる。

 が、そのまま眠れると思ったのは、ちょっとした誤算だった。

 電気を消して、おやすみまで言ったのに、どちらからともなく抱き合って、―― 果歩は抱き合うだけで十分だったが、男はそういうわけにはいかないらしい。

 2度目は……多分、真鍋にかなり余裕があったから……。

 その時のことを思い出し、果歩は頬が熱くなっている。ああみえて、実はかなりエッチな人だったんだろうか。いや、それともそういうものなのかな、男の人って。

 と、いつまでも感慨にふけっているわけにはいかない。

 ベッドからそっと抜け出そうとして、彼があまりに深く熟睡しているのに気がついた。真鍋さんの寝顔―― こんな時でないと、もしかすると二度と見られないかもしれない姿。

 そろそろっと顔を近づけてみる。強度近視の果歩が、真鍋の顔をしっかり見るには、かなりの近さまで顔を寄せなければならない。

 身体の上に覆いかぶさるようにして、そっと顔を見下ろしてみる。

「あ、顎髭……」

 果歩は感嘆のあまり、思わず低く呟いていた。彼の綺麗な顎に、薄く髭が生えている。これは、すごい発見だ。人形みたいに綺麗な真鍋さんの顎に髭だなんて。世紀のスクープかもしれない。

 真鍋はまだ、無防備な横顔を見せて眠っている。果歩は自然に微笑していた。

 ――子供みたい……。

 なんだか嬉しい。嬉しくて、愛しい。その気持ちのまま、顎に軽くキスをしていた。少しだけざらっとしている。その感触が、心地よかった。

「………?」

 さすがに気配に気付いたのか、低くうめいた真鍋が薄く目を開ける。

 彼は、覆い被さる果歩を見て、しばらくそれが、現実だと判らないようだった。

「……何してるの」眠そうな声だった。

「すみません、見てました」

 まさか顎髭に見惚れていたとは言えない。

 彼が寝ぼけている内に、と、果歩は逃げるようにベッドから降りた。

「顔、洗って来ますね。まだ早いから、寝ていてください」

 もしできるなら、朝食は私が作りたい。昨日は散々お世話になったから―― 。

 急いでコンタクトを入れて、最低限の、けれど手が抜けない所は完璧にメイクする。

 2階で着替えを済ませた時、扉が閉まるような音が階下で聞こえた。

「……真鍋さん?」

 嫌な予感を覚えて1階に降りると、彼の姿はどこにもなかった。部屋には、きちんと折りたたまれたベッドカバー。彼が履いていたスリッパもなくなっている。

 どこ……?

 キッチンを探そうとして、ふと気づいている。

「…………」

 そうだ。あれだけ恐れていた朝がきたのだ。

 あまりに幸福だったから忘れていた。私は昨日、言い方は悪いが彼のものになったのだ。もし、彼が……彼の言うように、そうなった途端に、女性に愛を感じられなくなるのなら。

 カーテンが舞い上がる。風が、潮の匂いを運んでくる。

 どうしていいか判らない、途方に暮れたような気持ちのまま視線をあげると、緑の木々の間に、長身の真鍋の背中が見えた。

 果歩は、ベランダに飛び出している。

 ―― 雄一郎さん……。

 昨日、散歩したから、彼の行く道が浜に続くのは判っている。

 不安と覚悟を噛みしめたまま、果歩も急いで階下に降りていた。

 

 *************************

 

