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8 出会いイベント3

登場人物がややこしいので関係図載せときます。


《既存のゲームの組み合わせ》

王太子アラン×婚約者スカーレット


騎士団ロン×幼馴染ヨハナ


化学教師ホアン×再従兄妹アリシア


女たらしシド×義妹ソフィア



《プログラマーがくっつけようとしている組み合わせ》

王太子アラン×アリシア(ホアンの相手)


騎士団ロン×ソフィア(シドの相手)


化学教師ホアン×ヨハナ(ロンの相手)


女たらしシド×スカーレット(アランの相手)


「女性が喜ぶプレゼントとは何だ?」


 昼休み、ヨハナが生徒会室で書類をまとめていると、ロンはわざわざ来て尋ねた。

 ヨハナは椅子に座ったままロンを見上げた。

 生徒会室は、学生達が学ぶ棟とは別棟にある。偶然通りかかる可能性はゼロであり、意図的にヨハナを捜して聞いた質問だとわかった。日々多大なアピールをしていると言うのに、まさか他の女へのプレゼントだとは思わない。既存ゲームのヨハナが自分への誕生日祝いと勘違いしても仕方ない話だ。


「それは誰に贈るプレゼントですの?」

「あぁ、カレン嬢にだ。研ぎ石を貰ってしまってな。カレン嬢が昔、近所の刀匠に貰ったもので……」

「何故、私にお尋ねになるのです?」

「ん?」


 話を途中で遮られてロンは驚いた。


「教室のご学友にお尋ねになればよろしいのでは?」

「女性のことは女性に聞いた方がわかるだろう」

「ロンの教室には女生徒はいませんの?」


 ロンはアランの護衛をしているか、騎士団の仲間と連んでいることが多いし、大概、ヨハナが目を光らせて女生徒を寄せ付けないようにしている。だが、それでも隙あらば声を掛けようと狙っている女生徒は何十人といる。ロンから歩み寄れば幾らでも応じてくれるはずだ。


「急にそんなことは聞きにくいだろう。変な誤解を生んでも困るしな」


(私なら良いってこと? 妹だから?)


 ヨハナは笑いが溢れた。


「そうですか。プレゼントでしたらビビアナ商会がよいと思います。最近流行りのブローチなんかが宜しいのでは?」

「ブローチ……それが流行っているのか? 一体どんな?」

「お店に行って店員に聞けばわかると思います。私は用事があるので、これで」


 ヨハナは机の書類を片付けながら淡々と告げると、一緒に店に付いてきてほしそうなロンを残して生徒会室を出た。

 いつものヨハナならロンが頼まずともくっついて行くはずだ。ロンはあまりに予想外すぎてヨハナの後ろ姿を見送るしかできなかった。





――どうしてブローチ勧めちゃうかなぁ。わたしのこと信じてないの?


「! 昼間も現れるの?」


 ヨハナが苛々と廊下を歩いていると、件の声が聞こえた。


――夜しか現れないルールなんて公言してないんだけど。それより、いい加減信じてくれていいんじゃない?


「……信じたからブローチを勧めたの。もうどうでもいいから。カレン嬢と永遠の愛で結ばれたらいいのよ」


――そう。なら、貴方にも運命の人を紹介するわから。二日後、昼休みに用務室へ行って。そこで凄い秘密が待っているから!


「秘密? 何それ?」


 声はヨハナの問いには答えなかった。




 二日後、半信半疑でヨハナは用務室へ向かった。気持ちに終止符を打ったとはいえ、ロンのことを考えるとどうやったって落ち込んでしまう。たとえ嘘でも、運命の人はどんな人か、と夢見る方が気持ちが楽だったからだ。

 用務室は学園の隅に設置されたプレハブ小屋だ。倉庫になっていて、基本、寄り付く生徒はいない。その上、化学教師のホアン・ジェネフィスが勝手に住みついているらしい噂で、より一層誰も訪れなくなった。


(こんなところに何があるって言うの? ホアン先生って苦手なのよね)


