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19/20

19 変調 4

登場人物がややこしいので関係図載せときます。


《既存のゲームの組み合わせ》

王太子アラン×婚約者スカーレット


騎士団ロン×幼馴染ヨハナ


化学教師ホアン×再従兄妹アリシア


女たらしシド×義妹ソフィア



《プログラマーがくっつけようとしている組み合わせ》

王太子アラン×アリシア(ホアンの相手)


騎士団ロン×ソフィア(シドの相手)


化学教師ホアン×ヨハナ(ロンの相手)


女たらしシド×スカーレット(アランの相手)



アリシアルートは1→4→6→12→19です。

 スカーレットにランチに誘われた。

 アリシアは、スカーレットと自分の立場を重ね、その立ち居振る舞いを観察するうちに、強い憧れを抱くようになっていたから、夢のような出来事といえた。


(スカーレット様と友達になれたら……)


 歳上の、しかも将来の王太子妃だ。流石に烏滸がましいか、と頭を振って自省する。しかし、折角受けたお誘いだ。喜びを素直に伝えて損することはない。その為には書面より直接会って返事をするのが一番いい。

 手紙をもらった翌日の昼休みに、アリシアは意を決してスカーレットの元を訪ねた。


「わざわざ足を運んでくださったのね。昨日はわたくしのせいで迷惑を掛けてしまって申し訳なかったわ」  

「いえ、そんな!」

「手紙に書いた通り、一緒にランチは如何かしら? 今度はちゃんとアリシア様の為の席をご用意させて頂くわ」

「はい! ご迷惑でなければ是非」

「えぇ、アリシア様さえよろしければ是非来て頂きたいわ。いつならご都合がよろしいかしら?」

「わたしはいつでも構いません」

「え、」

「わたし、自分のことを一番に考えることにしましたの。スカーレット様とランチをご一緒させて頂けるなら、いつでも時間を空けますわ」


 しゃべっているうちに興奮してしまい食い気味に迫ってしまった感がある。思い返すと恥ずかしいが、スカーレットが終始柔らかに笑ってくれたことに舞い上がった。楽しい予感に胸が躍る。こんな気持ちになるのはいつ以来か。スカーレットが去って行くのを見送ってうきうきした気分でいた。

 だが、その愉快な気分は教室へ戻る途中で段々と鎮静化していった。

 一つのことに集中すると他が疎かになる悪癖。スカーレットにどう返事しようかシミュレーションしていた時は気に留めていなかったが、ホアンに呼び出しを受けている。昨夜、執事のジェームズが隣国から到着したとわざわざ知らせに訪れてくれた。ホアンのことは気にしなくてよいと伝えられもした。晴れてお役御免となり安堵していたのに、今朝になって再びヨハナ経由で呼び出しを受けた。一度断ったのに、全くどういうつもりだろうか。ヨハナはホアンが王子であることを知っているため、要求を断れないのだろう。ヨハナを伝書鳩のように小間使いにしていることに苛立つ。「誰も王子としての自分しか見てくれない」から女性を嫌悪しているのではなかったか。矛盾しているではないか。もう、関わらないと決めると色々粗が見えてくる。恋は盲目だ。だが、これ以上、ヨハナに迷惑を掛けられないので、面会に応じるしかなかった。

 アリシアが教室に戻ると黒板に化学式を一心に書き連ねているホアンの後ろ姿が見えた。ホアンがこの行動に出るのは精神不安の時だ。何かあったのだろうか。急に心配になる。関係性を断つからと言っても、不躾な態度を取るつもりはない。相手は自国の王子なのだし、再従兄でもあり、幼馴染でもある。


「ホアン先生、わたしに用があるとお聞きしましたが」


 室内に一歩足を踏み入れ声を掛ける。ホアンはぴたっと動きを止めた。


「ホアン先生?」


 もう一度呼びかけると、ホアンは振り向いた。いつも態とらしいくらい猫背にしているのに、今日は普通に背筋を伸ばしている。小さい頃から教育されてきたので油断すると地が出るのだ。


「この間は、言いすぎたと思って」

「え?」

「その、君がいつも食事に気をつけてくれているのに、勝手に食べて……」


 ホアンがもごもご言う。子供の言い訳みたいで笑いそうになった。そして、謝られることではない、とも思った。ホアンの食事を毎日用意していたが、こちらが好きで勝手にしていたことだ。相手は、十九歳になる一端の男性。それを、まるで親の目を盗んでおやつを食べた子供のように叱りつけた。鬱陶しく思われて当然ではないか。怒ることの方が異常なのではないか。いつも反発されるからこちらも意固地になってしまうが、素直に謝罪されると逆に申し訳なくなった。


「……いえ、そんな。わたしが差し出がましいことをしていただけで、ホアン先生が謝ることではないです。それより、昨日ジェームズが着いたのですね。わざわざうちに挨拶に来てくれました。良かったですね。これでわたしも安心です」