「やぁ、君も来たんだ」

 振り返った真鍋は屈託のない笑顔を浮かべていた。

 朝の陽ざしが、白い浜いっぱいに降り注いでいる。海は青く、空も空気も澄み切っていた。海にはきらめくような光の粒子が躍っている。

 真鍋は白いコットンシャツに、ジーンズという姿だった。髪は風になぶられ、眼鏡は掛けていない。

「もう少し、準備に時間がかかると思ってたよ」

「朝ごはんなら、まだですけど……」

 どきり、としながら果歩は答え、彼の傍らに足を進めた。

「それなら、食べに行こう。焼き立てのパンを出す工房が近くにあるんだ」

 真鍋は、片眉だけで笑って見せた。「俺が言ったのは、君の支度のことだよ」

 そんな呑気なこと言ってる場合かな。

 しばらく黙っていると、彼の手が果歩の手に触れた。指をからめてしっかりと握り締められる。

「少し歩こうか」

「……はい」

 彼の結論を聞くのが怖かった。あれだけ優しくて情熱的だった人が、本当に変わってしまうものなのだろうか。彼は、自分のことを病気だと言っていたけれど……。

「どこまで行くんですか」

「もう少し先だ」

 真鍋は、海とは逆の方に、果歩の手を引きながら歩いて行く。

 林道を抜け、小川のせせらぎ沿いを歩く。2人で過ごした別荘は、とうに通り過ぎている。

 しまった。朝の日差しって、結構紫外線きつかったんだっけ。顔以外はノーケアだ。まずい。

 てゆっか、この深刻な状況で、割と無駄なことが考えられる私って……。

 不意に、一面の緑に出た。せせらぎが途切れた小高い丘の傾斜一杯が、クローバーで埋め尽くされている。

「変わらないな」真鍋は呟き、遠い、何かを懐かしむような目で空を見上げた。

「ここに、よくピクニックに来たんだ。子供の頃、大勢で」

「…………」

 もしかして、彼が大切に持っていたしおりに挟まれたクローバーは……。

 果歩は黙って、真鍋の手の温もりだけを感じている。

 真鍋もしばらく黙っていた。

 彼の目にあるのが、決して懐かしさや喜びだけでないことが、果歩には判った。

 何年も放置されていた別荘。封印された部屋。昨日、この辺りなら散々歩き回ったのに、真鍋はあえてこの場所を避けているようだった。そして、一緒に写っていた写真の女性。

 あれは、真鍋の母親ではない。……あの女性は、もしかして……。

「しおりの、クローバーは」

 勇気を振り絞るような気持ちで、果歩は訊いた。

「ここで、摘んだものなんですか」

 真鍋はただ、微笑するだけだった。

「今、探したら、見つかるかな」

 その呟きが子供のように心もとなかったので、果歩は彼の手をそっと握りしめている。子供だった彼が見つけることのできなかった、四つ葉のクローバー。

「探しましょうか、一緒に」

 果歩を見下ろした真鍋が、わずかに逡巡するような眼差しになる。が、彼はすぐに、微笑して首を横に振った。「いや、いいよ」

「そうなんですか」

「うん、……もういいんだ」

 それでも、彼はそのまま、動こうとせずに立っていた。

 果歩も黙って傍にいた。

 彼は、―― 何か、果歩には判らない感情のけりをつけるために、この場所に来たのだと思った。もしかすると、最初からこのためだけに、2人の旅行先を決めたのかもしれない。

 不意に切なさがこみあげ、果歩は真鍋の腰に両手を回していた。

「……雄一郎さん……」まだ、そう呼んでもいいのだろうか。

 背中に、そっと手が回される。髪に、彼の唇が触れるのが判った。

「私……」―― 私。「どうすれば、いいですか」

「傍にいてくれ」

 返事は即座に返された。

「俺から離れないでくれ。何があっても、傍にいてくれ」

「…………」

 いいんですか。

 ぐっと唇を引き結んでも、涙がじわっと視界を揺らした。本当に、私なんかでいいんですか。

「俺は弱い、……君を好きになって初めて、それが判った気がする」

 髪を撫でながら、真鍋は囁いた。

「目が覚めて君を見た時、俺がどれだけ嬉しかったか、口で言っても判らないだろうね。俺は、本当の意味で誰かを好きになることなんて、絶対にないと思ってた。でも、そうじゃなかったんだ」

 ―― 雄一郎さん……。

「今朝は、夢もみなかった」

「―― 夢……?」

「すごくよく眠れたよ。……君のおかげだ」

 なんだろう。意味はよく判らなかったが、彼が心から安らいでいるようなので、果歩は胸がいっぱいになっていた。

「寝起き、不機嫌そうだったから」

 涙を懸命に笑いに変えて、果歩は続けた。

「しかも1人で出てっちゃうし、てっきり嫌われたんだと思ってました」

「頭を冷やしたかったんだ」

 真鍋はからかうような眼差しになる。

「あのまま部屋にいたら、また君をベッドに連れて行きたくなるからね」

 それには、咄嗟に返す言葉が見つからなかった。

「そ、そそ、そうなんですか」

 やっぱり、本性はエッチな人……? どうしよう。昨日のことを思いだしちゃった。なんだか顔が……まともに見られそうもない。

「……戻る?」

「い、いえいえ、天気もいいし、もう少し歩きましょうか!」

 なんだか変なテンションのスイッチが入ってしまったみたいだ。

 それでも、真鍋から離れたくなくて、いつまでも果歩は彼の胸に寄り添っている。

「……ただ」

 真鍋が、低い声で呟いた。

「俺は、それでも、君のために、全てを捨てることができない男だ」

「…………」

 どういう意味だろう、それは。

「君の幸せのためには、うちの会社と縁を切ったほうがいいことは判っている。……詳しくは言えないが、冬馬叔父も、義母も、俺が会社に残っているから、あれこれちょっかいを出してくる。君のことが公になれば、きっと君にもなんらかの圧力がかかるだろう」

 圧力……?

