強面店主再び
投下します。
「ほれ、ミルクだ」
宿屋の一室。手当を受け横になっているところにウォーロックが入ってきた。
ベッドから起き上がるレクトにウォーロックは自慢のミルクが入ったコップを渡した。ゆっくりと一口含み静かに飲み込む。よほど喉が渇いていたのか二口目からは勢いよく飲み込み、あっという間に飲み干した。
ここはウォーロックが経営している宿屋である。精魂尽きかけていたレクトはたまたま通りかかったウォーロックによって彼の経営する宿屋に連れてこられていた。
「いい飲みっぷりだ。おかわりならいくらでもあるからな」
気前よく空になったコップにミルクを注ぐ。三杯目を飲み干したところでふさぎ込んでいた気持ちが晴れ、ようやく平常心を取り戻したレクトはウォーロックに頭を下げた。
「あの、ウォーロックさん。ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいってことよ。それより坊主、お前あんなところで何してたんだ? それも一人で」
「それは……」
レクトはウォーロックの問いに口ごもる。今の状況を話すべきなのかどうか、正直迷った。
リタとイザークは異端者として聖教会に捕らわれている。ヴァレスタは聖教会が中心となっている都市であり、当然街の住民は聖教会の指示に従う違いない。レクトは今そう思っていた。目の前のウォーロックも、助けた子供が異端者の仲間だと知れば容赦なく聖教会に突き出すことも考えられる。
「なんだ、えらく辛気臭い顔しやがって。あれか? 試験ダメだったか?」
「は、はい……。不合格でした」
「そいつは残念だったな。ちなみにどんな試験だったんだ」
「ゴブリンと戦って、そのあと試験官とも戦いました。試験官は聖騎士団長のヴェルグ卿という方で」
「ん? ちょっと待て坊主。今ヴェルグ卿って言ったか?」
ウォーロックが身を乗り出す。
「ヴェルグ卿って、あの聖教会第三騎士団団長のか?」
「そう名乗ってました」
最も正式に名乗られたのはリタが異端者認定された時なので、レクトにとっては最悪の名乗りだったわ訳だが。
話を聞いていたウォーロックはなぜか「そうか、そうか」と腕を組み口元を緩めてうなずく。自分の事のように喜んでいるウォーロックに対し、レクトは生じた疑問をぶつけた。
「あの、なんでそんなにうれしそうなんですか?」
「うれしいに決まってるだろ。あの頑固なアルの野郎が試験官を務めた。つまり自分の後継者候補を見つけたってことだ」
「後継者……候補?」
怪訝な表情を浮かべるレクトをよそにウォーロックは続ける。
「ああ。ここ数年聖徒試験を介してして有望な候補者がいないか探していたようだが、ようやく見つかったらしい。お前だ坊主」
ウォーロックの話によると、ヴェルグ卿はここ数年聖徒から自身の後継者となる人材を探していたようだ。しかし自身の基準に到達する者はなかなか現れず、ただ月日だけが過ぎていく。聖教会内で後継者を見つけることを困難と考えたヴェルグ卿は、聖徒試験を介して外部からも後継者を探すことにした。そして自身の基準にあった者が聖徒試験を受けに来た際、自ら試験官となり実力を見極める。
これが聖騎士団長自ら試験官となった理由だった。
「そうだったんですね」
「実際今の聖徒からあいつの後継者を見つけるのは難しいだろうな。まぁあいつの基準ってのが高いのも問題なんだが……」
「でも僕聖徒の試験落とされたんですけど」
「あいつが試験官を務めた試験の結果に関して忖度はねぇ。純然たる結果だ。ようは坊主の力がまだ足りなかったんだな」
ガハハハと口を大きく開き豪快に笑うウォーロック。それを聞いてレクトはひとまず安心した。後継者にしたいから落とされたというわけではない。あの騎士団への入隊の話も本心からなのだろう。そこについては偽りはなかったようだ。
「あの、ウォーロックさんとヴェルグ卿はどういった関係なんですか?」
ヴェルグ卿の事を『アル』と愛称で呼ぶウォーロック。イザークが昔は冒険者だったと話していたが、冒険者と聖騎士団長とではあまり一緒のイメージがわかない。一体どのような繋がりなのだろうか。
「俺とアルか? そういや言ってなかったな。言う機会もなかったが」
自身もミルクをジョッキで飲み、一呼吸おいてからレクトの問いに答えた。
「俺とあいつは昔からの腐れ縁でな。あいつが聖騎士団長になる前からの付き合いなんだよ」
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