不安と疑問
投下します。
「あの異端者はどうしている」
ランクD冒険者、リタ・フレイバーを拘束してから数時間。情報を聞き出せたと一向に報告してこない聖騎士の一人に、ロズウェル・フォード大神官はいらだった声をぶつける。
たかが二人の冒険者の居場所を聞き出すだけでまさかこんなにも時間がかかるとは想像していなかった。すぐに音を上げ許しを請いながらべらべらとしゃべるものだと考えていたが、存外にしぶといらしいと認識を改める。
「はっ! 今現在も尋問を続けてはおりますが、依然として仲間の冒険者の居場所を吐くことはなく……」
「なるほど。あの冒険者を少し見くびっていたか」
魔族であれば他者のことなどすぐに切り捨てる。自分が助かるのであれば当然のことだ。それは人間でも同じ事だろう。どんなに頑なな意思を持っていても責め苦を続ければいずれは壊れるときが来るはずだ。少なくともこの体の持ち主はそうだったと、ロズウェルはロズウェルとして生きることになった日のことを思い出す。
「引き続き尋問を続けろ。それでも吐かない場合は精神操作の魔法を使用する」
「精神操作の魔法ですか!? し、しかしそれは聖教会の教えに反することに……。それにあの冒険者の精神を壊してしまう可能性があります」
ロズウェルの言葉を聞きうろたえる聖騎士。
精神操作の魔法。その名の通りかけた相手の精神を術者の思いのまま操れる魔法だ。現在確認されている魔法の中でも禁忌の部類に当てはまる。その理由は単純だ。人を思いのままに操る行為は人道的に反しており、かけられた者の精神が崩壊する可能性がある。ゆえに大陸に精神操作系の魔法はあれど、王国領土であるこの地での使用は禁じられているのだ。
そして今、それを使用するようにと大神官が告げ、その場に居合わせた他の騎士たちにも動揺が走る。
「あくまでどうしようもない時の手段だ。いいかね、魔族に対して後手になってはならない。我々はどんな汚名を被ろうとも正義を執行しなければならないのだ」
ロズウェルの熱の入った口上からその覚悟を感じ取り、不安な顔をしながらも騎士たちは一礼し部屋から出ていった。これで尋問に力が入るだろうと、ロズウェルは椅子に座り資料を眺める。
手に取ったのは聖騎士の一人が先ほど持ってきたリタ・フレイバーに関しての詳細な資料だ。
「オリジンの冒険者でランクDになったのもつい数か月前。魔力戦闘力ともに平均値。本当にこの女がアンドラスを?」
報告書を見れば見るほど、ただのランクD冒険者の事しか書かれていなかった。特殊な能力も無ければ力が覚醒したわけでもない、新米の冒険者に基本的なことをレクチャーをしているだけのただの小娘。確かに続くセカンドで起こった魔剣騒ぎには関わっているようだったが、あれを収束させたのはランクSの白の剣聖だ。
今はアンドラスの件で浮上した二人の冒険者の居場所を尋問しているが、こちらもリタ・フレイバーがアンドラスを倒したということ対して疑問が消えない。実力がないランクD冒険者が果たして魔人を倒せるのだろうか。それとも、と大神官の疑問は絶えない。
そもそも、あの男の言ったことは本当だったのだろうか。
「アベルめ。なぜこういう時に現れない」
いつも呼んでもいないのにふとした拍子に現れる男に対し苛立ちをぶつける。そういえばここ最近は姿を見せていない。今ごろ別の魔王候補者のところにでも行っているのだろうか。
「残された時間はあとどのくらいだ。私はあとどれくらいここに居られる……」
いつまでもここに居られる保証はない。いずれ必ず自身の正体が明るみに出るときがくる。その前に事を終えなければならない。
直属の部下に選抜した聖騎士や聖職者は元々の魔力抵抗力が低い者たちだ。それゆえに認識阻害の魔法も難なくかけることが出来た。今のロズウェルと前のロズウェルでは魔力の流れが違う。その為例えば聖騎士団長クラスに直接遭遇でもしたら自身が魔族であることが見抜かれてしまう恐れがあった。聖騎士団長であるヴェルグ卿を近づけさせなかった理由がそれである。この間会ったランクSの凄女に見抜かれなかったのは奇跡に等しい。
早いところリタ・フレイバーから他の冒険者の情報を聞き出し、その冒険者を聖教会の名のもと異端者として始末したのち魔族領へ帰還する必要がある。アンドラスを倒した冒険者を葬ったとなれば、魔族内での評価も上がるに違いないとロズウェルは踏んでいた。
すべては、自身が魔王になるために。
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