 ヨハナはそっと用務室を覗き込んだ。

 そこで思いもかけず話し声が聞こえて、思わず耳を傾けてしまった。


「ホアン様、私は嘆かわしいです。一国の王子ともあろうお方がこのような廃小屋でお暮らしとは! もう少しましな場所があるでしょう! 学園長も何をお考えなのか」

「ジェームズ、僕がここがよいと言ったのだ。叔父上を責めるのはお角違いだよ。それより、どうしてお前が来たんだ。今朝はアリシアの屋敷の従者が食事を運んできた。別にわざわざお前が隣国から来る必要はないだろう」

「ホアン様、アリシア様の屋敷の従者はアリシア様の屋敷の仕事をする為におるのです」


 ヨハナが会話の内容に驚いて息を呑んでいると、ジェームズと呼ばれている男と窓越しに思いっきり目が合った。しまったと思う間もなく、


「誰だ!」


 と責めるように怒鳴りつけられ足が竦んだ。部屋から出てくるホアンにヨハナはびくびくと身を震わせる。


(王子? なんなの? これが秘密?)


「話を聞いたのか?」

「……すみません。偶然通りかかって……」

「こんな場所に偶然?」


 明らかに怪訝に顔を歪めるホアンにヨハナはたじろいだ。確かに偶然ではない。だが、まさかホアンの秘密を知ってしまうとは夢にも思わない。用務室は別段ホアンの私室ではないだろう。誰も訪れないだけで立ち入り禁止になっているわけではない。責められる謂れはない気がした。そして、


「私、ホアン先生に何の興味もないので、別に誰にも言いません」


 冗談じゃないな、と思った。


(こんな男が私の運命の相手であるはずないわ)


 ヨハナは迷惑そうな表情でホアンをマジマジと見た。いつも薄汚れた白衣に瓶底眼鏡で清潔感は皆無。知識は豊富で教え方も悪くないが人好きしない性格だ。人望もあり誰からも好かれるロンとは真逆のタイプである。

 ヨハナは地位や名誉を持っている男を捕まえたいという上昇志向があるわけではない。ただ自分を特別に愛してくれる人が良いのだ。こんなところに身を潜めている怪しい王子にそれを望もうとは思わない。兎に角、退散した方が賢明だ。ヨハナは、そろりと一歩下がるも、ホアンが急に笑い出すので足を止めた。


「何がおかしいんですか?」

「いや、そんなこと面と向かって言うかな、と思って」


 ホアンは普段の印象らしくなくけらけら笑い続ける。とんでもない秘密を知ってしまい気負っていたヨハナは拍子抜けした。


「失礼。貴方はこの学園の生徒ですね。ホアン様は諸事情により身分を隠しておられます。どうかこのことはご内密に」

「わかりました」


 ヨハナが素直に頷くと、ホアンは真面目な顔になり、


「何か、礼をしなければな」


 と告げた。


「どういう意味です? 賄賂ですか? そんなもの要りませんわ。これでアリシア様がホアン先生のお世話をする意味がわかりましたからよかったです」


 ヨハナは心底納得した素振りで言った。ヨハナとアリシアは同じクラスである。それなりに会話をしたことはあるが、アリシアは昼休みや放課後はすぐに姿を消してしまうので仲良くなる機会を得られないでいた。

 ヨハナはアリシアに好感を持っている。アリシアが潔く精悍である為だ。ヨハナはロンのことで一部の女生徒から疎ましがられているし、不快な陰口を叩かれている。自分一人では何も言ってはこれないくせに集団になると威勢よく、しかしそれでも面と向かって対峙してこない令嬢達に辟易していた。だが、一方で気が滅入ることもあった。ヨハナに心を打ち明けられる友人はいない。そんなヨハナは、アリシアがホアンの世話を焼くことで変人扱いされ、ひそひそ揶揄されていることを知っている。しかし、アリシアはまるで気に留める様子はない。常にまっすぐでいる。進むべき道を進んでいるが如く迷いがない。その内心を聞いてみたかった。好き勝手言われることに憤りを感じることはないのか、と。


「アリシア? 君はアリシアを知っているのか?」

「え、えぇ。同じクラスですから」


(生徒の名前や顔などきっと一人も覚えてないのでしょうね)


