教育係と試験終了
投下します。
聖徒の試験は受験者がそれぞれ決められた試験室に入り、そこで一次試験と二次試験を受ける仕組みになっている。受験者同士の試験前のいざこざや、何かしらの不正をあらかじめ防ぐためなのだとか。
受験者の付き添いは試験室の横に設置されている部屋で試験の様子を見ることが出来る。もちろん厳重な身体検査を行い、魔力を制限する枷を付けることが条件だが。
身体検査を終え腕に枷が着けられる。さほどの重みはないが、魔力が押さえつけられている感覚が腕から全身へ伝わった。
順繰りに部屋を確認していくと、受験者とゴブリンが戦っている様子がガラス越しに見える。このガラスは特殊なもので、付き添い側からは中の様子は見えるが、受験者側からは一切見えないようになっているのだ。これも不正防止につながっているらしい。フローディさんが色々教えてくれなかったらいちいち驚いていただろう。
「イザークさん」
奥へ進むと、ジッとガラスを見つめているイザークさんの姿があった。表情はあまり明るくはない。
「リタさん。ヒールは無事に覚えられましたか?」
「うん、バッチリ。オマケにキュアも教えてもらったよ」
「それは何よりです」
「ところでレクトはどう?」
ガラスの向こうには試験官と、ボロボロになりながらもまだ立っているレクトの姿があった。
「ゴブリンは辛うじて倒せましたが、そのあとの課せられた内容に苦戦しています」
レクトが右手を振りかぶって試験官に向かっていくが難なく避けられ、逆に肘でカウンターを喰らってしまう。吹き飛ばされたレクトは地面を転がりながらも体制を立て直し、自身にヒールをかけた。そして今度は回り込み、右足で蹴りを入れるが、これも避けられ再び肘でのカウンターを喰らう。
「先ほどからこれの繰り返しです。レクトくんが攻撃してもカウンターを喰らい、そのたびに自身で回復しています」
「そ、それは……」
なんというか、試験というより訓練だ。
王国騎士団とかの訓練はそれくらいのことをしていると、以前ヴィーちゃんから聞いたことがある。聖教会の聖徒になるにはそれくらい過酷なことをしないといけないのか。
聖職者の戦い方は冒険者のように武器は使わず己の身体を武器に戦う。よほど鍛えていなければ絶対にできない戦い方だ。もし試験内容でその強度が求められているのだとしたら、レクトにはかなりきついだろう。
「試験官はどんな内容を合格条件にしたの?」
「なんでもいいから一撃当ててみろ、と。」
「それはまた……」
レクトを担当している試験官はイザークさんよりも大きな巨体だった。フードと仮面で顔を隠し、若干年季がはいっているが、イザークさんと似たようなローブを羽織っている。
レクトはヒールをを使うが、先ほどより治癒速度が遅い。そして傷が治りきる前にヒールの効力が切れてしまった。魔力切れである。
ヒールを使って魔力切れになったことはない。レクトは前にそんなことを言っていた。自身の魔力量が多いのと、連続して使う機会があまりなかったからだろうと推測していたが、この試験は今までとは違う。
「イザークさん、レクトが何回ヒールを使ったか数えてたりする?」
「五十回から先は数えていません」
「一応聞くけど、それはどうなの?」
「魔力量だけで言うのならば、私より多いです」
現役の聖職者の魔力量よりも多いと来た。そのレクトが魔力切れを起こすだなんて。これは最早試験といえるのだろうか。
「少年。なぜ立ち上がる」
試験官が、よろよろになりながらも懸命に立つレクトに問いかける。
「なぜそこまでして聖徒になろうとする」
レクトは答えない。いや答えられなかった。倒れないことに意識を集中しすぎて、言葉を発することが出来ない。戦う意思を見せつけることで精いっぱいだった。
試験官は立ったまま動かないレクトの目の前まで行き、右の拳に力を入れる。
「ちょっと! もういいでしょ!」
もはやレクトは立っているだけだった。倒れないにしても向かっていくことは出来ない。そんなレクトにとどめを刺すかのように、私の声も届かず試験官は拳を振りかぶった。
「ぬぅんッッッ!!」
試験官の拳が放たれる。
風を切り、衝撃がガラス越しの私まで伝わってきた。
拳はレクトの顔面の横に放たれ、反動でレクトの体が揺れる。そして糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちた。
「試験は終了だ。この少年を医務室に」
試験官の号令の下試験は終了し、数人の職員が部屋の中に入る。各々がレクトにヒールをかけ、そのまま担架で奥の部屋へと運ばれた。
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