教育係と試験の内容
投下します。
宿屋で一夜を過ごし朝食を食べ終え、私たちはヴァレスタの聖教会支部に向かった。
今日の主役の顔色をちらりと見ると、変に力んだ様子もなくなんとも落ち着いた様子である。
朝食を食べ始めたときのレクトはそれはもう見てわかるくらい緊張していたが、ウォーロックさんに頭をガシガシと撫でられ景気づけのミルクをもらい、次第に緊張が解けていった。宿屋を後にするときもウォーロックさんから助言をもらっていたみたい。
「レクト、ウォーロックさんになんて言われてたの?」
「やるだけやって来いってさ。あと終わったら宿に寄れって。おいしいごちそう用意してくれるって言ってたよ」
本当に面倒見がいい人だ。ファラさんと同じくらい世話焼きのようでますますウォーロックさんに親近感がわく。
「昨日も言いましたが、今回は感触を味わってもらうことを第一としています。レクトくんの魔力量からすれば回復の実技は問題ありません。ですが戦闘の実技はそうはいきませんからね」
「確かに。ある程度訓練を受けていれば何とかなるかもしれないけど、レクトはまともに戦ったことないもんね」
「回復なら自分の傷を治したりとかしてたから得意だけど、戦闘かぁ……」
魔法は使えば使うほど熟練度が増していき、それに比例して威力も強くなる。だが戦闘面での成長となると話は別だ。基本的な動きは一人でもできるが動きの応用や反復だけで強くなるには限度がある。実際の戦闘で自分が思い描いた動きが必ずできる保証はないのだ。
今までオリジンとリースをつなぐ街道を通る行商人や旅人などの金銭を奪って生きてきたレクトに、戦い方を考える余裕など皆無。つまりはド素人だ。まぁレクトの年齢的に戦闘経験者だっていうのも珍しいけど。
「イザークさん、聖徒の戦闘試験はどんな感じなの?」
「低級の魔物であるゴブリンと戦った後、その戦い方に応じて担当の試験官との模擬戦となります。試験官が定めている合格基準に達すれば晴れて聖徒になれますよ」
「合格基準って?」
「それぞれの試験官が自身で定めている基準です。一撃当てられればいいとか、攻撃に耐えきればいいとか。色々ありますね」
「つまり、ゴブリンとの戦闘で足りなかった部分を試験官との模擬戦で満たせば合格ってこと?」
「さすがリタさん。その通りです」
どうやら試験官のお眼鏡にかなわないといけないようだ。試験内容をすべて同じにしないのは、新しく聖徒になる候補者をふるいに掛けているのだろう。
実際この試験はすごく合理的だ。自分に欠けている部分を事前に把握でき補うことが出来れば大きく成長できるのは間違いない。候補者は自身の欠点を埋めることが出来るし、聖教会側も有能な人材を確保できる。お互いに利のあることだ。
「それに比べて冒険者の試験は実践的なことはないからね。魔力量を測って基準を満たせばそれでなれちゃうし、敷居は低いかな」
「自由職と呼ばれる理由の一つですね。誰にでもなれるチャンスがあり、実績を積めば英雄にだってなれるかも知れない。夢があっていいじゃないですか」
「夢はあるかも。ランクSの冒険者は色々融通が利くみたいだから」
ランクSの冒険者は単身で龍種と戦える戦力だ。冒険者ギルドを纏めている組合からの信頼度も高く、通常だったら街を行き来するための通行許可証なんかもギルドカードを見せれば必要なくなる。その街のギルドへ顔を出せば英雄扱いだ。
ただランクSになる条件は龍種の単独討伐なので、そこまでの人数がいないのが現状だ。龍種に挑み命を落としたランクAの冒険者は大勢いる。それもあって、ランクSの冒険者は特別な存在なのだ。ユキノちゃんもグリンドラゴンを一発で仕留めてたし、ランクSになる日も近いかも。
「まぁ私みたいなランクDの冒険者には関係ない話だけどね」
「わかりませんよ? 旅を続けていくうちに様々な知識や使える魔法が増え、ランクSになる日が来るやもしれません」
「はは。ランクSは目指してないけど、ほどほどに頑張るよ」
とりあえず今は回復魔法の習得だ。これが使えるかどうかで今後の旅に影響がでる。イザークさん曰く、ヒールは回復魔法の初級も初級なのでそこまで習得に時間がかかるものではないとのことだ。
それにアリスとセリスに言われた作戦のこともある。うまくいけばいいけど。
「さっ、着きましたよ」
聖教会ヴァレスタ支部。各地に広がる聖教会の支部の中でも一番大きな支部だ。設備、人員、どれをとってもリース支部とは全く違う。というよりこんなに人があふれかえっているのなら、数人リース支部に回してもいい気がするけど。
昨日売店で売ってたものと同じローブを身にまとった人があちこちにいる。これが全員聖徒もしくは聖職者なのか。
神殿造りの建物内に入ると、いくつもの受付が設置されており、それぞれに人だかりができている。
「リタさん、回復魔法受講の受付窓口はあちらです。すぐに終わるかと思いますので、終わりましたらあちらに向かっていただけますか?」
イザークさんが指さした通路にはローブを羽織っていない人たちが入っていく。おそらくあれが聖徒試験を受ける者たちなのだろう。
「わかったよ。終わったらすぐに行くから」
「お願いします。ではレクトくん、行きましょうか」
「はいイザークさん。リタさん、またあとで」
そう言ってイザークさんとレクトは試験の受付を済ませに窓口へ向かった。私も回復魔法の受講を受けに行こう。
「っと、その前に」
私は昨日買った黄色のお守りを取り出し首にかける。セリスが落とさないようにと首飾りにしてくれたのだ。これで準備は整った。
「さて、行きますか」
これだけある窓口で唯一誰も並んでいない窓口に、私は気合を入れて歩き出した。
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