教育係と少女と騎士
投下します。
セリスに案内を頼み、私たちはヴァレスタの内部を歩いていた。
おいしい食べ物が置いてある出店や質のいい装備を並べている店。面白いところでは身体の疲れを指圧で治療する店なんかもある。様々な店が並んでいて見るものすべて新しく、まったく飽きを感じさせない。
今はそういった店が多く立ち並ぶ通りを抜け、その奥にある民家が立ち並ぶ居住区のエリアにいる。さすが城塞都市ということだけあって、普通の民家と違い鉄格子で家の周りを囲んでいた。おそらく大昔、魔族と戦っていた時の名残だろう。オリジンやセカンドにはないタイプの家がずらりと並んでいた。
そんな物々しい通りではあるが、道行く人々はそれとは対照的に表情が穏やかで見た感じ顔色も健康的だ。クエスト帰りに飲みすぎて翌日顔面蒼白になっていたり、魔物を討伐しすぎて若干狂戦士化しているような奴らがいる、おだやかとは無縁のどこかの街とはえらい違いである。
「あらセリスちゃん、戻ってたのかい? あとで寄っとくれよ」
「久しぶりじゃのうセリス。ばあさんも会いたがってたぞ。ウチにもあとで寄ってきなさい」
「セリスさんお疲れ様です! お時間あるときにまた訓練をお願いします!」
すれ違う人々がセリスの顔を見るたびに声をかけてきて、セリスもそれに元気良く声を返した。活気のいいおばちゃんやひげを生やした高齢のおじいちゃん、果ては見回りの憲兵までもがセリスがここに来ることを心待ちにしていたかのように言葉を投げかける。
「みんなただいま。あとでちゃんと寄るから待っててね」
それらに笑顔で手を振って答え、セリスは止まることなく先に進んだ。
民家が建ち並んでいた通りを抜けしばらく歩くと、小さな教会が目に入る。
かなり年季が入った建物だということが、剥がれ落ちた塗装や亀裂の入った壁で分かった。それと同時に老朽化は進んでいるが作りはしっかりしていることが見て取れる。おそらく数百年前の建物だろう、いまだに形を保っているのは大したものだ。
「セリス、ここは?」
「見ての通り教会よ。中央の支部は見たかしら。あそこに行けない人たちがここに来るのよ。まぁ中央に建っているのには見劣りしてしまうけれど」
セリスが指しているのは聖教会ヴァレスタ支部の事だろう。確かにあちらと比べてしまうと大きさや人員の数、何もかもが違ってしまうとは思うが、それよりも気になることをセリスは言った。
「行けないってどういうこと? あそこの支部はこの街の支部でしょ? この街の人が行けないってことなの?」
「……そこは追々話すわ」
セリスは教会のドアに手をかざす。すると魔法陣が現れ、消えたと同時にガチャリと鍵の開いた音がした。
「せっかくだし寄って行ってくれるかしら。ツブアンとコシアンの話もまだだったものね。さっ、どうぞ」
□□□
教会の中に入って最初に目に飛び込んできたのは大きなステンドグラスだった。こういうのにはてっきり天使や女神をかたどった人物が描かれているものだと思っていたが、目の前にあるものはそれとは違う。
描かれているのは四人の男女。表情こそわからないがとても仲がよさそうに描かれている。一体誰をモチーフにしたのだろうか。
ステンドグラスに目を奪われていたが、ふと我に返り周りを見ると、前を歩いていたセリスの姿が見当たらない。
「リタ、こっちよ」
見ると奥に続くドアの前にセリスが立ち私を待っていた。返事代わりに手を上げ早歩きで追いつく。
セリスについていき長い廊下を進むと、さらにドアがあった。セリスは教会に入るときと同じようにドアに手をかざす。魔法陣が現れこれまた同じくガチャリと鍵の開いた音が静かな廊下に響いた。
―――教会にしては厳重すぎない?
ただの教会であればここまで外部に対し警戒する必要はない。だがドアに仕掛けられた魔法はただの施錠魔法ではななかった。
オリジンにある宿泊費が高めの宿は部屋のドアに施錠魔法がかけられていて、部屋を借りる際自身の魔力の波長をドアに覚えさせる必要がある。こうすることで覚えた魔力以外では開かなくなり、防犯に関しては最良の宿と言われていた。
ただその宿の魔法陣と比べると、目の前のドアにかけられていた施錠魔法は複雑すぎる。多様な施錠魔法が何重にもかけられ、さらには書き換えの利かない登録式の施錠魔法ときた。
ちなみに施錠魔法には二種類存在し、様々な人が泊まる宿などに使われているのが略式の施錠魔法。あらかじめ施錠したいものに持ち主が施錠魔法をかけ、その後別の者が持ち主の前で簡易的な制約をすることで解除できるようになるのだ。
もう一つは永続式施錠魔法。略式との違いは施錠した本人しか解除することが出来ず、それ以外の者が無理に解除しようとすると施錠魔法に込められた魔力が逆流し大惨事になる。
ドアの奥には下へ続く階段があった。セリスは魔法を使い手のひらから光る球体を出現させる。暗いところを移動するのに便利な『ライト』という魔法だ。基本的な魔法だが魔力を安定させなければ使えないので、新米の冒険者の魔力コントロールを上達させるためにはもってこいの魔法である。
ずいぶんと下まで降りたところで、またもや目の前にドアが現れた。セリスは先ほどと同様に手をかざし施錠魔法を解除する。ドアを開け中に入るセリスを追い私も中へ入った。
「ここは?」
たどり着いたのは広い空間。真ん中に椅子とテーブルが置かれ、白のローブに身を包んだ小柄な少女が椅子に座っている。その横には長髪に甲冑姿の女騎士が静かに佇んでいた。
「遅かったですね。忘れられたかと思って心配しましたよ」
「まさか。忘れるわけないじゃない」
セリスはそう言って椅子に座る。状況が飲み込めず棒立ちの私に小柄な少女は微笑ましい顔で着席を促した。
「どうぞ、あなたもおかけになってください。セリス姉さまがここに人を連れてくるだなんて初めてではないですか?」
「そうだったかしら? シルヴィアは……連れてきたことなかったわね」
言われるがままに席に座る。女騎士がティーセットを用意し、それぞれの前にカップを置き紅茶を注いだ。甲冑姿だというのに手際が良い。すまし顔の女騎士は最後に自身の紅茶を注ぎ席に着いた。
「えっと、まだ状況がつかめていなくて……これはいったいなんの集まり?」
「リタの疑問はごもっともね。でも説明する前に二人を紹介させてちょうだい。この甲冑姿の子がソニア。綺麗な見た目でその上結構な実力者よ。冒険者でいうならランクAくらいかしらね」
「お褒めいただき光栄です。ソニア・フルールと申します。お見知りおきを」
甲冑姿の凛々しい女騎士ソニアさんが立ち上がり頭を下げる。かっこいいなこの人。顔も作法もイケメンだ。というかランクAって相当強いよね。そんな人が光栄とか言ってるけど、セリスって一体……?
「そしてこっちがアリスティア。私の可愛い妹よ」
「アリスティア?」
その名前、ここに来る前に何度か見た気がする。なんだったか。
「初めましてアリスティア・ロードベルグです。アリスと呼んでください」
小柄な少女は、またもや微笑ましい笑顔を私に向けた。
誤字脱字、ご感想などあればよろしくお願いします。




