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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第四章
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懲罰房の噂

長らく空けてしまいましたが投下します。

よろしくお願いします。

「これはエンタール殿。お疲れ様です」


「エンタール副団長、今度剣の訓練をお願いします!」


「エンタール。今度の会議の件だが、ヴェルグ卿に伝えてくれないか?」


 第三騎士団の屯所からヴァレスタ支部の内部に入ると、ロイはすれ違う聖職者や騎士たちにしきりに声をかけられた。第三騎士団は厳格なヴェルグ卿が団長を務めている関係で安易に話しかけにくい集団だったが、飄々としているロイが副団長になった時期から、徐々にだがその壁もなくなってきている。無論ヴェルグ卿にはその壁は健在だが。それもあり、今はこうしてロイがクッション役となっている。


 いつも通りそれぞれと挨拶を交わした後、ロイは食堂へと向かった。この食堂の利用者のほとんどが聖騎士であり、他の騎士との情報交換の場としても使われてる。団長や副団長といった役職を持つ者はあまり利用しないが、ロイは別だった。


「あらロイさん。今日は何にするの?」


「そうだな……ハンバーグ定食にするよ」


 他の騎士同様トレイを持ち列に並び、注文した料理を乗せて席を探す。初めの頃は物珍しそうに見られていたが、今となっては馴染んだ光景だ。


 席を探す振りをして、ロイはとある騎士を探していた。辺りを見渡し、奥の席にその騎士を発見すると、ゆっくりと進行方向をそちらに向ける。


 周りには数人の騎士が座っており、目的の騎士を含めて食卓を囲んでいた。談笑が絶えないその席の近くまで行き声をかける。


「よう。楽しそうだな」


「エンタール副団長。お疲れ様です」


「副団長、またハンバーグですか。昨日も食べてませんでした?」


「いいんだよ。俺はこれが好きなんだから」


 軽口を言い合い空いている席に腰を下ろす。この騎士たちは第二騎士団所属の騎士たちだ。ランクD冒険者捕縛命令が出ていた時、ヴァレスタ内を警備していた騎士たちである。


 少し雑談を交わした後、ロイは本題を切り出す。


「ところでお前ら、あのランクDの冒険者がどうなったか知ってるか?」


「いえ、特には聞いてないですね」


「大神官様のお部屋に連れていかれたあとは見てないです」


「そう……か」


 あてが外れ、態度には出さず心の中でロイは舌打ちした。


 その時間の担当騎士団は支部内のいたるところに配置される。この騎士たちが見ていないということは、大神官の部屋からは出ていないということだ。となると必然的に行く場所は決まってくる。だが団長でさえ大神官の部屋に入ることは出来なかったのだ。副団長の自分が入れることはまずない。


 強行突破は論外だ。即座に捕縛される。忍び込むとしても念入りな準備が必要となり、そんな時間はない。


 我ながら難易度の高い依頼を受けてしまったものだと後悔しながら、ロイはハンバーグを食べながら次の手を探る。


「いるとしたら地下室ですかねぇ」


 ふと、一人の騎士が同じくハンバーグを食べながらそう呟いた。


「地下室?」


「ええ。そうです。地下室ですよ」


 ヴァレスタ支部には地下室がいくつもある。そこは規律違反を犯した聖徒や聖職者に反省を促すための部屋であり、監査役となる聖職者の許しを得ることで出ることが可能だ。ただ地下室への入り口は大神官の部屋とは離れていて、もし仮に地下室へ連行されていたとしても誰かの目に留まるはず。


「けど地下室と大神官様の部屋は離れすぎてるだろ」


「そうなんですけどね。……これはあくまで噂なんですが」


 騎士が食事の手を止め声を小さくする。ロイと周りの騎士は聞き逃さないように身を乗り出し耳を近づけた。


「なんでも、大神官様の部屋には大昔に使われていた地下室、懲罰房へ続く秘密の扉があるとかないとか」


「あるのかないのかどっちだよ」


「あくまで噂ですよ。で、ここからが本題なんですが……ちょっと寄ってくれますか」


 騎士の声が一層小さくなる。ロイたちはさらに耳を近づけ話し手である騎士の言葉の続きを待った。


「実はその懲罰房への入り口が、地下室のどこかにあるみたいなんですよ」


「なんだって?」


 大神官の部屋から繋がる懲罰坊。そんな話ロイは今まで聞いたことがなかった。以前支部の調査を行った時、地下室も念入りに調査したのを覚えている。その時は気になるところはなく、同行していた騎士からも特に報告はされなかった。


「規約違反を行った者が地下室に送られる際、その人を連れて行くのは大神官様が選んだ聖職者ですよね? 規約違反を犯した人が数日で出てくるのは、大神官様自らがそこに赴き洗脳しているから、なんて噂があるんですよ」


「洗脳……精神操作系の魔法を使っているとでも言いたいのか?」


「ですから、あくまで噂ですよ」


 声のトーンが戻り、話し手の騎士は食事を再開した。他の騎士たちは口々にばかばかしいだの時間を無駄にしただの言い乗り出した体を元の体制に戻した。


 精神操作系の魔法はこの大陸では禁術の部類に当てはまる。もしそれを聖教会の大神官が使用したとなると内部はおろか外部にまで影響が出かねない。


「悪い。そういえば団長に頼みごとをされてるの忘れてた」


「ええ!? それはまずいですって」


「だよな。それじゃあお前ら、またな」


 事の重大さを理解しつつ、残った肉を平らげ、ロイは足早にその場を後にした。


「これくらいのヒントは与えても問題ないでしょう。それにしても――――――」


 にこやかな笑みを浮かべ、騎士はフォークで刺した肉を口に持っていく。そして頬張った肉を咀嚼し飲み込んだ。


「追い払うだけにしておけばよかったものを。少々やりすぎましたね」


 やれやれと息を吐く。その表情は笑顔から一転、鋭いものとなっていた。


 徐々に騎士の体が薄くなる。しゃべり終えたころにはまるで、最初からそこに誰もいなかったかのように騎士の姿は消えていた。

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。


誤字脱字、ご感想などあればよろしくお願いします。

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