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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第四章
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教育係と虚偽報告

お待たせいたしました。

投下します。

「私はリタ・フレイバー。オリジンの冒険者で、ここには旅の途中で寄りました」


「まぁオリジンから。それは遠いところからよくおいでくださいました」


「アリス、ソニア。これお土産」


 そう言ってセリスは饅頭の入った袋を机の上に置く。ソニアが一礼し袋を開け饅頭を取り出し用意していた皿に乗せ、ツブアンをアリスに、コシアンをセリスに差し出した。


「リタ殿はツブアンコシアン、どちらをご所望でしょうか?」


「えっと、じゃあコシアンでお願いします」


 私の要望通り、コシアンの饅頭が皿に乗って目の前に置かれた。横に座るセリスが私のチョイスに、まるでわかっているなこいつとでも言いたげに満足そうにうんうんと頷いている。確かにここに来る途中コシアンツブアン両方食べ、コシアンの方が好みだったのは事実だ。饅頭はおいしい。けど、これで三個目なんだよねぇ。


 アリスはツブアンの饅頭を掴みそれを口へ持っていく。パクりと一口かじり、饅頭を味わいながら笑みを浮かべた。


「やはり饅頭はおいしいですね」


「そうね。特にコシアンの饅頭は絶品よね」


「いえいえセリス姉さま。コシアンもいいですがツブアンこそ饅頭の至高。この粒が何とも癖になります」


「粒が苦手な人だっていると思うわ。それに比べてコシアンは万民に受け入れられる存在。すべてを包み込む包容力がある。どちらが至高かだなんて議論するまでもないわね」


「でもコシアンってツブアンの粒をペースト状にして作ったものですよね? 手間かかりません?」


「何よ」


「何です」


 和やかな雰囲気から一遍、ただならぬ空気が周りを支配する。セリスもアリスもお互い一歩も引かず怖い顔を相手に向けていた。


 正直ツブアンとコシアンどちらが至高なんてその人の好みに寄るもので、どちらもおいしいし良いじゃない。なんてぬるいことを言おうものなら瞬く間に標的が私になりかねない雰囲気だ。ここは余計なことは言わず静かにしていたほうが賢明かもしれない。


 なおもにらみ合いが続く中、見かねたソニアがその空気を壊すかのように手を叩く。


「はい、お二人ともそこまでです。リタ殿がお困りですよ」


 ハッと我に返ったかのように二人は顔を私に向けると、小さな咳払いをして恥ずかしそうに椅子に座りなおした。


「すみませんリタさん……」


「あはは……ごめんなさいねリタ」


「いや、大丈夫だよ」


 しゅんとなるアリスとセリス。特段気にしていないことを伝え、私は饅頭を頬張った。


「それでセリス、そろそろ状況説明してくれるかな」


 コシアンツブアン論争に気を取られていたが、本題はそこではない。わざわざ教会の地下、それも外部からの介入をされないよう施錠魔法を厳重に施された場所に連れてこられたのだ。加えて目の前の少女の素性。


 彼女自身の口から告げられた、セリスと街を歩いている最中見かけたとある聖職者の名前。


 入れられた紅茶を一口飲むとセリスは話し始めた。


「そうね。その前にリタは聖教会のことはどれくらい知っているかしら?」


「え? えーっと、冒険者ギルド『イシス』を運営していて、回復魔法の使い手が多い。聖教会所属の人は聖職者って呼ばれてることと、あとは……」


 この後も続けていくがこれらすべて、この街に来る道中でにイザークさんから教えてもらったことである。


 冒険者ギルドとは組織が違うので、正直なところ単純に回復専門の集団か何かと思っていたが、実際にイザークさんから話しを聞いてそうではないことを知った。


 数百年前、元々違う大陸の宣教者たちがこの大陸に渡り活動を始めたのが起源らしい。傷ついている人たちを癒し、時には聖魔法で身体を強化し魔物と戦ったりしていたそうだ。聞く限りだと冒険者とそう変わりないように思える。


