教育係と強面店主
投下します。
よろしくお願いします。
日も暮れてしまい、今から宿を探すのは困難かと思ったけど、イザークさんの古い知り合いが宿屋を経営していたおかげですんなりと確保することが出来た。なんでも聖職者になる前からの仲のようで、出会い頭に肩を叩きあいつつ握手をするほど。
「久しぶりだなイザーク。いつ以来だ」
「私がリースに異動した依頼でしょうね。ウォーロックさんもお変わりなくて安心しました」
「そう思うんだったらたまには顔見せに来いってんだ。リースに行ったきり戻りもしねぇで」
そう言いつつ豪快に笑うウォーロックと呼ばれた男性を、私とレクトはただただイザークさんの後ろで見ていた。
スキンヘッドに鋭い眼光。顔には傷がありひげを蓄えている大柄な男。宿屋の店主というよりは戦士系の職に就いていそうな彼は、私たちに気づくとゆっくりと距離を詰めてきた。
「あん? 見ない顔だな。お嬢ちゃんと坊主はイザークの部下かなんかか?」
「違いますよウォーロックさん。二人は私のパーティメンバーです」
「初めまして。私は冒険者のリタ・フレイバー。旅の途中でイザークさんと知り合ったの」
「僕はレクトです。ここには聖徒の試験を受けるために来ました」
「おお、そうかそうか。部下なんて言って悪かったな。俺はウォーロック・キャバレイだ。ここの店主をしてる。イザークとは昔からの知り合いでな。歓迎するぜ」
ウォーロックさんはそばにあった箱から瓶を二つ取り出し私とレクトに差し出す。
「ミルクだ。冷えててうまいぞ。サービスだ」
「ありがとうございます」
「いただきます」
風貌はおそろしいが根はやさしい人のようだ。私は瓶を受け取りミルクを飲む。キンキンに冷えたミルクが喉を通り、先ほどまであった喉の乾きが一気に解消された。不思議と疲れが少し和らいだような気もする。
飲み終わった瓶はウォーロックさんによって回収され、代わりに鍵を渡された。
「リタの嬢ちゃんは二階の奥。イザークとレクトの坊主は一階の部屋だ。分けといたほうが良いだろう」
「ご配慮感謝します。では部屋に行ったら荷物を置いて、お風呂に入った後食事にしましょう。ウォーロックさん、お願いできますか?」
「わかった。準備しておくよ」
またな、と背を向けウォーロックさんは受付の奥へ戻っていった。なんにせよ別々の部屋だったのは正直助かった。前まではユキノちゃんと一緒だったから男性陣にどう配慮すればいいのかわからなかったし。
「彼は顔は怖いし口調も強いですが、とても親切で優しい方なんですよ」
「今のを見てればわかるよ。それよりもあの体つき……ひょっとしてウォーロックさんて冒険者だったのかな」
「ええ、お察しの通りです。今でこそ宿屋の店主ですが、昔は相当に腕の立つ冒険者だったようです。一時期は後続の育成にも力を入れられていました。かくいう私もウォーロックさんにお世話になった者の一人です」
あの体格で普通の宿屋の店主なわけないと思っていたけど、やっぱり只者じゃなかったようだ。今は宿屋経営をしているみたいだけど、冒険者時代は相当腕が立ったに違いない。そこのところの話とかあとで聞いてみよう。
「ではリタさんまたあとで。レクトくん、行きましょうか」
「はい。リタさん、またご飯のときに」
「はいはい。またあとで」
二人と別れ階段を上がり二階へと向かう。よくこの時間に奥の部屋が空いていたもんだと不思議に思いながら、たどり着いた部屋のドアを受け取った鍵で開けた。
部屋は広々としていて、一人で泊まるには十分なスペースが確保されている。それもそのはずで、この部屋は二人用の部屋だった。ベッドが二つ設置されていて、よく宿屋にある茶菓子も二人分おいてある。
まさか二人部屋に泊まったから二人分の宿費を請求されるんじゃ……。
「うーん、それも後で聞いておこう」
若干の不安要素を抱えたまま、私は旅の疲れを癒すべくお風呂へと向かった。
□□□
「そんなわけあるか。たまたま空いたから当てがっただけで、二人分の料金なんか取るかよ」
お風呂から上り、食堂に着いた私は、食事の準備をするウォーロックさんに例の件を聞いていた。なんでも今日まで泊まっていた二人組の女性が出て行ったのでたまたま空きがでて、そこにタイミングよく私たちが来たという。もちろん料金は一人分だった。
「菓子も二人分おいてあったろう。食っていいぞ。」
「そんな食い意地張ってないよ」
「そうかそうか。そりゃ悪かったな」
がははとウォーロックさんはまたも豪快に笑う。そして私の前にスッとグラスが置かれ先ほども飲んだミルクが注がれた。
「風呂上りはミルクが一番うまいんだ。遠慮せず飲みな」
「わぁ、ありがとうウォーロックさん」
またもや冷たいミルクが喉を潤す。今まではお風呂上りはサイダーを飲んでいたけど、今度からはミルクにしよう。
「そういやリタの嬢ちゃんは冒険者だったな。得物は何を使ってんだ?」
「私はダガーを使ってるよ。小さくて持ち運びやすいし、何より使いやすいからね」
「そうかそうか。最初見たとき得物が見えなかったからてっきり荒事はやんねぇのかと思ったぜ」
「ウォーロックさんも昔は冒険者だったんでしょ? イザークさんが言ってたよ」
「ああ、そうだな。現役だったのはもう二十年くらい前だな」
まるで昔を懐かしむかのように、ウォーロックさんはひげに手をやり目を閉じる。二十年くらいだと私が生まれる前だ。
「引退してからはしばらく後続の育成をしてな。そのあとこの宿屋を始めたんだ」
「そうなんだ。育成っていうと何を教えていたの?」
「戦い方だ。基本的な立ち回り、緊急時の立ち回り、あとも模擬戦とかな」
「模擬戦ではひどい目に遭いましたからね」
奥からイザークさんが苦笑しながら食堂に入ってきた。後ろにはレクトも一緒だ。
「なんだイザーク。そんなことないだろう」
「いいえ。模擬戦の時のウォーロックさんはまさに鬼神のごとき迫力でしたよ。あの時だって―――――」
イザークさんも加わり、ウォーロックさんの昔話はその後も私とレクトを驚かせ続ける。晩飯の準備が整ったあとも話は途切れることなく、私は終始驚かされっぱなしだった。
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