08 ロザの仇
「はぁ…。はぁ…」
紅葉は、ムカデーラの毒の攻撃を受け、重症になっていた。
急いで戻ってきた黒瀬たちは、すぐに医者に見せた。
サバラン村の医者によると、毒が回るのが早いため、冒険者が重症になり、村に戻って来ることが多いらしい。
ムカデーラの生態が、詳しく解っていないため、対象法が分からない。
ただ、1人ムカデーラの弱点を分かっている者がいた。
それは、ロザだった。
「ロザはどこにいるんだ?」
「分かりません…。あなた方を追って、砂漠の方へ行ったと思ったのですが…」
「そうなのか?」
「でも、私、どの岩にも一番、高い岩に登っていたけど、ロザの姿はなかったわよ」
「じゃあ、どこに?」
「まさか…」
誰もが嫌な予感をしていた。
◇ ◇ ◇
「ここは?」
ロザは、暗闇の中で目を覚ました。
それは、今から数時間前のことだった。
ロザは、紅葉たちの後を追って行った。
それは、ロザに銃の使い方を、教えてくれた旅人を、殺した魔物を探していたからだった。
ちょうど、それを求めてきていたのが紅葉たちだった。
ロザは、あまり人と話すことが苦手だったため、言い出せなかった。
だから、後を追っていたが、背後から近づいてきた魔物に襲われたのだった。
「くそっ!暗くて、何も見えない…」
このままでは、自分が食べられてしまうと思ったロザ。
もがいていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「ここにいましたか…ロザ様」
「お前は…」
「紅葉お嬢様の執事をしております。黒瀬と申します。以後お見知りおきを。さて…あなた様が、どうして、こんなところにいるのですか?」
「そ、それは…」
「みなまで言わなくても、わたくしには、お見通しですよ?」
「えっ?」
「どうしてわたくしが、こんなところにいるかと申しますと…」
黒瀬は、今にいたることをロザに説明をした。
聞くところによると、黒瀬は、何もかも全部お見通しだった。
それは、サバラ村に訪れている所から始まっていたのだ。
いろいろと不審に思った黒瀬は、視察に出ていた。
だから、砂漠の裏側に生息する魔物も視察済みだったのだ。
「そういうことですか…」
黒瀬は、村に帰り、ロザの話を聞き、黒瀬なりの口実をたて、ロザの動きを観察していた。
影とともに…。
それから、ずっとロザの動きを観察をしていて、後ろから魔物に襲われるロザを助けるため、わざとロザと一緒に暗闇の中へと来ていた。
♢
♢
♢
一方の影は、誰にもバレずにいた。
「黒瀬!また、あの魔物の所にいくわよ!!」
「はい。お嬢様」
「フフッ。お嬢様もこりませんねー。本当に分かりやすいお方だ」
クスリと笑いながら、黒瀬は影から会話を聞いていた。
「君は、凄い執事なんだね。ちゃんと、お嬢様を守っているではないか。僕には、出来ないことだよ…。あの旅人守れないんだから…」
「ですが、今のロザ様は、大丈夫でございますよ?」
「なぜ、君に分かるんだ?」
「分かりますとも…。どこか、お独りでいたお嬢様に、似てらっしゃいますから」
「そうなのか?」
「お嬢様も、ロザ様と一緒で、独りぼっちでした。ある時、私がお嬢様専属の執事を任されたのです。ですが、はじめは、全然、お嬢様に相手にもされなかったのです。むしろ…警戒…されていたのでしょう」
「でも、今じゃあ、あんなに仲がいいではないか?」
「そうですか?仲が…いいですか…。確かに、そうかもしれませんね。そのきっかけは、お嬢様がお独りで学校に帰っていた時、誘拐されそうになっていたのです。いち早く気づいたわたくしは、必死に、お嬢様をお守りをしました。ですが、一人が刃物を持っていたのです。それで、その刃物がわたくしの腕に。かすり傷だったのですが…。それを見たお嬢様は、大泣きをしておりました。何度も、お嬢様を慰めたのですが…。なかなか収まらず…」
黒瀬は、困ったように言った。
「それからは、お嬢様は、気にするようになって、今にいたるということです」
「そうだったのか…。なんか、いろいろとすまないね。僕は、ヤキモチをしていたのだろうか…?君があの旅人にみえたんだ。だから…」
「それは、分かっていましたよ。ロザ様と出会ったあのときから」
「君には、お見通しなんだね」
ロザは、呆れて言った。
「さて、おしゃべりはここまでです。ここから、出ましょう」
「どうやって出るんだ?」
「それはですね…」
「ちょっと待て!なんで僕がこんなことを?」
「奴を引きつけるには…」
「僕をお取りにか?」
「はい」
黒瀬は、ニッコリと笑った。
「その笑いはやめろ!不気味だ」
「誉め言葉ですね。さぁ、行きますよー」
黒瀬は、暗闇の中で、技を放った。
魔物に命中!
――きゅるるる!!