「大分知ってるわね。そう、聖教会は弱い立場の人たちに救いの手を差し伸べる。そんな教示を持って活動していたのよ」


「うん? なんか引っかかる言い方だね。今は違うの?」


「少なくともここはね」


 聖教会ヴァレスタ支部。聖教会支部の中でも最大の大きさを誇り、本部に次ぐ機能を有している場所だ。オリジン一行が滞在していたこともあり、一部の聖職者からは聖地とまで呼ばれている。


 聖教会の教えは『弱き者に救いの手を』とこれまた聖人君子な考えだ。すべてのことは自己責任の冒険者とはえらい違いである。


 だが、セリスの口から語られた内容は聖教会への認識を改めざるを得ない内容だった。


「数年前からね、聖教会で治療を受けるための金額が上がったの」


 初めはたいした金額ではなかったらしい。街の人も聖教会には世話になっていたし、特に文句は出なかったそうだ。


 だが治療費の値上がり何度か続き、しまいには普通に生活している人が払えないほどの金額になってしまったのだとか。さすがに問題視したヴァレスタの人々は聖教会に値下がりを要求するも、理由をつけては追い払ってしまうという始末。


「それはひどい話だね。ヴァレスタの……市長? 城主? 顔役はどうしてるの? 何も言わないの?」


「その顔役がここの聖教会支部の長をしているのです」


 セリスに変わりアリスが続ける。


「聖教会がこの街の実権を握ったのは数年前。治療費が上がる前の話です。ヴァレスタを掌握したのは大神官のロズウェル・フォード。聖教会の中でも信頼の厚い方でした」


「ロズウェル・フォード?」


 道中イザークさんから聞いた内容を思い出す。確か、ヴァレスタの聖教会のトップに魔人のことを話をしたいと言ったとき直接会うのは難しいと言われた名前だ。


「フォード大神官がヴァレスタを掌握してからこの街は変わりました。商業、工業、その他の事もまるで聖教会を第一に考えられた運営をしているのです」


 言われてみれば確かにと思うところが多々あった。売店では聖魔法の装飾品が並び、聖職者の疑似ローブまで販売している。通行書が無くて街へ入るときも聖教会の聖職者と一緒ならお金はとらないとか。


「ここって聖教会の支部で一番大きなところなんでしょ? 本部は何も言わなかったの?」


「お恥ずかしながら、ヴァレスタはここ数年本部に対して虚偽の報告をしていたのです」


 ヴァレスタの顔役にロズウェル・フォードが就任したことと、その数か月後に治療費がほんの少しだけ上がったことは細かく報告書にまとめられていた。だがそれ以降の治療費の値上がりと民間人の不満、ヴァレスタの運営については一切申告されなかったという。


 普通であれば虚偽の報告などすぐに見破れるのだが、緻密に作成された報告書とロズウェル・フォードという名が疑うことをさせなかった。


「この件はまだ聖教会の中でも本部のごく一部しか知りません。事態を重く見た教皇様は私にヴァレスタの様子を見てくるようご指示をされたのです」


「私は所属ギルドのマスターからこの街の調査を依頼されてね。こうして街で得た情報をアリスに話しているってわけなの」


「私はフォード大神官と話をしたあとこの街を出たことになっています。そうしたほうが相手も油断して虚偽の現場を押さえられるかと思ったんです。ここから出られないのは少し窮屈ですけど」


「だからこうして饅頭を買ってきてあげてるのよ。はいコシアン」


「いえセリス姉さま。饅頭はツブアンと相場が決まっています」


「いいから食べなさいよ」


「セリス姉さまこそ、ツブアンを召し上がってはいかがですか?」


「いやよ。粒が入っている饅頭なんて受け付けないわ」


「なんです」


「なによ」


「お二人ともっ」


 再び始まったコシアンツブアン論争がソニアの一言で収まる。正直最後まで見てみたい気もするが。


「えっと、現状は把握したよ。それで私は何をすればいいの?」


「私とアリスは聖教会の人間に顔を知られているから支部には近づけないの。だからリタには支部に入ってもらって―――――――――――」








                □□□






 内容と手順を一通りセリスから聞き、私はそろそろ待ち合わせの時間だと言って席を立った。


「そういえば街でアリスの名前の入った商品を見たんだけど、アリスってもしかして……」


 私の問いにアリスは答えず、微笑で返した。

誤字脱字、ご感想などあればよろしくお願いします。

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