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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第一章
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教育係と今後の話

 病室の一角。

 うっとうしいGM(ギルドマスター)は医務員に連れていかれたので、今は私とユキノちゃんの二人きり。


「あの、腕痛い……ですよね」


「え? ああこれ? ちょっとだけね」


 嘘である。せっかく痛みが引いていたのにプレミアのせいでまた痛みが出てきた。あいつ許さん。


 この痛みをダシにどんなおいしいものをプレミアに食べさせてもらおうか。

 そんなことを考えていたらユキノちゃんが勢いよく頭を下げる。


「あの! すみませんでした!」


「へ? 何が?」


 そのまま一向に頭を上げようとしないユキノちゃん。もしかしてこれは謝っているのだろうか。

 なぜ? いったい何に対して誤っているのか、私には見当がつかなかった。


「あのユキノちゃん? どうしたの急に」


「あの森で……」


 そのままの状態でユキノちゃんは続ける。


「あの森でリタさん、怪我して……わたしが放った魔法で火傷もしたって聞いて、その、えと」


 言葉がまとまっていないのか彼女は途切れ途切れに言葉をつないだ。

 要はあれだ、私がこうなってしまったのは自分のせいだと言いたいらしい。


 確かに火傷は軽くした。原因はユキノちゃんが放ったエクスプロージョンで間違いない。

 誰にも言っていなかったが、おそらくエクスプロージョンの話と私の火傷をどこかの冒険者が変な風に解釈し、それがユキノちゃんの耳に届いたのだろう。

 まったくはた迷惑な話だ。


「ユキノちゃん、頭上げてくれる?」


「は、はい」


 こういう素直な子にどう接すればいいか。

 こんな時、なんて言葉をかけてあげればいいか。


 答えは実に簡単だ。


「えい」


「いたっ」


 ユキノちゃんの額めがけて、私はデコピンを喰らわせてやった。


「神妙な顔つきで何を言い出すかと思えば。今回のことでユキノちゃんが責任感じる必要は一切ないよ」


「で、でも」


「ユキノちゃんっ」


 ビクッとユキノちゃんが固まる。ありゃ、少し声強かったかな。

 でもこれは伝えとかなきゃいけない。彼女のためにも。


「助けてくれてありがとう。あなたがいなければ、今頃私はグリンドラゴンのおなかの中だったよ」


 そう。私はまだ彼女に感謝の言葉を伝えていなかった。

 なにせ放心状態で帰ってきたので伝えるタイミングがどこにもない。というわけでようやく伝えられたわけだが。


「あ、でも私脂肪分少ないからあんまりおいしそうじゃなかったかも。だとするとあのまま放置ってことも考えられ」


「リタさん!」


 ガバっとユキノちゃんが私の胸元めがけて顔をうずめる。そのまま声を上げて泣き出した。

 きっといろいろなことを考えていたのだろう。それが感情となってあふれ出てしまったのだ。


「よしよし。お疲れ様ユキノちゃん。よく頑張ったね」


 どんな強い魔力を持とうが、高位魔法を操れようが、まだまだ年頃の女の子。それを忘れちゃいけない。

 今は気のすむまで泣かせてあげよう。それが彼女より少しだけ、ほんの少しだけ(超重要)人生経験が上である私の役目だ。























「気は済んだ?」


「はい。もう大丈夫です」


 ようやく泣き止んだユキノちゃん。それを待っていたのかプレミアが戻ってきた。


「あれGM(ギルドマスター)、医務員様からのお説教はもう済んだの?」


「うっさいわねー。反省してまーす」


 プレミアはふてぶてしい態度でそう答えた。

 こいつ全然懲りてないな。後で医務員さんに言っといてやろう。


「そんなことよりユキノ、あなたに聞きたいことがあるの」


「はい? なんですかプレミアさん」


「単刀直入に聞くわ。あなたこの世界の住人じゃないわね」


 さっきのプレミアからの話を聞いて私もユキノちゃんは来訪者だと思っている。


 あれほどの魔力を持ちながら今までその存在が明るみに出ていなかったのはいくつか理由が考えられるが、服装や街の感想はユキノちゃんが来訪者だった場合つじつまが合うのだ。