 意味はよく判らなかったが、冬馬叔父―― つまり吉永という男の嫌がらせなら、今回のことで骨身にしみて判っている。

 しかも、吉永は、果歩と真鍋の決定的な写真を握っているのだ。真鍋は全て焼き捨てたと言ったが、渡された写真が全てだという証拠は何もない。

 つまり、彼は依然、果歩にとっては致命的な秘密を握っている可能性が高い。

 それは、―― もしかすると、吉永と真鍋の対立が続く限り、永久に色あせない脅迫になるのではないだろうか。

 はっきりとそうは言わないが、真鍋の口調の暗さも、そのことを暗に示しているような気がする。

「真鍋さん……私」

「……何?」

 彼が微笑して見下ろしてくれる。果歩は唇を開き、が、口に出しかけたことを、そのまま心に飲みこんだ。「……いえ、なんでもないです」

 吉永さんはともかく、真鍋麻子さんは―― あなたの義理のお母さんは、本質的なところで、いい人なのではないだろうか。

 そう言ってあげたかった。でもそれは、彼女と一度しか会っていない他人が口を出すようなことではない。

「私……、私のために何かを変えてほしいなんて、そんなこと、思ったこともありませんから」

 彼の胸に頬を寄せながら果歩は囁いた。多分、これからも思わない。

 結婚は、したくないと言ったら相当の嘘になるけど、果歩にしても、それで仕事をやめようとは思っていない。

「大丈夫です。自分のことは、自分でなんとかしますから。私も……」

 離れたくない。

 もう、この人の傍から離れたくない。

「雄一郎さん……」

 抱きしめて、抱きしめられる。それでも、何かが不安でもどかしくて、果歩はいっそう強く真鍋の身体を抱きしめた。

 ……離さないで……。

 私を、こうやってずっと捕まえていて―― 。

 

 *************************

 

「……麻子」

 隣室から返ってくる返事はない。

 ややあって「どうしたの? 今から出かけるんだけど」玄関から、やや大きな声が返された。

「いや―― いい」

 独り言のように呟き、真鍋正義は、テーブルの上に置かれた写真を見つめた。

 冬馬に連絡を―― いや、もうそんなことはどうでもいい。

 真鍋は電話に手を伸ばし、忠実な秘書の番号をコールした。

「御藤か」

 3コール以内で電話に出た男は、即座にボスの機嫌の悪さに勘付いたようだった。

「すぐに自宅に来い。課長も呼べ」

 短く告げて、電話を切る。

 初めて、怒りが指先まで込み上げてきた。

 真面目な子に見えたが―― とんだ食わせものだった。

 あれはいったい何の芝居だ。俺を誰だと思って、あんなくだらない真似をした。

 ――雄一郎が、誘惑したか。

 そんな愚にもつかない噂を、そう言えば耳にしたことがある。その時は、まさかあんな地味な娘を、と鼻で笑っていたのだが。

 目を眇め、写真の中の女を見つめる。雄一郎に遊ばれてのぼせあがったか。馬鹿馬鹿しい、役所の小娘の分際で、愚かな―― 。

 ふと、思い出すのさえ禍々しい一人の女の面影が、写真の横顔に重なって消えた。

 復讐を果たし、全てを奪って死においやってもなお、あの女の顔が、夢に出てきてうなされることがある。

(それで私に勝ったつもり?)

(あなたは、一生私の呪縛から逃げられないのよ。雄一郎の中に、私が生き続けている限りね!)

「娼婦め……」

 憎しみをこめて、正義は呟いた。

 気づけば写真を握りつぶしていた。

 女の本質とは、みな同じだ。

 しかも、呆れるほど浅慮な―― 信用するに足りない人間。そんな女を、間違っても傍に置くことはできない。

 

 *************************

 

「おはようございます」

 いつもの職場に足を踏み入れて、果歩は、すぐに異変に気がついた。

「あれ……」

 大抵、一番に来るのは果歩か、パートナーの御藤である。

 が、その朝の秘書課には、課長以下全員が出勤していた。庶務の安田沙穂の姿も見える。

 ―― なんだろう、何か大切な行事でもあったかな?

 スケジュール管理はばっちりのつもりだったけど、何か見落としでもあったのだろうか。

 が、予期せぬ変化はそれだけではなかった。

 果歩が入って来た途端、全員の表情が固まり、ひどく他人行儀に逸らされたのだ。それは、いつも仲が良かった安田沙穂も同じことで、果歩は面食らったまま、しばらくその場に立ちつくしていた。

 ―― なに……この空気?

