教育係と事後報告
見ている方がいらっしゃるかどうかわかりませんが、お待たせいたしました。
「ぐすっ……それで? 活性化していたグリンドラゴンはユキノが放ったエクスプロージョンで跡形もなく消滅した、と」
「そ、そうよ」
ギルド内にある病室の一角。
例のギルマス権限により面会拒絶となった部屋で、私はプレミアの問いに答えていた。
「私じゃなく、ユキノちゃんが倒したの。呪文も詠唱していた。あれは紛れもなく彼女自身の力よ」
私とユキノちゃんはデリルの森からオリジンに戻った後、すぐに医務室へ搬送された。
デリルの森にグリンドラゴンが出現したという情報はプレミアに伝わっていたらしく、森に入った私たちを救出しようと部隊を編成している最中だったらしい。
そんな真っただ中にぼろぼろの私とユキノちゃんがギルドに戻ってきたのだ。プレミアに泣きながら怒られるわなんやらで、ようやく落ち着いたのが今である。
「まさかFランクの冒険者が高位魔法、それもエクスプロージョンを操るだなんてね」
「もともと魔力は高かったんでしょ? 魔法の素質があったとか」
「あってもいきなり高位魔法は前代未聞よ。それこそおとぎ話に出てくる…………」
ふと、プレミアの口が止まる。どうしたのだろうか。彼女は何かに気づいたかのように目を見開いている。
「規格外の魔力……突然現れる……ねえリタ。ユキノはこの街を見て何か言ってたかしら」
「え? うん、確か『中世の世界』だかなんだか」
「あとは!?」
「ええ? うーん、『ファンタジー』とか言ってたような」
急にどうしたというのだろう。確かに聞きなれない言葉だったので気にはなっていた。だがユキノちゃんの国の方言だと思い特段深堀はしていない。あまり聞き入るのもどうかと思ったし。
「プレミア、どうかした?」
「リタ。もしかしたら、もしかしたらね。ユキノはこの世界の住人じゃないかもしれないの」
「それは、どういう意味?」
この世界の住人じゃない? 何を言っているんだろう。確かに私たちとは少し違うけど、あとは何ら変わりない普通の女の子だ。
「リタは来訪者の種類って知ってる?」
「……知ってるよ。転生者は死んだ者が別の個体で生を受けた者。それに対して転移者は召喚魔法で呼び寄せた者」
前に知り合いの魔法使いがそんなことを言っていた。
いずれもこの世界の住人ではなく、何かしらの使命や枷を与えられる代わりに、規格外の力を手にすることができる。その魔法使いは総じて『来訪者』と呼称していた。
「ユキノにも聞いてみないと確証は取れないけどね。少なくともワタシはそのどちらかだと思う」
「それで、そのことでユキノちゃんに何かあるの?」
プレミアは信用できる友達だ。だがそれ以前にオリジンのGMでもある。
わざわざこんな話をしてきたってことは何かしらあるはずだ。
大昔にも来訪者は姿を現していたらしい。今流通しているおとぎ話や英雄譚の本にもしばしば登場する。
桁外れの力を持った外の世界からの来訪者が主人公の冒険の手助けをするのだ。
一緒冒険し魔物を対峙し、元の世界に帰る者もいればそのまま残る者もいる。
言ってみれば、来訪者は英雄的な位置づけだった。
「もしユキノが来訪者だった場合、あの莫大な魔力の代償に何かしらの制約があるはずよ。それを確認しないと、せっかくグリンドラゴンを倒したのにランクアップの手続きができないじゃない」
「へ?」
いつになく真剣な表情で話すから何かと思いきやランクアップだって?
「もしユキノの制約が魔物を倒すことで体に負荷をかけるものであるならば、ワタシはあの子の冒険者登録を抹消して秘書にするわ。あっ、狐の館の店員になってもらうのもありね。ファラさん喜びそう」
「ちょちょ、ちょっと待ってプレミア。あんたそんなこと考えてたの? 私はてっきり」
「てっきり追放とか拘束とか、最悪処分するとか言われるとでも思った?」
ビシッと私は額にデコピンを喰らった。
「ユキノはリタにとって妹みたいなもんでしょ? だったらワタシの妹でもあるの! これはギルマス権限でーす」
「はは……何それ」
どうやらオリジンのGMは思っていた以上に信用に足りたらしい。
「ありがと、プレミア」
「んもーそういうとこだぞリタ! 抱きついちゃう!」
「わーバカ! 腕折れてんだって! ちょやめ!」
「失礼しまーす……」
そんな危機的状況の中タイミングよくドアが開かれた。
入ってきたのはユキノちゃん。どことなく顔色が悪いが大丈夫だろうか。
「あの、リタさ」
「さあリタ、ワタシの全身全霊の抱擁を受け取りなさい! ギルマス権限よ!」
「変なところで権限使うんじゃない! 職権乱用よそれ! あっ、ユキノちゃんいいタイミングよ、助け」
「失礼しましたー」
「待って待って! ユキノちゃん待ってー!?」
病室内に私の悲痛の叫び声が響き渡った。