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1 プロローグ

「リメイクしましょう。もっと新たな試みが必要ですよ」


 わたしの意見に企画部長は、


「しかしなぁ、元々あまり売れなかったゲームを今更リメイクしてもだな……」


 と難色を示した。


「いいんですよ! このゲームは何の斬新な設定もないノーマルゲームだったのですから、そこを上手く利用して昨今の悪役令嬢ブームに乗るんです!」

「悪役令嬢ブーム……」


 わたしが企画書をどーんとデスクの上に広げても、部長は困惑の表情をしていた。




 恋愛シミュレーションゲーム「運命の二人」

 これまで戦闘系のゲームばかりを売り出して来たうちの会社が、突如として女性顧客を掴む目的で作ったゲームである。タイトルからして平凡だ。本気で駄目なやつ。ゴーサインだしたの誰だよ、と言いたくなる。おまけに、内容も実にありがちだ。

 ヒロインであるカレンは下町のパン屋の娘として天真爛漫に育つ。しかし、本当はフォスター侯爵の孫娘だ。貴族令嬢だった母親が、平民であった父親と大恋愛をした末、駆け落ちして生んだ一人娘がカレンなのである。三歳まで一家仲良く暮らしていたが、両親は不慮の事故で亡くなった。孤児になったカレンを引き取り育ててくれたのが、養父母であるパン屋の夫妻だ。そして、そこで十五歳まで幸せな日々を生きている。

 一方、母方の祖父であるフォスター侯爵は、駆け落ちした娘を血眼で探していた。そして、漸く見つけ出したカレンを権力を行使し無理やり自分の元へ引き取る。

 以上がチュートリアルで、ゲーム自体は貴族の通う学園に入学する所からスタートする。

 攻略対象は四人。

 学園の覇者。冷酷王太子であるアラン・オーランド。

 その側近の心優しき騎士ロン・サーフォン。

 訳あり化学教師ホアン・ジェネフィス。

 金で爵位を買った富豪貴族、女たらしのシド・マクラミ。

 そして、隠れキャラとしてカレンが育てられたパン屋夫妻の一人息子、義兄のレオルド・スペードがいる。

 余談だが、わたしはこのレオルドルートを一番お勧めしている。レオルドはカレンの慣れない貴族生活を陰ながら献身的に支えるお助けキャラ的存在だが、美男子である為、何故レオルドが攻略対象ではないのか! とプレイヤーを苛つかせていた。それがまさかの隠れキャラで、自分には地位も名誉もないから、と気持ちに蓋をしてカレンの恋路を応援していた設定だ。事実が明らかになった時の狂喜乱舞の声は凄まじかった。このゲームにおいて唯一評価できる点といえる。ストーリー的にも、祖父である侯爵が最大の障害となっている。交際を反対される中、愛を貫き、最終的に、


「お前は母親にそっくりだな。儂はまた同じ過ちを犯すところだった。すまなかった」


 と言わしめる。この物語は差別主義の暴君な祖父が徐々にカレンを溺愛するようになる部分も見所であり、レオルドルートはその点においても最も感動を誘う。まぁ、どのルートが一番良いかは、個人の主観なので一概に言い切れないのだが。

 兎に角、いずれかの攻略対象とあれやこれやイベントをこなし、恋人となれるようストーリーを進めていく。ざっくり以上がこのゲームのおおよその概要だ。わたしが意図的に伏せた人物を除けば。

 悪役令嬢達。

 アランの婚約者、スカーレット・ロマニー公爵令嬢。

 ロンの幼馴染、ヨハナ・バークマン侯爵令嬢。

 ホアンの再従妹、アリシア・ワトスン伯爵令嬢。

 シドの義妹、ソフィア・マクラミ男爵令嬢。

 彼女達はカレンに因縁を付けては虐めまくる。美人で爵位もありハイスペックな彼女達が、である。

 一体、悪役令嬢とは何ぞや?

 好きな男をものにする為、か弱き主人公にあれやこれやと嫌がらせをする凶悪な女。自分の恵まれた環境をかなぐり捨て嫉妬の業火に身を投げる女。

 あまりにナンセンスではないか。男は奴等だけではないのだよ、と言いたい。馬鹿男共は、一途に深い愛情を注いでくれる悪役令嬢達に見向きもせず、目新しいカレンに興味を持ち、今までの自分の価値観やぽっかり空いた心の穴を埋めてくれた、と言う理由で彼女達を捨てるのだ。トラウマの回収、心の成長と言えば聞こえは良いが、「ありのままの自分を愛してくれていた」悪役令嬢を足蹴にして新しい女に絆され都合よく変化したともいえる。恋愛ゲームにありがちなセオリーといえど、あまりに理不尽ではないか。

 故にわたしは、スカーレットにも、ヨハナにも、アリシアにも、ソフィアにも、恋に溺れて欲しくないのである。虐めなど低俗なことで破滅してもらいたくない。狭すぎる視野で無理やり恋を成就させようとするから、断罪され、国外追放、処刑、修道院送りになるのだ。

 だから、わたしは企画書を練った。

 男達が新しい出会いを求めて新鮮な風に恋してしまうならば、相手はカレンでなくてもよいはずだ。悪役令嬢達は十分に魅力がある。

 気位の高いスカーレットには女の扱いが上手いシド。

 一途で重めなヨハナには癖のある化学教師ホアン。

 世話焼き女房系アリシアには俺様王太子アラン。

 我儘娘ソフィアには大らかなロン。

 カレンはレオルドと幸せになればよい。


「つまりですね、部長! 今回はプレイヤーは神視点として悪役令嬢達にアドバイスする役割を担うんです! 貴方はこの男に恋をしても報われないと助言しつつ、他の男を好きになるように導き、皆で大団円を目指すゲームにするんです!」

「な、なんだか、よくわからんな。まぁ、そこまで言うならその悪役令嬢ゲームを一度作ってみたまえ」

「はい! 有難うございます! ソフト内容を組み替えて悪役令嬢が他の攻略対象に視線を向けるようにしますね!」


 わたしは、わけのわかっていない部長を説き伏せてソフトの更新に勤しんだ。悪役令嬢を幸せにする為に、彼女達をそれぞれ別の攻略対象のヒロインへと組み替えることにばかり囚われた。故に気づかなかったのだ。

 攻略対象は、ヒロインを守る為に悪役令嬢を冷遇するプログラムが組み込まれていること。だから悪役令嬢が行動を起こさなければシナリオが働かないこと。攻略対象は彼女達がしつこくしつこく自分に迫ってくることは当然と思っていること。彼女達の愛は断罪する時でさえ自分に向いていると信じていること。愛されている人間は余裕があるということ。あったものが無くなれば人間焦るということ。こっちを変えればあっちも変わってしまうこと。一切がっさい失念してプログラムを組み替えた。そしたら、とんでもないバグがでた。

 ゲームの世界のこととは言え、いろいろごめん。先に謝っておく。

「新・運命の二人」

 試しにプレイしてもらえるだろうか。

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