もがく、魔物は、タランチュラに似ている魔物だった。
【タンチューラ】。
クモの仲間の魔物。
地上にはじき出された黒瀬、ロザは、どうやら、タンチューラのすみかに引きずりこまれていたらしい。
「フフフッ。クモ鍋にでもしましょうか?」
「い、いや…。いやいや…」
「んっ?嘘ですよ」
クスリと笑った。黒瀬は、一輪の花を持って、村へと向かった。
◇ ◇ ◇
「はぁ…。はぁ…。」
「紅葉…。大丈夫か?」
「紅葉様…」
皆が心配そうに見ていた。
すると、黒瀬が帰ってきた。
「聖様…」
「黒瀬?黒瀬が2人?」
「わたくしの影が皆さんを見ていたので、助かりました。それで、お嬢様の状態は?」
「…」
「医者が言うには、毒消しの【解毒草】があればいいって言っていた…。だが、」
「解毒草ってこのことですか?」
「あっ!」
近くにいた医者が、びっくりしたかのように、言った。
「それは、いかにも解毒草…。これで、毒を取り除けば、この者は助かります」
「本当ですか!?」
すぐに、解毒剤を作った。
「わーい。治った。本当に苦しかった…」
「お嬢様。ご気分は、いかがでしょうか?」
「ええ、だいぶ良くなったわ」
「この解毒草は、数十秒あれば、毒が抜けるからね」
「なるほど…」
「だけど、運が君たちはよかった。最近では、魔物のせいで、解毒草が取れなくなっていたからね」
「だから、魔物退治を申し込まれたのですね」
「そうなんです。ですが、ここの魔物は、手強いせいか、冒険者たちは来たものの…」
「皆、逃げて行ってしまった」
「もう一度、行きましょう。この話を聞いたからには、コテンパンにしてやりたいわ!」
「僕も、あの魔物にはかりがある。旅人さんを、殺した恨みがある。だから、仇をとりたい!」
「うん!行きましょう。一緒に!」
また、紅葉たちは砂漠へと向かった。
♢ ♢ ♢
紅葉たちは、再び砂漠へと戻ってきた。
「今度こそは、ロザもいるから、大丈夫!」
「最後のトドメは、ロザ様、あなた様がとって下さいませ」
「黒瀬…」
「あなたなら、できますよ。ロザ様は、あのときのロザ様ではないのですから」
「黒瀬…。ありがとう。僕が、あいつのトドメを刺すさ!」
―――ドドドドドドドドドド!!
―――キャルルルルルルルル!!
ムカデーラが現われた。
「皆!いっくよー!!」
「うん!」
「紅葉!強化をお願い!」
「分かった!任せてー」
紅葉は、皆に強化をした。
「フン!」
「黒瀬!ここだ。」
ロザは、撃ちながら弱点を見つけた。
「そこですか?」
「さっきの戦いのときもそこを攻撃したのに!?」
「叩くだけじゃあダメだよ!攻撃を与えつつ、手や牙を取り、また、攻撃を与えないとあいつは倒せない!」
「そんな!」
「だから、一回では硬かったんだな…」
「じゃあ、また、私が援護する!だから、黒瀬、ピーロン、ロザは攻撃を!ラーガは、ロザの援護だ!」
「分かった」
「私は、セラティナにシールドを張っておくよ」
「任せた」
「よし!」
一斉に、皆散らばっていった。
「黒瀬、そっちに回ってくれ!僕は、奴の頭を撃つ!」
「分かりました」
黒瀬は、ムカデーラの下に回り、引き付けた。
ムカデーラは、黒瀬に気づき、攻撃をしてきた。
「それには、もう、分かっていますよ」
――シュッ!シュッ!
黒瀬は、ムカデーラが攻撃をする前に、ナイフを投げた。
ムカデーラに命中した。
「ナイスだ☆黒瀬。行くぞ」
――パン!パン!
ロザは銃で撃った。
ムカデーラは、苦しそうにもがいていた。
「今よ!ロザ!」
「行けーーー!!」
黒瀬は、ロザを抱きかかえ、クルクルと回った。
「黒瀬!何を?」
「上から、狙った方がいいのではないでしょうか?失礼ながら、行きますよ?」
「えっ!?ちょ、ちょっと!待ちたまえ!」
黒瀬は、ロザのいうことを聞き入れず、上にロザを投げた。
「黒瀬?何やってるのよ!」
「紅葉、違うよ?黒瀬は、ロザにトドメを刺すのに、ふさわしい場所を提供しているのだよ」
「ラーガ?」
「黒瀬は、誰よりも他人を大切にしている。誰よりも、痛みを知っているように思う。昔の黒瀬の暮らしは知らないがな…」
ラーガは、そういってロザを見ていた。
「あの人の仇!撃たさせてもらう!いっけ――――!!」
――パン!!
ロザの撃った弾は、見事弱点である。頭に、命中した。
そして、ムカデーラは倒れた。
周りを見ると、一体だけでなく、何十匹もいたが、死んでいた。
ふと見ると、黒瀬の顔が不気味に笑っていた。
「まさか…。黒瀬…」
「多分…私の予想では、本当は、聖様は紅葉様の仇を取りたかったのではないでしょうか?ですが、ロザ様に譲ったのでは?」
「あーーー」
そうピーロンが言ったことに、皆が納得した。
「私のために?」
「さーて、村に帰りましょうか?」
黒瀬のクスリと笑った顔が、紅葉たちには怖かった。
誤字・脱字があればお願いします。
まだまだ続きます。