少年の意思
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「つまり、大神官は魔族であると?」
第三騎士団屯所。密偵から戻ったロイの報告を聞き、ヴェルグ卿は再度報告内容の確認をした。
大神官の正体が魔族だったということならばつまり、今までこの城塞都市は魔族の手によって動かされていたということに他ならない。それも聖協会で本部の次に大きな支部があるこの都市がだ。
集められた騎士たちにも動揺が走る。ロズウェル・フォード大神官といえば、聖職者の中でも特に聖教会に尽力してきた豪傑で知られており、第三騎士団にも教えを説いたことがある人物だ。その彼の正体が魔族だったと突然いわれても信じられない。
「ロイ。その情報はどこからだ」
「団長が捕らえたあの女冒険者からですよ。」
ロイは地下室から尋問部屋につながる檜物の通路があったこと、捕らえられた女冒険者の様子を事細かく報告した。
「尋問だなんて嘘っぱちだ。彼女の背中には何度も鞭でぶったたいた跡があった。ありゃ拷問ですよ」
「そうだったのか……。彼女は今どこに?」
「ご指示通り、スクロールで開けた部屋で休んでもらってます。ラナも一緒です」
「では一安心というところか」
言っておいて後悔した。何が一安心なものかと。
あの時、無理にでも尋問に立ち会うと大神官に進言していれば彼女は傷つかずに済んだ。そもそも大神官のもとへ直接出向いていれば、大神官の正体に気づけたかもしれない。
自身の責任を痛感しつつ、ヴェルグ卿は今後の動きについて思案する。
「団員諸君に告ぐ! 直ちに戦闘準備。完了次第ここに集合せよ!」
「「はっ!」」
困惑していた団員たちがヴェルグ卿の命令によって瞬時に行動を開始する。ヴェルグ卿自身まだ半信半疑ではあった。何者かに操られている、または偽物が成り代わり本物は別の場所に幽閉されている。考えれば考えるほど様々な可能性が浮かび上がってきた。
「団長、俺は黒で間違いないと思いますよ」
「証言はその女冒険者の発言のみだ。まだ確定ではない」
「でも!」
「いいかロイ」
顔は向けられていないが、その後ろ姿のみでヴェルグ卿の怒りがにじみ出ているのがロイには感じ取れた。
「大神官はこの城塞都市のトップだ。彼が魔族だった場合、我々は容赦なくそれを排除する必要がある。まずは彼が排除すべきか否か、確かめる必要があるのだ」
つまり、人間のまま魔族とつながっていたのであれば生きて捕らえる必要がありということ。
ヴェルグ卿もロイを密偵に出した時点で大神官と魔族に何らかのつながりがあることは予想していた。まさか大神官自身が魔族であるという報告は予想していなかったが。その報告を受けても、大神官が魔族だったということは信じがたい。魔族が人間の都市を普通に収めることの意味が見いだせなかったからだ。
「ロイ。支部内の聖職者と聖騎士はどのくらいだ」
「聖職者は四十弱、聖騎士は大神官の私兵もあわせると六十前後くらいですかね」
「百前後か。多いな」
「第三騎士団は団長と俺を合わせても三十弱ですからね。数じゃどうしようもないです」
ヴァレスタには冒険者ギルドが存在しない。数年前に大神官が騎士団強化の名目で撤廃してしまったのだ。そのため援軍は見込めないので戦力差は変えられない。さすがに三十そこらの人数で向かっていくのは無謀すぎる。
加えて大神官の側近数名は高い実力を誇っており、一対一ならともかく複数で向かって来られた場合ヴェルグ卿でもきつい。
「どうしたものか」
「お困りでしょうか」
屯所に響く透き通った声。ヴェルグ卿が声のしたほうを向くと、そこにはローブに身を包んだ人物が三人立っていた。
「あんたらどこから入った」
ロイが腰に下げた剣を抜こうとしたが、ヴェルグ卿にそれを制される。
「申し訳ありません。私の部下が失礼をいたしました」
「気になさらないでください。この状況では仕方ありません」
そういって、三人はローブを脱いで顔を見せた。
「なっ!? あ、あんたら……いやあなた方は」
ロイは慌てて片膝をつく。目の前に現れたのは聖教会でも教皇に次ぐ力を持つ者たち。
聖女を守護する独立部隊である聖女守護隊の隊長、ソニア・フルール。
ランクSの冒険者であり聖女の姉、【凄女】ことセリスティア・ロードベルグ。
そして聖女、アリスティア・ロードベルグ。
その三人が、ヴェルグ卿とロイの前に姿を現した。
「エンタール、でしたね。よくぞリタさんを救い出してくれました。感謝します」
聖女の言葉に恐縮し続けるロイ。雲の上の人に直接声をかけ労われているのだから当然だ。
「は、はっ! ありがたき所存であります。まさか聖女様自らお越しになられているとはつゆ知らず」
「実は教皇様からの指示があったのです。ヴァレスタに赴き近状を報告せよ、と」
「では教皇様は大神官のことはお気づきに?」
「ええ。その確証を得るために、私に命を下したのです。以前オリジン近郊で発生した魔人出現の件もありましたので」
「ヴェルグ卿。先ほどの人数の件ですが、私たちも数に入れてください」
「ソニア殿、よろしいのですか」
「はい。私とセリスティア様は元々そのつもりで来ましたので」
「ええ。魔物じゃない分手加減しなきゃだけど、いけるわよ」
シュッ、とセリスの右こぶしが空を突く。空気圧がロイの横をかすめ地面がめり込んだ。
「あ、ごめん」
「い、いえ……お気になさらず」
ははは、と乾いた笑い声とひきつった笑顔でロイは答えた。
「お二人に参戦していただけるのは心強い。ですが、聖女様の護衛は誰が……」
「それは俺たちが引き受けるぜ」
野太い男の声がヴェルグ卿の問いに答えた。屯所の入り口から大きな影がこちらに向かってきており、やがて屯所内の灯りに照らされその姿を現す。
「ウォーロック! なぜお前がここに。それに……」
ヴァレスタで宿屋を経営している強面店主。いつものエプロン姿ではなく、鎧に身を包み込んでいた。そしてその後ろには同じく鎧に身を包んだ少年が一人。
「聖女様は、僕が守ります」
決意を胸に、覚悟を声に乗せ、レクトはヴェルグ卿にそう言い放った。
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