 なんだか、入ってはいけない場所に来てしまったような……。

「あー、的場さん」

 立ちあがったのは、課長の尾ノ上だった。

「少し話があるんだが、いいかな」

「……はい」

 なんだろう。課長が私に、朝からなんの話だろう。ひどく嫌な予感がしたが、あえて気にしない風に顔をあげた。

「あ、でも少し待ってもらっていいですか。月曜は、御藤主幹とスケジュールの打ち合わせがあるんです」

「いや」即座に課長は遮った。「それはいいんだ」

「…………」

 いいって、どういうことだろう。「あの、じゃあせめて御藤さんに」

「とにかく、こっちへ」

 ミーティングルームを示される。周囲は、水を打ったように静まり返っている。

 課長に促されて応接ソファに座り、扉が閉ざされた時、――果歩は初めて、息苦しいほどの動揺を感じていた。

「的場さん」

 普段、極めて温厚で人当たりのいい尾ノ上の口調には、何かよそよそしい、まるで余所者に接するような冷たさがあった。

「大変急な話だがね、君には、今の職場を離れてもらうことになった」

「……どうして、ですか」

 茫然と、果歩は訊いた。何か、性質の悪い夢でも見ているようだった。

 それには、苦い咳払いだけが返される。

「直に、人事から正式な内示が降りると思うが、たちまち秘書役は、今日から前任の佐伯君が勤めてくれることになった。君には……」

 ひどく言いにくいことを、あえて事務的に押し切るような口調だった。

「今日から、しばらく文書整理の仕事をしてもらおうと思っている。地下倉庫の廃棄文書の整理だ。やり方は、安田君に聞きたまえ」

「…………」

 どうして、ですか。

 疑問はもう、声として出すことができなかった。

「じゃあ」目も合わせないまま、課長が席を立つ気配がする。

「あの、課長」

「それと」素っ気ない声が返された。「……君の席は、もうないんだ。荷物は安田君が整理してくれた。次の移動先が決まったら、持って行きたまえ」

 役目は終わった、とばかりに、尾ノ上はそそくさと部屋を出て行った。

 激しい動悸が、胸を震わせた。目の前が真っ暗になって、それから回り出すようだった。

 今、私はこの職場から追放されたのだ。

 市長の指示があったことは間違いない。仕事上のミス―― ? それなら、まだ納得できる。でも、多分原因はそれじゃない。

 もし、真鍋との関係が市長に知れたらどうなるか? それは、想像しなくもなかったが、ここまで厳粛な―― いっそ、憎しみさえ感じられるような報復がまっていようとは、夢にも思っていなかった。

 膝が細かに震えている。気づけば、バッグの柄を痛いほど握りしめていた。

 私……これからどうなるんだろう。

 噂はすぐに、全庁中に駆けまわるだろう。そんな惨めな状況で、私は今日から、地下倉庫で仕事をしなければならないのだ。

 市長が本気で指示すれば、人事の内示はすぐにでも出るはずだ。そうはせずに、秘書課に在籍させたまま、仕事だけを奪うということは―― 実質、果歩が自主的に退職するのを待っているのだ―― 。

 どうしよう。

 震える指で、果歩はバッグから携帯電話を取り出そうとした。真鍋さんに……電話して、今の状況を伝えなきゃ。これからのことを相談して。

 指はみっともないほど震え、何度もボタンを押し間違う。これ以上携帯を持つことができなくなって、果歩は膝に手を落としていた。

 落ち着いて……冷静になって……。

 胸を押さえ、懸命に自分に言い聞かせる。

 しっかりしなきゃ。これで、世界が終るわけでも、私の命が奪われるわけでもないんだ。

 何度か唾を飲み込んでから、深呼吸した。

 ようやく膝の震えが止まり、気持ちが少しだけ落ち着いてくる。

 真鍋さんには、連絡できない。

 無駄に心配をかけるだけだ。そうだ、私は彼に言ったのだ。自分のことは自分でなんとかするからと。

 扉が外からノックされる。「的場さん……」

 安田沙穂が、申し訳なさそうな顔を覗かせている。

「……あのさ、市長が出てくるまでに、下に移ったほうがいいと思うから」

「………はい」

 気持ちを静めて立ち上がる。「忙しいのに、すみません。よろしくお願いします」

 精一杯の気丈を装って顔を上げると、沙穂が、少し驚いたように眉をひそめるのが判った。

「本当に大丈夫? 今日は、年休取って帰った方かいいんじゃない?」

「大丈夫です」

 彼のためにも、強くならなきゃ。

 とにかく今を、一日一日を乗り切っていくしかないんだ。

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