教育係と休息
投下します。
よろしくお願いしします。
「こっちだ」
先行したロイが周りに誰もいないのを確認し手招きする。
薄暗い牢獄を脱出し、今はこの男に連れられ地下通路を慎重に進んでいた。名前は教えてもらったけど、まだこの男が何の目的で私を連れだしたのかわからない。単なる人助けであんなところまで来るほどお人よしってわけでもなさそうだ。警戒は緩められない。
聖騎士の装備をしていることから聖教会所属なんだろうということは察しがつくけど、だったらますます私を助けた理由がわからない。あの大神官のせいで、今や私は人間でありながら人間に害なす魔族の手を引く極悪非道の異端者となっているはず。そんな危険な女を、わざわざ聖騎士が命令違反を起こしてまで助けたりするわけがない。
「おーおー。いくら使われていないからって、警備が薄すぎやしませんかね」
周囲を警戒しながらも軽口をたたくロイ。緊張感に欠けるが、そんな言葉が出てしまうのも無理はない。先ほどから警戒しながら進んでも一向に誰一人とも出くわしていないのだ。気配も感じない。まるでこの場所自体が隔離されているかのように。
ふとロイの足が止まりこちらを振り返る。
「あと少しで中継地点だ。まだ行けるか?」
「問題……ないよ。大丈夫」
ヒールはかけてもらったものの、疲弊した体力までは戻りきっていない。それでも一刻も早くここからいけないと気持ちを奮い立たせ重い足を動かす。「そっか」と返したロイは再び周囲を警戒しながら歩を進めた。
しばらく進んだのち扉が見えた。しばらく使っていないのか開く部分がさび付いている。古びた見た目だが、私はこの扉に、正確には扉の装飾に見覚えがあった。
「あれ、これって」
セリスに連れられたあの小さな教会。その地下にあった頑丈な施錠魔法を施されたドアだ。あのドアも確かこれと同じような装飾を施されていた気がする。
「えーっと、このスクロールをかざしてっと」
ロイが懐から用紙を取り出し扉にかざす。すると扉に魔法陣が現れ、パズルのように複雑な施錠が見る見るうちに解けていった。扉を開け中に入ると、今までの薄暗さとは一変し、貴族の屋敷の一室と思えるような装飾を施された部屋が広がっていた。
「お待ちしておりました」
部屋の中央にはメイドさんが一人。どうやら私たちが来るのを待っていたようだ。
「エンタール様、リタ・フレイバー様のご救出まことにありがとうございます」
「気にしなさんな。これも仕事だよ。それにしても、なんか内装変わった?」
「いささか殺風景でしたもので。こちらで模様替えをさせていただきました」
「ああ、そうかい」
そういうと、ロイは用意された向かい側の椅子に座る。間違いない。あの椅子、そして目の前の机。部屋の装飾は変わっているけれど、ここはあの教会の地下にあった一室だ。
「フレイバー様、お初にお目にかかります。私はラナと申します。聖教会所属である主の従者をさせていただいております」
「よろしくです。あの、フレイバーは呼ばれ慣れてないのでリタでいいですよ」
「ありがとうございますリタ様。ところでリタ様、私に敬語は不要でございます。普段通りの言葉遣いでお願いできますでしょうか」
「え? うん、分かったよ」
「ありがとうございます」
私は椅子に座り、ロイと対面になった。ラナは用意してあったティーセットを用いて小さな茶会の準備を進める。ここで一息入れるということは話してくれるのだろうか。私を助けた理由、その目的を。
「さて、改めて自己紹介といきますか。俺はロイ・エンタール。聖教会第三騎士団の副団長をやらせてももらってる。ロイでいいぜ」
「第三騎士団って、ヴェルグ卿の?」
忘れもしない。ここヴァレスタに来てから非常に関わり深い人物だ。自身も含め出会ってから今まで散々な目に遭っている。
「どういうこと? 上司が連行した異端者を部下が脱出させたってわけ?」
「まぁそう急ぎなさんな。確かにあんたを連行したのはヴェルグ卿、うちの団長だ。大神官の勅命だったからな。従わないなんて選択肢はない」
聖教会ヴァレスタ支部を収める大神官ロズウェル・フォード。大神官の勅命ともあれば、ヴェルグ卿と言えど無視するわけにはいかなかった。自身の考えにふたをし、異端者認定された冒険者を捕らえ、大神官の元へ連れていく。なぜ唐突にぽっと出の冒険者を異端者にしたかは連れて行った先で直接聞けばいい。そう思っていたのだが―――――――――。
「だがあんたを連れていく途中でその役目が解かれた。もちろん尋問どころか拷問されていただなんて、団長には一切報告されていない」
「じゃあロイはヴェルグ卿の指示で私を助けに?」
「いいや。団長じゃない。まぁ団長も絡んでるんだけど、俺に命令を出したのは別の方さ」
「別の方?」
「今はいい。それよりも、やることがあるだろ?」
そう。今は何より大神官の正体を突き止めるのが先決だ。万が一大神官が魔族だった場合、聖教会への組織的ダメージは計り知れない。でも、それでも。
「行かないと」
椅子から立ち上がり、向かい側のドアに向かって歩く。ドアの先はおそらく見知った教会だ。そこからセリスとアリスを見つけてこのことを報告しないと。
「待ちなって。そんな体で外に出るのか?」
「でも急がないとっ」
声を上げた瞬間、脚から力が抜けそのまま地面に膝をつく。ラナが駆け寄り肩を借りるが自力で立てそうにない。ロイにヒールをかけてもらってはいたがそれも体の傷を癒すのみ。すり減った精神や体力までは戻っていない。すでに体は限界だった。
「大丈夫だ。ちゃんと段取りはとってある。それにあんたが命がけで入手した情報は代わりに俺が必ず伝える。だから教えてくれ。誰に何を伝えればいい」
ひどく眠い。瞼が重く、あと少しで閉じてしまいそうだ。
ロイの言葉に安堵してしまい力が抜ける。残った力を振り絞って、途切れ途切れになりながらも、私はロイにすべてを伝えた。
聞き終えたロイは私の額に手を当てる。
「わかった。必ず伝える。だからあんたはひとまず休め。大丈夫、大神官をぶん殴る役はとっとくよ」
そう言い残し、ロイはドアを開けこの部屋を後にした。
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