教育係と脱出
投下します。
よろしくお願いいたします。
深い闇に沈んでいた意識が激痛によって覚醒する。
あの拷問官に散々むち打ちをされ、体中が悲鳴をあげていた。衣服はすでにボロボロで腕や脚が露出し赤く腫れあがってる。一番痛みがあるのは背中だ。腕や脚より当てやすく死角のため、いつ来るかわからないという恐怖が痛みと同様に私を襲う。正直何度気を失ったかわからない。
気を失ったとしても痛みですぐ起きるか、冷水をかけられて無理やり意識を取り戻させられた。こんな拷問がもうずっと続いている。
どうやら今はあの拷問官はいないらしい。これまでも何度かいなくなっては目の前のドアから入り、私が起きていることを確認するとむち打ちを再開した。どうしてもアンドラスを倒した件を吐かせたいらしい。確かに魔人を倒した情報を聞き出したい気持ちはわかる。少なくともこんなやり方をされていなければ教えていた。
それに、気になることを言っていた。我々にとって危険、と。
「我々にとって、危険。我々って、聖教会じゃない? まさか……」
最悪だ。もしそれが本当だったら、一刻も早くアリスとセリスに伝えないと。
激痛が走る体に力を入れるが、四肢を拘束する鉄の枷は外れることなくジャラジャラと音を立てるだけだ。傷口が開き血が流れだす。それでも私は体を動かすことを止めない。
思えば最初から妙だった。魔人との戦いの詳細を必要以上に聞き出したり、一介の冒険者を異端者扱いし拷問にかけたり。おそらく、すべては私を消すためだ。ここで情報を吐いたところで、用済みとなった私はそのまま消されるだろう。私は彼らにとって危険。大神官はそう言っていた。それはつまり。
「大神官の正体は、魔人……っ」
確証はない。だがそう考えたほうがつじつまが合うことが多い。
聖教会の大神官ロズウェル・フォード。城塞都市ヴァレスタを収める彼の正体が魔人ならば、これまでのすべての事態に説明がつく。
異端者認定されたのは、アンドラスと戦い生き残った私を罪人として捕まえるため。
情報を聞き出したいのは、アンドラスのように自身も倒される可能性を事前に潰すため。
拷問をしているのは、情報を吐かせるかつ、同族であるアンドラスの敵を討つため。
ギィィ、とドアが開く。入ってきたのは拷問官だった。手には今まで使っていた物ではなく新しいむちが握られている。
「起きていたか。さぁ、始めようか」
むちを振り空を切る。
「こいつはすごいぞ。打った体から微量だが魔力を吸収できる優れものだ。これでじわじわ追い込んでやる。吐くまでやめないからな。ヒヒヒヒッ」
初めは無表情でむちを振っていた拷問官だったが、時間が経つにつれだんだんと表情が歪み、嘲笑うような言動も増えてきた。おそらくこっちが本性なのだろう。
ドアが閉まる前にもう一人入ってきた。騎士の装いをした男で、拷問官の後ろにピタリと張り付いている。私は精一杯の強がりで後ろの男を睨みつけた。
「今度は……二人がかりってわけ?」
「は? 何言って……」
拷問官が振り返るやいなや、後ろの男の振りかぶった右拳が顔面にめり込む。
「ぐぎゃっ!?」
手に持っていたむちを落とし、殴られた勢いで壁に激突した拷問官はその場に崩れ落ちる。男はむちを蹴り飛ばしすぐさま拷問官のそばによる。
「スリープ」
男が使用したのは対象を眠らせる魔法だ。魔法が発動し、拷問官はそのまま動かなくなる。突然のことに状況が理解できずにいると、男は腰に下げていた剣を抜き鎖を断ち切った。支えが無くなった私の体は糸が切れた人形のように力なく倒れこむ。
「おっと」
すかさず男が私の体を支えたことにより、地面との衝突はなんとか避けられた。
「こいつはひどいな。ヒール」
抱きかかえられたまま何度も回復魔法をかけられ、徐々にだが体の痛みが消えていく。腫れあがった手足はまだ赤いままだがそれでも幾分かはマシになった。
ゆっくりと地面に降ろされ、座り込む私に彼はポーションを渡す。
「飲みな。魔力が回復するぜ」
毒だろうかと疑うほど思考に余裕はない。ふたを開け言われるがままに口に含んだ。一口飲むごとに枯渇しかけていた魔力が回復していくのが分かる。ポーションを飲み干し空になった瓶を置き、私は男性に頭を下げた。
「ありがとう。正直もうだめかと思ってた」
「そりゃ間に合ってよかった。あんた、リタ・フレイバーか?」
「そうだけど、あなたは?」
男性は寝ている拷問官にバインドの魔法をかけ身動きを封じている。そして空になった瓶を懐にしまい立ち上がると、私に右手を差し出した。手を掴み、そのまま引っ張られる形で私も立ち上がる。
「ロイ・エンタールだ。ロイで良い。とある方からの依頼であんたを助けに来た。さっ、早くここから出るぞ」
ロイに連れられ、重い脚を動かし、私はようやくこの部屋から脱出した。
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