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11 ヨハナ・バークマン侯爵令嬢2

登場人物がややこしいので関係図載せときます。


《既存のゲームの組み合わせ》

王太子アラン×婚約者スカーレット

騎士団ロン×幼馴染ヨハナ

化学教師ホアン×再従兄妹アリシア

女たらしシド×義妹ソフィア


《プログラマーがくっつけようとしている組み合わせ》

王太子アラン×アリシア(ホアンの相手)

騎士団ロン×ソフィア(シドの相手)

化学教師ホアン×ヨハナ(ロンの相手)

女たらしシド×スカーレット(アランの相手)


*1部→3部→8部→11部の順番がヨハナルートの時系列です。

 アリシアが誘いに応じなかったことを伝えるため、用務室へ足を運んだ。

 本来ならば嫌な役目であるが、若干の胸のすく思いを感じていたことは、ヨハナが「ホアンにはアリシアは勿体ない」と思っているからだ。隣国の第三王子だか何だか知らないが、細やかに世話をしてくれるアリシアを邪険に扱い、それで周囲からアリシアがどう思われるかもお構いなし。もし、本当にアリシアを疎ましく思うならば、付き纏わないように講じる手立てはいくらでもあるはずだ。アリシアは王子だからホアンの面倒をみているのか、再従兄妹だからか、単に好きだからか。いずれにせよ伯爵令嬢が使用人の如く毎日足繁くホアンの元へ通い身の回りの世話をしていることは、ありえない厚遇だ。裏事情は知らないが、それを当然のように受け取るホアンにヨハナは酷く苛立っていた。アリシアが拒絶したことを全力で褒めたかったし、これから自分がそれを伝えると思うとある種の喜びを感じていた。


「失礼します。ホアン先生はいらっしゃいますか」

「……誰だ」


 少しの間を開けて返事が返った。自分の領域を犯す不当な輩が来たような声音だ。ヨハナは本来短気な方ではない。しかし、ホアンに関してはいちいち癪に障る。


「ヨハナ・バーグマンですわ。お昼休みに先生に言付かったアリシア様へのご伝言の件で参りましたの」


 すると、足音が近づき扉が開いた。普段近寄ることのないホアンは、傍で見ると思いの他長身だ。長年ロンと共にいるヨハナはどうしても彼が基準になる。誰かに対して「背が高い」と思うことがない。だけれどホアンは違った。ロンと同じくらいか、或いは高いのではないか。何故、今まで気づかなかったのだろう。違和を覚えてじろじろ見てしまう。


(……猫背。いつもは背を曲げているのに今は背筋が伸びているのだわ)


 興味もないので意識しなかったが、確かにホアンは普段、背を曲げてよれよれとだらしなく歩いている。王子ならば所作について教育を受けるはずだ。王子と悟られない為、わざと不格好に振舞っているのか。リラックスしている用務室では地が出ているのだろうか。


「アリシアは?」


 ホアンはヨハナの視線を気にも留めず、周囲を見渡し尋ねた。余程待っていたらしい。


「アリシア様は来ませんわ」

「何故だ?」


 センスのない瓶底眼鏡の奥の瞳が丸くなる。近距離まで詰め寄りホアンはヨハナに迫った。急を要する圧があり、ヨハナは言葉を選ぶ余裕がなく、


「理由はわかりませんわ。ただ、アリシア様はホアン先生の呼び出しには一切応じることはないそうです。そう伝えてくれて構わないとおっしゃいました」


 とアリシアの発言通りをストレートに伝えてしまった。ホアンがぐっと言葉を詰まらせ黙したことに、妙な罪悪を感じてしまう。


(別に仲違いさせようというのじゃないわ。事実をそのまま伝えただけよ)


 ヨハナは言い訳めいて思いながら、ホアンをじっと観察した。前髪が長い上眼鏡で顔を隠しているし、基本、俯き加減で目を合わさないのでわかりにくいが、近距離でまじまじと見るとかなり端正な顔立ちであることに気付く。一方、普段なら人の視線を感じると露骨に顔を背けるホアンは、ヨハナの鑑識眼に構うことなく更に詰めよった。


「それはどういう意味だ?」

「意味?」

「呼び出しに応じないとは、どういう意味だ?」

「え、そのままの意味だと思いますけれど」

「だから、何故だ!」


 会いたくないからですわ、と言っていいのか迷った。アリシアとホアンがどんな理由で揉めているのか不明だ。アリシアには是非ともホアンとの縁を切って欲しい。だけれど、それが本当にアリシアの望んでいることかわからない。ヨハナは全面的にアリシアを擁護したい。こんな男でもアリシアが好きなら応援する。嫌いならば徹底して排除したい。アリシアの気持ちがわからない以上、事実以外の憶測の発言はできない。


「理由はわかりません。ホアン先生が何かしたのではないですか」

「……別に、僕は、いつも通りだった」


 急に歯切れが悪くなる。「いつも通り」に思うところがあるのだろう。つまり「いつも」していることに不安要素がある。してはいけないことを「いつも」している。ヨハナは呆れた。


「そうですか。では、私はご伝言はお伝えしましたので、失礼しますわ」


 一礼して去ろうとすると、


「待ってくれ。アリシアは怒っているのか? どんな様子だった?」

「ホアン様、そんなところで立ち話もなんですから、中に入って頂いては?」


 室内から声が掛かった。昼間、ホアンと言い争っていた男だ。初老の優し気な男で品のいいスーツに身を包み優美な所作で頭を下げる。


「バーグマン侯爵家のヨハナ様ですね。私はホアン様の執事をしておりますジェームズ・スピアと申します。ホアン様がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。良ければお茶でも召し上がりませんか」


 先ほどからの話を聞いていたとして、爵位など名乗っていない。ホアンは絶対に自分の爵位まで知らない。把握しているのは昼間の件で、彼が自ら調べたということだろう。ホアンが隣国の王子というのが急に現実味を帯びた。


「いえ、私は」

「隣国の郷土菓子を取り揃えております。アリシア様が幼い頃から好きだった物です。無駄になりましたがね」


 ジェームズが射るようにホアンを睨むと、ホアンは相当むっとして口を噤んだ。


「どうか、ホアン様にお力添えくださいませんか」

「え」


(仲直りに協力しろってこと? いやいや、私はアリシア様にはホアン先生とくっついて欲しくないのですけれど?)


 強く思う一方、自分の好悪で勝手にアリシアの気持ちを推し量ることはできない、と冷静な考えが脳裏を巡った。ホアンのことはどうでもいいのだが、アリシアの役に立つことがあるのなら話くらい聞いてもいいか、と。それに、この品の良いにこやかな執事の申し出を断ることは、賢明でない気がする。


「わたしが力になれることなど、ないと思うのですけれど……」

「いえいえ、そのようなことはごさいません。ほら、ホアン様、そんな所に立っていては邪魔になりますから」


 ヨハナはおずおずと答えたが、ジェームズはホアンを押し退けてヨハナを半ば強引に室内へと招き入れた。

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