教育係と連行
投下します。
よろしくお願いします。
「ヴェルグ卿!」
声を荒げ、私とヴェルグ卿の間に入るイザークさん。こんなに慌てたイザークさんを見るのは今までで初めてだ。
「お待ちくださいヴェルグ卿! これは何かの間違いです! リタさんが魔人と繋がっているなどと」
必死に弁解するイザークさんの言葉に対し、ヴェルグ卿は全く聞く耳を持たない。
聖教会第三騎士団騎士団団長。たった今ヴェルグ卿はそう名乗った。つまり聖教会内において相当な実力を持つことは明白である。そんな輩が今、目の前の私を捕まえようとしているのだ。しかも完全な濡れ衣容疑で。
「そこをどけイザーク」
「いいえ、どきません」
イザークさんはリザードと戦った時に見せた戦闘態勢を取る。聖職者は武器を使用しない。己の肉体のみで戦闘を行う。普通の魔物相手の場合は問題ないだろうが、相手は聖騎士、しかも団長クラスである。果たして体術のみで聖騎士団長の剣技と渡り合えるのだろうか。それに対してヴェルグ卿は腰の剣を抜くことなく、目を閉じ腕を組んで深いため息を吐く。
「私と戦うか。ただでは済まんぞ」
「そうでしょうね。ですが、誤った情報でリタさんが連行されるのを黙って見過ごすわけにはいきません」
「そうか。ならば寝ていろ」
カッと目を見開きヴェルグ卿がそう言った刹那、一瞬でイザークさんの背後に回り込み首を手刀で強打する。声を上げる間もなくイザークさんは膝をつき前のめりに倒れた。
「イザークさんっ!?」
勝負は一瞬で着いた。うつ伏せで倒れたままイザークさんはピクリとも動かない。完全に意識を失っている。そのままヴェルグ卿は束縛の魔法でイザークさんの両手両足の自由を封じた。これで仮にすぐ意識が戻ってもヴェルグ卿に向かっていくことは出来ない。
「狭い室内ならば剣は戦いにくいと思ったか。あいにく剣だけが戦闘手段ではないのでな」
見えなかった。今の動き。私は目の前でヴェルグ卿を見ていたのに、イザークさんの背後に回った動きを目で追うことが出来なかった。
ジワリとにじみ出た汗が頬をつたう。今ので分かった。ヴェルグ卿から逃げることは不可能だ。かといって倒すことも出来ないだろう。これは詰みだ。私は腰のダガーを床に置き静かに両手を上げ抵抗の意思がないことを伝える。
「賢明な判断だ」
「そりゃどうも」
ヴェルグ卿はダガーを拾い上げ、私に後ろで手を組むよう命令した。言われた通りにすると、束縛の魔法をかけられ、両手の自由がなくなる。かなり頑丈な拘束だ。
束縛魔法は使用者の魔力と対象者の魔力によって強度が決まる。大体が数時間で解けるがこの強度だとイザークさんはともかく、私じゃ半日では解けないだろう。それほどまでにヴェルグ卿の魔力は高いということだ。
「ではいくぞ。大神官様がお待ちだ」
「待ってください!」
ベッドから起き上がり、よろけた体で必死に立つレクトの声にヴェルグ卿が動きを止める。
「リタさんは何もしていません! それなのになぜ」
「大神官様の命令だ。連れて行かないわけにはいかん」
「でも、リタさんが魔人と繋がっている証拠がありません。それなのに連れて行くんですか? 聖騎士は、正しくない行いを平気でするんですか!?」
レクトの言葉を聞いて憤慨したのか、ヴェルグ卿の拳に力が入る。乱暴にドアを開け私を先に出し、部屋を出る最中レクトに告げた。
一瞬見えたその横顔は怒っているわけではなく、ひどく悲しそうで。
「少年。騎士団への件だが一旦保留だ」
「そんなの、こっちから願い下げですよ」
そして、医務室のドアは閉じられた。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字、ご感想などあればよろしくお願いします。
励みになります。




