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3 ヨハナ・バークマン侯爵令嬢1

登場人物がややこしいので関係図載せときます。


《既存のゲームの組み合わせ》

王太子アラン×婚約者スカーレット


騎士団ロン×幼馴染ヨハナ


化学教師ホアン×再従兄妹アリシア


女たらしシド×義妹ソフィア



《プログラマーがくっつけようとしている組み合わせ》

王太子アラン×アリシア(ホアンの相手)


騎士団ロン×ソフィア(シドの相手)


化学教師ホアン×ヨハナ(ロンの相手)


女たらしシド×スカーレット(アランの相手)


 誰にでも優しいというのは、悪である。こと恋愛に関して言えば最悪の愚行だ。

 ヨハナ・バークマン侯爵令嬢は、その日も深い溜息をついて一日を終えようとベッドに横になっていた。

 侯爵家に生まれ、何不自由ない生活を送り、淑やかに優しい性格に育った。学校では生徒会の書記を務める才女で、皆の羨望を集めている。そんな彼女を唯一憂慮させるのが、ロン・サーフォン子爵令息である。

 ヨハナとロンは隣家に住む一つ違いの幼馴染だ。母親同士が学生時代からの友人で長年家族ぐるみの付き合いをしている。

 貴族社会には珍しく、両両親とも恋愛結婚だった為、子供達に婚約を結ばせることはなかった。しかし、ヨハナとロンが結婚してくれれば、という雰囲気はずっとあった。そして、ヨハナは物心ついた時には既にロンに恋をしていた。ロンの方も何処に行くのも後ろをついて回るヨハナを邪険にすることはなく、ずっと仲睦まじい関係は続いていた。しかし、年齢を重ねるごとにその均衡は崩れた。ヨハナがロンに抱くものは恋愛感情であるが、ロンがヨハナに向けているのは妹に対する情愛。ヨハナはそれをひしひし感じてやきもきすることが多くなった。更に、ロンが騎士団に入団してからその状況は悪化した。王太子の側近を務め将来有望の上、美丈夫。更に誰とも婚約をしていない。ロンを慕う令嬢達は増加の一途を辿るばかりだ。危機感を抱いたヨハナは、わざとらしく、自分とロンにしか分からない昔話や、家族ぐるみの仲の良さを見せつけて、事実上自分が婚約者であるように振る舞うが、


「ヨハナは妹のようなものだからな」


 というロンの一言で全て水泡に帰す日々だった。ヨハナは恋愛相手ではない、暗にそう言われている。おまけにロンは誰にでも公平に優しくする。いくら自分が特別だとアピールしたところで惨めになるだけだった。それどころか「あの完璧なヨハナ嬢を袖にして、ロンの心を捉えるのはどんな御令嬢なのだろう」と好奇の眼差しが寄せられているのも知っている。そして、そこへ最近恐れていたことが起きた。

 カレン侯爵令嬢である。学園長から世話役に任命されたのは王太子アランだが、生徒会と公務を兼任しているアランは忙しい身だ。アランに代わりロンがカレンの相手を務めることが何度かあった。嫉妬心が強いヨハナは牽制するつもりで毎回二人の間に入る。が、その都度、ロンにやんわり諭される。おまけに、カレンは貴族の令嬢にあるまじく剣に詳しかった。幼少期に暮らしていた家の近くに刀匠の工房があり、小さい頃は刀鍛冶になると毎日通っていたと言う。それがロンの崇拝する刀匠だったのだから話題は尽きない。ヨハナがまるでわからない話が眼前で繰り広げられ、三人でいるのにヨハナは蚊帳の外である。いつも自分がしてきたことだが、こんな時、ロンは周囲にもわかるような話題にするりとすり替えるはずだ。しかし、カレンとはすっかり二人の世界だった。


(ロンが剣術のこととなると周りが見えなくなるのは知っているけれど……)


――あの態度はないよ。ない、ない。ありえない。ヨハナ、貴方の運命の人はロンじゃないの。運命の人とはね、どんなに邪魔が入っても、スルスルーと上手くいくものなのよ。それが貴方達はどう? 十年以上何の障害もなく、貴方が必死でアプローチしても進展はなかった。つまりそう言うことなの! 


「誰!?」


 夜半の私室に突然聞こえた声に驚いて周囲を見渡すも人気はない。幻聴か。それにしたって随分な言われようだ。ヨハナは憤りを感じ言葉を吐いた。


「私がロンの運命の人ではないなんて、何を根拠に言うの? 何か証拠でもあるのかしら? 勝手なこと言わないでください。私はもうずっとロンを好きでいるのです!」


――長く好きだから報われるわけじゃない。貴方が一番わかっているのではない? 証拠? 証拠があれば信じるのね。いいわ、教えてあげる。明日、ロンはカレンに研ぎ石を貰うの。昔、刀匠がくれたものだけれど、ちゃんと使用してくれるロンが持っていた方がいいと言ってね。ロンはそのお礼にカレンへプレゼントを考える。それを貴方に尋ねるの。「ヨハナ、女性がプレゼントされて喜ぶものは何だ?」ってね。貴方誕生日が近いでしょ? だから貴方は勘違いして、自分へのプレゼントだと思い込むの。だから、ブローチがいいと答えるのよ。あのブローチ、わかるでしょ?


 ヨハナは声の言葉に息を呑んだ。確かに、今自分はブローチを欲している。ビビアナ商会が東洋から輸入したターコイズで出来たブローチだ。それを恋人から贈られると二人は永遠の愛で結ばれる、と最近、学園の令嬢達の間でまことしやかな噂が囁かれている代物だ。


「あのブローチをロンがカレン様へ……?」


 尤もロンは現時点ブローチを贈る意味を知らない。しかし、これをきっかけにヨハナはカレンに憎悪を向けることになる。


――そうよ。明日聞いてくるわ。だから、ブローチって答えたら駄目よ。花とかスカーフとか無難な物にしときなさいね。これが証拠! もし、尋ねられたらわたしを信じるでしょ。貴方はロンとは結ばれない。貴方はこのままじゃ独占欲にかられてカレンに酷い仕打ちをするわ。そして破滅するのよ。貴方に特別な感情を抱かないロンなんかより、いい人紹介するから! その人なら好きになった分だけ、特別な好きを返してくれるわ!


 声はそれきり途絶えた。勝手なことばかり告げる声だった。憤りと虚しさが胸に広がる。ロンは公平で優しい人だ。尊敬するに値する素晴らしい人格。しかし、恋愛においてはヨハナの欲しい言葉をくれたことは一度もない。自分はありったけの好意を告げているのに。いつかきっと伝わる。応えてくれると決めつけていた。両親だって自分達の結婚を望んでいる。何の障害もない。しかし、裏を返せば、何の障害もないのにこんな状態なのである。ロンは自分に特別をくれない。ヨハナが欲しいのは唯一それだ。恐怖で目を逸らしてきた事実をあっさり暴かれてしまった。あの声の主は神様なのか。悪魔なのか。

 このままでは破滅する?

 冗談じゃない。

 もし、明日ロンが、他の女へのプレゼントを自分に尋ねてきたなら、もう終わりにしよう。


(私はこんなに好きだと告げているのに、妹、妹って馬鹿にしているわ)


 ヨハナは真夜中だというのに、長い眠りから目覚めたように冴え渡る頭で思った。

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