 さあ、どう答えるユキノちゃん。


「はいそうです。よくわかりましたねプレミアさん」


 あ、意外とあっさり言うんだ。


「ふふん、当然よ。ワタシはこのオリジンのGM(ギルドマスター)。何もかもがお見通しなのよ!」


 プレミアが調子のいいこと言っている。


「わたしは自分の世界で死んでしまって、女神様にこの世界に転生させてもらったんです」


 ユキノちゃんが言うには、転生させる代わりに生を謳歌してほしいと女神に言われたそうな。その時に女神に頼んで規格外の魔力を得たらしい。


 なんとも気前のいい女神がいたもんだ。


「じゃあ例えば魔物を多く倒せとか、魔法を使うたびに体に何か異常をきたすとか、そういうのはないのね?」


「はい。女神さまはただ、早めに死んでしまった分この世界で生きてほしいって言ってました。体を再構築する際にめちゃくちゃ頑丈にしてくれって頼んだので病気も怪我もめったにしません」


「なるほど。であれば何も問題ないわね」


 コホンとプレミアは咳ばらいを立ち上がる。


「ユキノ・コウズキ」


「え、はっはい」


 名前を呼ばれユキノちゃんもあわてて立ち上がった。


「オリジンGM(ギルドマスター)プレミアの名において、竜種グリンドラゴンを討伐した功績を認め貴殿の冒険者ランクをBランクに認定します」


 通常冒険者ランクが変わる方法としては、現ランクで受注できるランクアップクエストをクリアしなければならない。そしてクエストをクリアしギルド幹部に認められればランクアップが成立する。


 だが今回のようにGM(ギルドマスター)が直接その冒険者の功績をたたえランクをアップさせることもあるのだ。もちろんこれは特例中の特例。GM(ギルドマスター)のみ行える事だ。


「び、Bランク……さっきまでFだったのにB」


 自身のランクアップに驚いている。それもそうだ。わずか一日でFからBになった冒険者なんて前代未聞である。現在AやSランクの冒険者たちでさえその速さではなかった。


「良かったねユキノちゃん。まさか一日で追い抜かされるとは」


「いや、そんな……」


 まだ実感が薄いのか、ユキノちゃんはから返事だ。経験はまだまだだけど女神お墨付きの体であればこの先問題ないだろう。


「ユキノちゃんもFランクじゃなくなったことだし、私の指南もこれで終わりだね」


「……え?」


 Bランクになったことで今後様々なクエストを受けることができる。もちろんC以下のクエストも受けられるので実践訓練なんかも行えるはずだ。


「今度知り合いのBランク冒険者を紹介するよ。そいつと組めばクエストも問題なく」


「いやです」


 今の低い声は誰が出したんだろう。プレミアかな。首を横に振っている。目線はユキノちゃんに向いていた。まさか、そんな声出せたのかユキノちゃん。


「えっと……いや?」


「いやです」


「な、なにがかな」


「わたしはまだまだリタさんに教えてもらいたいことがいっぱいあります」


「いやでも私Dランク」


「そんなの関係ありません!」


 ユキノちゃんが顔をグイっと近づけてくる。

 怒っているのか泣きそうなのか、そんな表情だ。


「ランクなんて関係ないです! わたしはリタさんと冒険したいんです! もっといろんなこと教えてもらいたいんです……」


 BランクとDランク。階級的には2段階しか変わらないが、そこには大きな実力の差があるのだ。

 ユキノちゃんが私とクエストを回っても、きっと彼女が容易くこなしてしまう。


 そんなの、彼女のためにならない。


「ユキノちゃん聞いて。やっぱり私といても」


「すればいいじゃない。一緒に冒険」


 プレミアがそんなことを言い出す。


「リタ。ちょうどあなたに頼みたいことがあったのよ」


「このタイミングで? いったい何よ」


 いつものニマニマした笑みを浮かべるプレミア。こういう時は大概ろくな頼みじゃない。


「実はセカンドのギルドで一人大型新人が入ったっていう通達が私のところに来てね」


 セカンド。オリジンから馬車を使って四日ほどの街だ。そこにも冒険者ギルドが存在し高ランクの冒険者たちが覇を競っていると聞く。


「規格外の強さを持ったその新人っていうのが、どうも来訪者っぽくって」


「つまり?」


 いやな予感が的中した。


 プレミアはわざとらしく咳払いをし、後ろに腕を組んで告げた。


「リタ・フレイバー。GM(ギルドマスター)からの勅令である。傷が癒え次第セカンドへ赴き、来訪者の詳細を報告せよ」


「勅命はずるいぞプレミア」


 GM(ギルドマスター)からの勅命。それは何事にも勝る、冒険者であるならば最優先にしなければならない命令である。実際初めて使われた。


「ユキノ・コウズキ」


「は、はい!」


 なるほどこういう流れか。さすがギルマスきたない。


「リタ・フレイバーに同行し来訪者の詳細を報告せよ」


「……っ! はいっ!」


「はぁー……」


 こうして不良ギルマスの計略により、私はユキノちゃんとセカンドへ赴くこととなったのであった。

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