大神官の失態
投下します。
よろしくお願いします。
「いったいどこに行ったというのだ!」
大神官の執務室。そこには白のローブに身を包んだ数人の聖職者と怒鳴り声を巻き散らかしている男が一人。かの男の名はロズウェル・フォード。この城塞都市ヴァレスタで最も力を持つ大神官だ。
大神官室から声が響くことなどめったにない。ドアの前を警備している聖騎士は事の内容を知らないが、部屋から響く大神官の怒号だけでなにか重大な過失があったことだけは感じ取れた。
「大神官様、どうか落ち着かれますよう……」
「これが落ち着いていられるか!!」
聖職者たちがなんとか怒りを鎮めようとするが、ロズウェルはまったく聞く耳を持たない。普段の姿からは想像のできない荒れように、聖職者たちも委縮してしまう。
「地下室へ行くにはここを通るしかないはずだ。私はあそこから出たあとずっとこの執務室にいた。なのになぜいなくなっている!」
「そ、それは……」
異端者リタ・フレイバー。魔族との繋がりを問われ地下室にて尋問していたはずだったが、先ほど脱走したことが確認された。何者かが手引きしたことは明白ではあるのだが、地下室から外に出るには大神官の執務室を通らなければならない。
だがロズウェルはあの地下室から出てずっと執務室にいた。溜まっていた仕事を処理するためでもあるが、一番の理由はあの異端者が逃げ出さないよう見張るためである。にも拘わらず、異端者は姿を消した。
「何をしている! 早くあの異端者を私の前に連れてこい!」
うつむき固まっていた聖職者たちに怒号を飛ばす。それを聞いた聖職者たちは逃げるように大神官室を後にした。
残されたロズウェルはため息をつき頭を抱える。不安要素は根こそぎ消したはずだった。凄女を躱し騎士団長を退け、アンドラスを倒したという冒険者を捕縛。あとは情報を聞き出し始末するだけだった。
ふいに空間がゆがむ。転移魔法で現れたのはアベルだった。
「おや、どうしたんですかロズウェルさん。気が立っているように見えますが?」
「貴様、アベル。今までどこにいた」
「ちょっと野暮用がありまして。しかしこのマンジュウという食べ物はなかなかいけますね」
紙袋を抱えたアベルはそこから饅頭を一つ取り出した。
「ツブアンとコシアンがあるんですって。ボクはツブアンが好きですが、ロズウェルさんはどちらがお好みですか?」
「黙れ!」
差し出された饅頭をロズウェルは手で払う。饅頭はそのまま床に落ち、純白の床に饅頭の中身がぶちまけられた。
「そんなくだらんことを言ってる場合ではない!」
「あらら、もったいない」
床に落ちた饅頭を魔法で消し去り、来賓用のソファーに座るアベル。異空間からティーセットを取り出すと、一人でお茶会をし始めた。いらだっているロズウェルをよそにカップに注いだ茶の味を楽しみ、一息ついたところで口を開く。
「まぁあなたの言う通り、確かにそんな場合ではないですね」
「なに?」
「身の危険が迫っている、ということですよ」
「それはどういう……」
穏やかでない言葉に反応するロズウェル。大神官の地位にいる自分を脅かす危険とは何なのか。二杯目の茶を飲むアベルの次の言葉を待つ。
「先日お帰り願ったランクSの凄女、それと聖教会の聖女様がヴァレスタにいることが判明しました」
「何だと!?」
ロズウェルは驚きを隠せなかった。ランクSの凄女。それに聖教会の中で教皇に次ぐ権力を有する聖女。その二人がヴァレスタにいる。大神官であると同時に魔人であるロズウェルにとっては最悪の報せだった。
「バカな、ありえん! そんな報告は今まで無かったぞ!」
「大方潜伏していたんでしょうね。あなたがボロを出すまで待っていたんでしょう」
「私が?」
思い当たる節がない。これまで細心の注意を払って事に対応してきた。異端者の小娘を逃がしたことを除いては特に失態はないはず。
自身の行動に対しロズウェルは過剰なくらい慎重だった。周りも洗脳した聖職者で固め秘密が漏れることを阻止し、魔人という正体が露見することなく大神官としての業務をこなしている。ボロを出すなどありえない。
「言いませんでしたっけ。ランクDの冒険者が来たらさっさと別の街に行ってもらうのが良い、と」
ランクD冒険者。リタ・フレイバー。異端者として捕らえ尋問し、取り逃がした小娘。
「まさか……あの小娘は聖女たちと繋がっていた?」
「ご明察です」
「何故報告しなかった!」
執務机を怒りに任せ叩くロズウェル。その様子にアベルはおや、と驚いた仕草を大げさに披露した。カップを置き、ティーセットを異空間しまい込むと、アベルはおもむろに立ち上がる。
「勘違いされているようですので言っておきますがね」
アベルがロズウェルに顔を近づける。張り付いた笑み。しかしその瞳は先ほどまでのものとは変わっていた。目に映るものすべてを射殺す鋭い瞳。その瞳にはロズウェルが映っている。
「ボクはあなたの部下ではありません。逐一報告する義務はこれっぽっちもない。でしょう?」
「ぐっ……」
「そろそろ潮時ですかねぇ」
顔を離しロズウェルに背を向け、アベルは空間魔法を発動する。ぐにゃりと曲がったその先はいったいどこに続いているのか。
「もう逃げるしかありません。凄女だけでも厄介なのに、聖教会の聖女までいるとあっては、ここでの覚醒は不可能です」
「だが、私はまだ……」
「このままここにいるのであればそれも結構です。ボクは邪魔にならないよう見物していますね。では失礼します」
そう言い残し、アベルは捻じれた空間の中へと消えていく。ロズウェルはアベルが消えた空間をただただ無言で見つめていた。
なんとか更新頻度を上げたいと思っているのですがなかなか……。
遅筆ですみません。
誤字脱字、ご感想などあればよろしくお願いします。




