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2 スカーレット・ロマニー公爵令嬢1

登場人物がややこしいので関係図載せときます。


《既存のゲームの組み合わせ》

王太子アラン×婚約者スカーレット


騎士団ロン×幼馴染ヨハナ


化学教師ホアン×再従兄妹アリシア


女たらしシド×義妹ソフィア



《プログラマーがくっつけようとしている組み合わせ》

王太子アラン×アリシア(ホアンの相手)


騎士団ロン×ソフィア(シドの相手)


化学教師ホアン×ヨハナ(ロンの相手)


女たらしシド×スカーレット(アランの相手)


――スカーレット、貴方の運命の相手はアラン・オーランドではありませんよ。


 真夜中に何処からともなく聞こえてきた声。

 スカーレットは恐怖で飛び起きた。ベッドに上半身を起こして月明かりがほのかに差し込む部屋をぐるりと見渡すが誰もいない。なんだ、夢か、と胸を撫で下ろしたのも束の間。


――アランの運命の相手は別にいて、貴方はいくら頑張っても報われないのよ! 大体気付いているんでしょ。いっつも冷たくあしらわれて惨めに思わないの? プライドは高い癖に変な風に拗らせているからアランが諦められないだけよ。貴方は本当はアランなんて全然好きじゃないの! 明日、アランの顔をしっかり見て好きかどうか確認してごらんなさい。きっとわかるわ。そしたら、他にいい人紹介するから!


 再び何処からか聞こえてきた。だが、今度は恐怖より怒りが湧いた。何故、そんな言葉を浴びねばならぬのか。


「うるさい! 何なんですの!?」


 スカーレットは気丈に息を荒げた。しんとした室内に怒声が響く。同時に、何か危害を加えられたらどうしよう? 逃げた方が良いのではないか、と急に冷静になり背筋が寒くなった。


「誰かいるの?」


 しかし、いくら待っても声の主の姿は現れず、それきり何も聞こえなくなった。




 スカーレット・ロマ二ー公爵令嬢がアラン・オーランド王太子と婚約を結んだのは八歳の時だ。

 親の決めた婚儀だったが、スカーレットはアランとの顔合わせで一目惚れをした。金髪に紺碧の双眼は、スカーレットの大好きな絵本の王子様そのものだったのである。スカーレットはアランに夢中になり、彼に気に入られるよう必死で努力した。王妃教育も文句一つ言わなかったし、アランの好みや趣味に合わせて話題を振った。いつも慎ましやかに穏やかに笑顔で接したし、ぞんざいな態度を取られても嫌な表情を見せなかった。スカーレットはアランにわかりやすいほど多大な好意を寄せていた。しかし、アランの方は常につれない態度だった。そのことにスカーレットは内心何度か心が折れそうになっていた。婚約者がいる他の令嬢と比べてみれば、いつも惨めな気持ちになるのだ。彼女達は、誕生日や記念日にはプレゼントと心の篭ったメッセージカード貰い、わざわざドレスの仕立てに付き合ってもらって、舞踏会では婚約者と楽しげに何曲も踊るのだ。一方、アランのしてくれることは、事務的にプレゼントを贈り、儀礼的なエスコートをし、ファーストダンスを一曲踊るだけ。婚約者として最低限の礼儀を欠かないことのみだった。


(アラン様はこの国の王太子なんだもの。他の令息達と同じにしてはいけないわ)


 スカーレットはそう思うことで何とか心の均整を保ってきた。しかし、最近その僅かな精神の安定さえ揺るがす事態が起きた。

 カレン・フォスター侯爵令嬢がアランと共に行動をするようになったのだ。

 最近侯爵家に養子に入ったカレンは、転入してきたばかりで、その上貴族社会に慣れていない。故に、生徒会の会長を担っているアランが学園長に面倒を見るよう指示を受けた。フォスター侯爵家は古くから王党派の権力者として王家に使える名家であることは周知されている。だから最初はスカーレットも義務的なこととして受け止めていた。そんなことで嫉妬心を抱くほどスカーレットは狭量な女性ではなかった。しかし、段々と状況は変わっていった。アランはスカーレットの話にはほぼ興味を示さないのに、カレンとの会話には明らかに好奇心旺盛な反応をみせたのである。


(カレン様のお話は下町の風変わりな習慣のお話だから、アラン様の興味を引いているだけだわ)


 スカーレットは初めのうちはそのように思い自分を律していた。だが、時間が経つにつれ親密になる二人にやきもきし始めた。以前は、毎日アランと二人でランチをとっていた昼休みも、今ではカレンと三人で顔を揃えている。二人の会話中、スカーレットが口を挟めば、折角のカレンの話の腰を折る邪魔者扱いされる。アランの自分に対する態度が以前と異なるわけではない。ただ、カレンに特別に優しいのだ。それは義務から逸脱しているように、スカーレットには見えた。

 これまでアランの周囲に女性の影はなかった。つれなくされてもそれはアランの性格上のこと、とスカーレットは気持ちの逃げ場を得ていた。でも、今は違う。スカーレットはカレンに怒りの矛先を向けそうになるのを必死で耐えていた。カレンは「昼食を一緒に」という王太子の誘いを易々と断れない立場であるし、学園長から行動を共にするように言われている。スカーレットが黙っていれば、気遣いの声を掛けてくれるのもカレンである。彼女に不躾な態度はない。だけれど、アランがこのままカレンに気持ちを傾ければ、間違いなく自分はカレンに辛く当たるようになる。そんなことは淑女としてあるまじき行為だ。公爵令嬢としてのプライドもある。苦しい胸の内を誰に相談することも出来ずに一人耐えていた。アランはどういうつもりなのか。カレンに乗換える気か。問いただすのは怖かったし、第一、それを肯定されたら、何をしてしまうかわからなかった。そんな悶々とした不安と苛立ちを抱いていた中、あの不気味な声である。


(わたくしの運命の相手はアラン様ではない? カレン様がお相手なの? ならばわたくしはこれまで何をしてきたの?)


 昨日はあのまま目が冴えて眠れず、漸く眠りに落ちたのは明け方だ。朝になってからも睡眠不足の頭でずっと思考しているが答えはでない。あの声の主は誰なのか。どういうつもりであんなことを言ったのか。


「スカーレット様? どうなさいました? 全然召し上がっていらっしゃらないようですけれど」


 カレンに声を掛けられてスカーレットは我に返った。既に昼休みである。本日も、アランとカレンと三人で王族専用のテラスにて、用意されたランチを食べている。


「顔色がすぐれないようですけれど、大丈夫ですか?」

「え、えぇ。カレン様。わたくしのことは気になさらずお話しなさって」


 スカーレットの言葉にカレンは躊躇がちにアランに視線を戻した。スカーレットもアランを見やるが、一瞬目が合っただけでアランの瞳はすぐにカレンへと移った。それから、こちらをちらりとも見ずに会話を進めている。内容は定期考査の話題だ。カレンが学園にきて初めての試験であるから、指導をするアランが一入に気にかけるのは当然だ。だが、それが何だというのか。スカーレットは思った。


(わたくし、アラン様のこの青い瞳に一目惚れしたのだわ。真っ直ぐにわたしくしを見ていた紺碧の目。だけれど、今はまるでわたくしを見ていない。変わってしまったのね。もう何年も前から。それなのに、わたくしだけが変化がない。そんな必要があるかしら?)


 アラン王太子を支えられる王妃となるように教育を受けた。アランを好きだったから努力した。ずっとそんな風だったし、周囲にもそうあるように言われた。

 しかし、たった今唐突に思った。


(わたくし、アラン様をちっとも好きじゃないわ)


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