挫折
投下します。
よろしくお願いします。
夜のヴァレスタを重い足取りで進む一つの影があった。まだ治りきっていないその体を引きずりながら、レクトは無理やり前へ進んでいく。
足を止めたら何もかもが無駄だったと言われそうで。すべてが終わってしまいそうで怖かった。そんな恐怖に駆られながら必死に足を動かす。
リタがヴェルグ卿に連れていかれたあと、駆けつけた聖騎士たちによって気絶したイザークは拘束され連行された。聖職者でありながら魔族に内通していたものを手引きした異端者として。そしてそのまま医務室にいれるはずもなく、レクトは聖騎士によって一人支部の外へ放り出されたのだ。
外は日が落ち、街灯の明かりが街を照らしている。露店でにぎやかだった支部の周りも静けさに包まれ、今は人の通りも少なくなっていた。
「なんでこんなことに……」
今の状況を理解できるはずもなく、レクトは当てもなく進み続ける。一つだけ分かっていることは、ヴァレスタ支部の近くから早く立ち去らなければならないことだけだった。
子供だからと見逃してもらえたのだろうが、いつ考えを変えて襲ってくるかわからない。騎士団相手に逃げ切れるほど、まだ体の傷は癒えてはいなかった。
重い体を引きずりながらもヴァレスタ支部から離れ繁華街の方へと進む。昼間イザークと回った武器屋や魔道具店、飲食店も明かりを消し閉まっていた。
「はぁ……はぁ……」
一歩進むごとに足取りが重くなる。体力の限界が近いのをレクトは感じていた。
聖女の役に立ちたい。ただその一心でここまで来た。憧れの聖職者に出会い道中様々なことを教授され聖徒の試験に挑み、合格とはならなかったが聖騎士への道を示してくれる理解者も現れる。ここまで来た意味があったと思える瞬間だった。
しかしその後目の当たりにしたのは聖騎士団長の横暴。自身の目で見たものを信じず何の確証もない事で一人の冒険者を捕縛し連行した。
聖職者とは、聖徒とは、聖騎士とは。
正しくある者だと、正しい行いをする者だと信じていた。だがそれは違う。そうではなかったのだ。
「いったい……僕は何のためにここに」
足がもつれる。疲れ切った体で歩いていたせいもあり、体勢を立て直す間もなくレクトは地面にうつ伏せに倒れた。両手に力を入れ起き上がろうとするが一向に体が持ち上がらない。足も鉛のように重く、地面を蹴れずにいる。気力、体力ともに限界だった。立ち上がれない理由は分かっている。
自分の体が自分に立ち上がることを諦めさせたのだ。
「もう、いいや」
足音が聞こえる。やはり考えを改め捕まえに来たのだろうか。もういい、とレクトは目を閉じる。逃げることも出来ず、かといって抵抗する気もない。近づいてきた足音は一人分。何をされるか想像もつかないがきっとろくなことじゃない。聖女への恩返しも出来ないまま捕まることを悔しく思いながら、レクトは聖女に心から謝罪した。
首根っこを掴まれ無理やり立たされる。ふらふらの体で立つことは敵わずすぐに倒れかかったが、両腕を掴まれ倒れないように固定される。ずいぶん乱暴だなと思いつつも、ぼやけて見える目の前の大男の姿に疑問を抱いた。聖騎士が装備していた全身甲冑でもなければ、聖職者が着用しているローブでもない。
徐々に視界がはっきりしてくる。戦士職かと思わせるような筋肉ではち切れそうな白のシャツと黒いズボンを着用したスキンヘッドの大男。見たことのある顔だった。
「坊主。こんなところで何やってんだ」
そこにいたのは強面の宿屋の店主。ウォーロック・キャバレイが怪訝な顔でレクトを覗き込んでいた。
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