 アリシアは明るく言った。から元気ではなく本心で。流石に生活能力のないホアンを突然一人でほっぽりだすのは気が咎める。ジェームズは、長年ホアンの執事をしてきた男だ。任せておけば間違いない。このままフェードアウトして疎遠になるつもりでいた。まさか謝罪をしてくるとは思わなかった。尤も、喧嘩別れするよりずっといい。今後は一臣下として、或いは、多少気心のしれた昔馴染みとして付き合っていければ最高の結末ではないか。

 教室に戻るまでは、辟易していたが全部が良い方向へ向かった。歌い出したいほどの爽快な気持ちだ。だが、


「だから、悪かったと言っているだろう」

「え?」


 ホアンが予期せぬ反応を見せる。発言の意図が汲み取れない。自分は謝罪を受け入れたのだ。これで仲直りしたのではないか。


「わたしは本当に気にしていないのよ? だから、謝らなくていいって言ったのだけど……」


 教室では先生と生徒という立場上、敬語で話すように努めているが、困惑して口調が乱れた。


「だったら何故、昨日来なかったんだ」


 そう尋ねられると返答に困る。確かに昨日までは怒っていたのだ。何故怒っていたか。理由は。自分はホアンが好きで、こんなに尽くして世話をしているのに、当の本人は有難いと思うどころか迷惑千万と言わんばかりに悪態をつき、あまつ自分が食事を用意しているとわかっていながら、他の女性の作った昼食を平然と食していたから。おまけにその女性がホアンの運命の相手だという。馬鹿にするな。冗談じゃない。わたしを一体なんだと思っているのか。だから、憤怒していた。でも、今は砂地に水が染み入るように苛立ちが消えた。ホアンに謝罪されたからだろうか。相手が折れるなら自分も反省すべきではないかと思えてくる。冷静に考えると、自分の気持ちばかり押し付けてしまっていた。鬱陶しがられても仕方ない。謝るのはこちらではないかとさえ感じている。自国の王子に呼びつけられて断るなどとはもっての外だ。


「それは申し訳ありませんでした。何かわたしにご用命があったのですか?」

「だから、謝ろうと思って……」

「そうだったんですね。すみません。怒っていません」

「……怒っていないならいい」


 奥歯にものが挟まったような口ぶり。ホアンが確認するように視線を投げてくる。嘘は吐いていないし、やましいこともないので、


「はい。怒っていません。今後はちゃんと呼び出しに応じます」


 ともう一度はっきり答えた。ホアンはまだ疑惑の眼差しを向けてくる。なんだというのか。埒が開かない。


「他に要件がないようでしたら、わたしはこれで」

「何処に行くんだ?」

「カフェテラスです」

「何故だ」

「え、昼食を食べるためです」


 今は昼休みだ。カフェテラスに行く理由など一つだろう。


「ジェームズが用意するだろ」

「え? わたしの分もですか? それはないと思いますけど。昨日、うちへ挨拶に来た時、これからは自分がホアン様の面倒を見ますのでアリシア様は学園生活を楽しまれてくださいって言っていましたよ。だから、わたしは、今日はカフェテラスに行くことにしたんです」


 これまでは屋敷からわざわざ届けてもらっていた。自分一人なら学内の食堂で取る方が手間がなくていい。この学園にはいくつかの有名な飲食店が店舗を出しており、学園限定のメニューを販売していることで知られている。前から興味はあった。


「そんなことは聞いていない」


 ホアンが不機嫌に言う。聞いていないから一体どうした、とアリシアは口まで出掛けた言葉を呑み込んだ。昼休みは二時間と長めだが、これ以上ここで時間を費やしたくない。


「では、ジェームスに聞いてみてください。わたしはこれからはクラスメイトと昼食をとることにしましたので」

「クラスメイト!?」


 信じられない、とでも言いた気にホアンが異常な反応を見せる。普通はクラスメイトと食べるものではないのか。ホアンは学校に通ったことがないので、そんな認識がないのだろうか。尤も今日は自分は一人なのだが。何せ友達がいない。現実を見つめれば馬鹿なことをしてきたと思う。これまで同級生との交流は一切無視してホアンにかかりきりで学園生活を過ごしてきた。成績さえ落とさなければ両親に連れ戻されることはないし、放任主義の伯母は好きにやらせてくれる。勉強も運動も人並み以上にこなせるため、誰かと群れをなす必要性もなかった。だが、友人が欲しくないわけではない。スカーレットとは親しくなりたいし、他の生徒とも仲良くなりたい。クラスで浮いている自分を何かと気に掛けてくれるヨハナなら、友達になってくれるかもしれない。今更ではあるが声を掛けるくらい許されるはずだ。その初めの一歩として今日はカフェテラスへ行く。ここで足止めを食っている暇はない。


「では、ちょっと急ぐので」


 アリシアは一礼すると教室を出た。追って来られたら迷惑だな、とチラッと後ろを確認する。ホアンは張り付けになったみたいにその場から動く様子はなかった。それはそれで不穏だが、面倒くさいので見なかったことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続けて更新ありがとうございます‼︎ アリシアさんもっと言ってやって!と思ったけど、こういうスンとした態度の方が堪えるのかな。 ホアンはコミュ力なさそうだからどうしたらいいかも、どうしてこう…
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