教育係と騎士団長
かなり期間が空いてしまいました。
お待たせしてしまってすみません……。
投下します。
「聖女様のお役に立とうとするその心意気、賞賛に値する。だが、それを成すには実力が備わっていない」
ヴェルグ卿の厳しい言葉にレクトはうつむいてしまう。
厳しいかもしれないが、今のレクトはただ魔力が多いだけ。使える回復魔法は初級のヒールのみ。戦闘面でも駆け出しの冒険者に劣るくらいだろう。そんなやつがいくら聖女に対しての意気込みを語ったところで、熱狂的な信者としか思われない。
「聖徒とは、聖属性魔法に特化しかつ戦闘面においても優れた資質を兼ね備えた者がなることを許されるのだ。少年よ、お前は魔力は多いようだが戦闘の経験は浅いな?」
「はい。魔物との戦闘は、数えるほどしかしてません」
「はっきり言おう。今の実力では聖徒にはなれん」
「ヴェルグ卿、今回の試験は彼の実力を確認するために受講いたしました。合格できないことは彼も重々承知の上です。ですから―――――」
そう。イザークさんの言った通り今回はレクトの実力を見るために受講したのだ。経験が足りていないレクトが不合格になるのは百も承知。足りなかった部分を補い再度試験に挑戦する。そういう目的だったはずだ。まさかこんな無慈悲な男が試験官になるとは予想できなかったけど。
「イザーク。その甘さは相変わらず治っていないようだな」
「甘さ……ですって?」
「お前はこの少年の実力を見抜いた。今のままでは試験には合格できない。だから一度試験を受け、今回の結果を次回以降の試験に生かそうと考えた。違うか?」
「おっしゃる通りです。現在のレクト君の実力では合格できないと判断し、経験を積ませるために試験を」
「イザーク。お前が聖徒の試験を受けたときもそんな意気込みだったのか?」
ヴェルグ卿の言葉に、イザークさんはそれ以上言葉を発することはなかった。
「いいかイザーク。試験に今回も次もない。この少年は聖徒になるため試験を受けた。ならばその試験に合格するための手ほどきをするのがお前の役目ではないのか? 一度受けて様子見だと? なめるなよ小僧」
ヴェルグ卿の怒りのこもった声がイザークさんに向けられる。どうやら試験に対しての考えに相当憤慨しているようだ。同じ聖教会所属として許せなかったのだろう。
「あの」
それまで黙っていたレクトが、場の流れを変えるために声を上げる。
「聖騎士にって言ってましたけど、あまり理解してなくて」
「私も。聖徒と聖職者と、聖騎士? 何がどう違うの?」
「ふむ。そこからの説明が必要か。イザーク、事を急ぎすぎだ」
「もうしわけありません……」
イザークさんに苦言を言い渡し、さて、とヴェルグ卿は話し始める。
「聖教会には大きく三つの区分がある。まずは聖職者についてだ。聖属性魔法に長け優れた戦闘能力を持ち、かつ武器を使用しないでも戦えること。イザークがこれにあたる」
「そういえばフレイムリザード相手に素手で戦ってたよねイザークさん」
「次に聖徒だが、聖職者の適性がある者を指す。定義はあいまいだが、まぁ聖教会内での優良株という認識で良い。まだどこの派閥にも引き込まれていないから引く手あまただ」
「うげっ、派閥なんてあるの? 一枚岩じゃないんだ」
「それはそうだ。世界的に影響力のある組織だぞ。派閥もそれだけ存在する」
冒険者ギルドにも派閥なんてあるんだろうか。オリジンにはなさそうだけど。プレミアが仕切ってほかの職員さんたちもそれに従ってるし。
「イシスという冒険者ギルドがあるのは知ってるだろう。あれの関係で色々な」
冒険者ギルド『イシス』。確か聖教会の教皇がギルドマスターを務めているとプレミアが言っていた。トップが同じ人なのに派閥に影響があるとはいやはや何とも。
「そして最後に騎士団。これは聖教会への悪意を刈り取る、武器の使用を許された組織だ。聖徒や聖職者とは別物なので入り方が違う」
「どんなふうに?」
「聖属性が使えずとも、戦闘面での実力を示せば入れる」
「なんか一気に冒険者よりになったね」
「もちろん身辺調査はしっかりさせてもらう。そのうえで入団テストを行い合格できれば騎士団の一員になれるのだ」
つまり聖属性魔法が使えない熱狂的な信者への救済処置というわけか。各地の救済活動は聖職者が、魔物退治などの荒事に関しては聖騎士が担当することで、見事に役割分担が出来ている。
「でも僕の実力じゃ騎士団にも入れないんじゃ……」
「そこは私の部隊に所属させるから問題ない」
「私の部隊……?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。私は――――――」
「ヴェルグ卿っ!!」
今まさにヴェルグ卿が名乗ろうとした瞬間、息を切らし甲冑姿の騎士が医務室に入ってきた。
「間の悪い奴め。何事だ」
やれやれと言った様子で首を振り、コップに水を注ぎ入ってきた騎士に差し出す。騎士は一礼しコップを受け取り水を飲み干すと、先ほどの勢いを取り戻した。
「ロズウェル・フォード大神官から緊急伝達です! 本日回復魔法の講義を受講したリタ・フレイバーなる冒険者を即刻捕らえよとの事です!」
「リタ……?」
ヴェルグ卿が怪訝な顔で私を見る。
「リタ・フレイバーには魔人との繋がりがあるとされ現在騎士団総出で……ヴェルグ卿! その女です! その女がリタ・フレイバーですっ!!」
「はぁっ!?」
息を切らしていた騎士が私を見るなり帯刀していた剣を抜きじりじりと距離を詰める。目の前の騎士が言っていた魔人との繋がりって何のこと? 魔人に捕まったことはあるけど、もしかしてそれが変な風に伝わっちゃってるの?
「剣を収めろ」
「ヴェルグ卿、しかし」
「ここは私が対処する。お前はほかの騎士団員に通達しろ。行けっ!」
ヴェルグ卿の命令で騎士は剣を収め部屋から出ていく。残された私たちの周りには、先ほどとは明らかに違う空気が流れていた。
「さて、自己紹介がまだだったな」
ヴェルグ卿はドアの前に立つ。表情は険しく目つきは鋭い。あれは敵とみなした者に向ける表情なのだろう。
「我が名はアルフォード・フォン・ヴェルグ。聖教会第三騎士団団長である。リタ・フレイバー、抵抗は……してくれるなよ」
重く、低く、冷たい声色でヴェルグ卿は言葉を放った。
組織というものは様々な考えを持つ人がいるので、大きくなるにつれて一枚岩ではなくなっていくのです。
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