教育係と納得できない現状
投下します。
私は急いで医務室へ向かった。ほかの部屋の試験はすでに終了していたようで、見学席には誰の姿も見えない。
試験内容はごく単純なものだった。だがその単純さが逆に試験の難易度を上げている。一撃当てられなければ合格にはならず、レクトもその条件を出された以上諦めるわけにもいかない。だからこそあそこまでボロボロになっても倒れなかったのだ。
医務室に着くと担架からベッドに移されたレクトの横たわる姿が目に飛び込んできた。今も数人の職員がヒールをかけ続けている。
「レクト!」
駆け寄って声をかけるが反応がない。息づかいが荒くうめき声をあげ苦悶の表情を浮かべていた。
職員たちがヒールをかけ続けているおかげで体の傷は治りつつある。
やがてレクトの体の傷がなくなると、職員はヒールを止め私に一礼し医務室から退室する。私はタオルを見つけ水で濡らし、レクトの体を拭いてやった。
「レクト、レクトッ」
名前を呼び体を揺さぶるが一向に起きる気配はない。表情が険しくなっていくばかりだ。
「リタさん、レクトくんは!?」
息を切らし、イザークさんが医務室に入ってきた。手には魔力回復のポーションが握られている。
「息はしてるけど全然起きない! どうして……」
「魔力切れにより、一時的に意識を失っているのだと思います」
魔力を使いすぎると魔力切れという症状が発生する。魔力切れを起こすと気分が悪くなったり、体の動きになにかしら支障が出たりすることもあるが、意識が戻らないのはまずいことだ。
限界まで魔力を使った場合多大な疲労感とともにその場に倒れることになるが、意識は途切れない。なぜかというと、自身では限界まで魔力を使っているつもりでも無意識に体が魔力の放出をセーブしているからだ。
だが、体がセーブしているにも関わらず自身の持っている能力以上の力を出そうと無茶をし、結果体からすべての魔力を放出してしまい途切れさせてしまうこともある。そうなってしまうと意識がぶつりと途切れ、魔力が回復するまで目覚めないのだ。
人の体は魔力の循環によって内部組織の活性化を行っている。魔力量が多い者の怪我や病気が治りやすいのはそれが理由だ。
だが今のレクトの魔力は空っぽ。一滴も残っていない状態だ。本来であれば魔力回復のポーションを飲んで事なきを得るが、意識を失っているとなると当然自分で飲むことが出来ない。魔力が回復するのを待つしかないのだ。
「先ほども言いましたが、レクトくんの魔力量は私より多い。その魔力が切れてしまったのです。回復するには時間がかかるでしょう」
「そんな……」
聖女の役に立ちたい。レクトははにかみながらそう言っていた。助けられた恩を返すために聖職者になると。その一心でここまで来て試験を受けたのに、この結果はあまりにも悲しすぎる。
試験官は実力が伴っていないのが途中で分かっていたのだろうか。分かっていてあんな試験をしていたんだろうか。どこかで諦めがつくように。心をへし折るようなことをして。
試験の様子を思い出し、徐々に怒りがこみ上げてくる。握ったこぶしをほどかずに、レクトに背を向け私は医務室の出入口へ歩き出した。だがその動きを止めるかのように、イザークさんが私の肩を掴む。
「リタさん、どちらへ」
「止めないでよイザークさん。一言言ってやらないと私の気が収まらないんだ」
「聖徒の試験は厳しいと、お伝えしたはずです」
「だからってこれはやりすぎだよっ!」
聖徒の試験が冒険者の試験より厳しいのは理解しているつもりだ。あの試験官も仕事をこなしただけなのだろう。だけど、この現状に関しては納得できていない。少なくとも試験官を直接問いただすまでは納得するわけにはいかなかった。
医務室を出ようとしたが、出入り口に突如人影が現れたため足が止まる。フードをかぶり聖職者のローブを羽織った巨体が私の行く手を阻むかのように医務室に入ってきた。
「君は確か……先ほどの少年の付添か」
「あんた……っ」
目の前に現れたのは、先ほどレクトの試験官を担当していた聖職者だった。
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