「だったら、君、申し訳ないが、アリシアへの伝言を頼まれてくれないか」

「伝言ですか?」

「あぁ、放課後にここに来るように。頼むよ」


 そういえばアリシアの姿はこの場にない。昼休みはホアンの元へ来ているのだと思っていた。


「別に構いませんけれど」

「そうか! 感謝する」


 ホアンが珍しく感じのよい反応を見せる。


(本当に王子なのかしら、ちょっと信じがたいのだけれど。でも、アリシア様と話をするチャンスだわ)


 ヨハナはホアンが「運命の人だ」という声の言葉はなかったことにして、意気揚々と教室に向かった。





 教室に戻ってもアリシアの姿はなかった。昼休み終了ぎりぎりに入室して来た為、ホアンの伝言を伝えられずにいた。休憩時間もタイミングが合わず、結局、声を掛けることができたのは放課後になってからだった。


「アリシア様、ホアン先生が用務室に来て欲しいそうです」

「ホアン先生が?」


 アリシアはかなり驚いた表情を見せた。女嫌いのホアンが女生徒にそんなことを頼むとは晴天の霹靂である。本日、アリシアは一度もホアンの元へ行っていない。昨日、絶縁宣言をし帰宅後すぐに隣国へ早馬で書簡を出した。朝一で王室から返信が届き、昼にはホアン付きの執事が到着すると知らせを受けていた。その為、朝食だけはこちらで用意した。放っておけばよいとは思うが、急にそこまで非情になれない。最後の慈悲のつもりで従者を送ったのだ。そうして、アリシアは晴れて自由の身を得て、今日の昼はプレイヤーに促されるままテラスへ赴いた。そこでアランにランチへ誘われたのである。

 一体ホアンの身に何が起こり女生徒に伝言を託す経緯になったのか。アリシアが不思議な者を見るような視線を向けるので、ヨハナはぎこちなく笑うしかなかった。

 生徒が先生からの伝言を別の生徒に伝えておかしいことなど何もない。だが、急に自分が言づけを受けたとなればアリシアとしては面白くないのかもしれない、とヨハナは思った。自分がロンからのメッセージを見知らぬ女性に告げられたら苛立つのは必須だ。


「あの、」


 どう言い訳しようか口を開いた瞬間、


「有難うございます。ヨハナ様に伝言を頼むなんて申し訳ないわ。今後こんなことがあればはっきりお断りになってね。アリシア・ワトスンはホアン先生の呼び出しには一切応じることはありませんから。そう答えてくれて構いませんわ。ヨハナ様も、あの人にはあまり近寄らない方がよろしいですよ」


 アリシアが一息も休まずに告げるので、ヨハナはあっけに取られた。怒らせてしまったのか、ヨハナは咄嗟に、


「あの、私、偶然ホアン先生と執事の方の話を聞いてしまって、隣国の……ですよね」


 と早口に言えば、アリシアは一瞬目を見開いたが、


「そうだったのね。それで断れなかったのね。お可哀想に。でもね、あの人はその身分が嫌で逃げてきたの。それなのに権力をふりかざすなんて笑ってしまうわ。ヨハナ様、貴方からの伝言は確かに受けとりました。貴方が何か罰せられることは決してないので、お気になさらないでね、では」


 とにっこり微笑んで、一拍置くと去って行ってしまった。ヨハナは一言も発せられなかった。笑っているが有無を言わせぬ迫力があった。別に脅されて伝言を頼まれたわけではない。アリシアと話すきっかけが欲しかったから下心で引き受けた感はある。しかし、アリシアとホアンの間に揉め事が生じていて、それを増長させる結果になってしまったらしい。


(余計なことをしたかしら?)


 ヨハナは困惑した。アリシアは用務室には行かないのだろう。このまま放っておいて良いものか。アリシアの言葉を疑うわけじゃないが、ホアンに事実を伝えず待ちぼうけさせることは、真面目なヨハナには出来ない。


(なんだか変なことになってきたわね)


 ヨハナは仕方なく用務室へ向かった。

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