神官と聖職者
投下します。
「手の空いている騎士は城門前へ急げ! 途中で見つけた魔物は片っ端から叩き切れ!」
聖教会ヴァレスタ支部内に怒号が飛ぶ。突然の魔物の襲撃により、聖騎士と聖職者たちはその対応に追われていた。すでに城塞都市の各地に魔物が出現しており、騎士が複数名やられたという報告も入っている。
指示を出すも、現場をまとめている神官たちはありえないことが起こっていると恐怖していた。
この城塞都市ヴァレスタには複数の司祭、神官、そしてロズウェル・フォード大神官が設置した強力な結界が張られている。この結界内では邪悪な意思を持つ魔物の動きは制限され、その脅威も格段に落ちるはずだった。それなのに、入り込んだ魔物の力が削がれることはなくその猛威を振るっている。明らかに結界が機能していない証拠だ。
負傷した聖職者や騎士を支部内で匿い回復魔法で負った傷を癒してはいるが、正直限界が来ている。
ヴァレスタに常駐している第三騎士団はすでに別の場所で魔物と交戦しており、こちらへの応援は望めない。大神官との連絡も取れない現在、司祭の一人であるキシルガンがどうにかするしかなかった。
(まだ神官になったばかりだというのに……。これが大神官への試練だというのであればいささか厳しすぎやしないか!?)
毒づいたところで状況が変わるわけでもないが、そう思わずにはいられなかった。長年努力を重ね聖職者として成果を出し、同期の中で最も早く神官の地位に就いたのはつい数か月ほど前。神官としての常駐先をあのヴァレスタと知ったとき、キシルガンは自身のしてきた努力がやっと報われたと心から思った。
聖教会本部に次ぐ、支部としては最大規模のヴァレスタに配属ともあれば、出世コースであることは間違いない。ここでさらに結果を出せばヴァレスタ支部大神官、果ては聖教会本部に勤めることも夢ではないのだ。
ヴァレスタのトップは以前聖教会本部にいたこともあるロズウェル・フォード大神官。聞けば、聖教会のみでなくヴァレスタという都市すらも掌握しているという。ゆくゆくはそのポジションを譲り受けるべく、神官になった後もキシルガンは懸命に責務をこなした。
聖職者たちを連れて近隣の魔物の駆除にも何度か行ったこともある。いずれ大神官になった際部下に指示を出すことを想定し、戦闘の仕方や陣形の取り方の指令を出す訓練の一環として。まさか今ここで役に立つとは想像もしていなかったが。
「キシルガン様! 新たに魔物が現れたとの報告が入りました!」
「今度はどこだ!」
「裏門です! その数五十!」
キシルガンは絶句する。現状の処理だけでも手一杯なのだ。非戦闘員である回復魔法の講師ですら出てきてもらっているこの状況。にも拘わらず裏門、この支部のすぐ裏に五十の魔物が現れた。かくなる上はここに居る者総出で迎え撃つしかない。
「やむを得んか」
部下に指示を出し、キシルガンはとある場所へと向かう。半壊した壁を抜け裏門の方へと向かう。裏門の近くにはかつて罪人をとらえ押し込む収容所があった。現在は聖教会内で異端者扱いされた者を収容し矯正するための施設として使われている。
老朽化した建物はところどころが崩れ天井は半壊し、もはや牢としての機能をなしていないその一室に一人の男が鎖につながれていた。
「反省はしたかイザーク」
「キシルガン……」
アザだらけになった顔でイザークは訪問者をにらみつける。かつての同胞、同期からの鋭い目線にキシルガンは一瞬たじろぐも、ゆっくりと近づいた。
「そう怖い顔をするな。優男が台無しだぞ」
「そんなこより、不当にリタさんを投獄した件、大神官はどうお考えですか……っ」
そんなの俺が知るか。思わず口から出かかった言葉を飲み込む。今のイザークには地雷すぎる発言を一旦頭から消し、状況のみを淡々と説明した。
「魔物がヴァレスタの内部に現れた。今聖職者や騎士たち総出で対処しているが手が足りん。手伝え」
「虫がいいとは思いませんか」
「思うね。大いに思うよ」
だがな、とキシルガンは続ける。
「お前が連れてた少年だがな。今ヴェルグ卿たちと一緒に魔物の討伐を行っている」
「レクト君が?」
「それを聞いてなお、お前はここで何もしないつもりか?」
ドゴッッ!!!! と裏門が破壊され魔物がなだれ込む。そして先陣を切る魔物の数体がイザークに向かって飛び掛かった。
「イザーク!!!」
キシルガンの叫び声とともに、固まっていたイザークの体が素早く動き、魔物の攻撃に合わせ鎖を断ち切らせる。そしてその勢いのまま武器である体術を魔物相手に遺憾なく発揮した。飛び掛かってきた魔物は灰となり、後続の魔物の動きが止まる。
「いいでしょう。事態が事態です、引き受けましょう。もちろんあなたも戦いますよねキシルガン」
「遠くで観戦、と行きたかったがそうも言っていられないからな。邪魔するなよ?」
「そちらこそ。神官の業務のせいで鈍っているのでは?」
「ハハッ、抜かせ」
かつて背中を預けあった二人の男が、あふれ出る魔物の群れに挑む。
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