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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第四章
72/118

教育係とツブアン・コシアン

投下します。

 ヴァレスタの模擬店には実に多くの物が並んでいた。


 食べ物だけにとどまらず、薬草やポーション、武器に防具に装飾品とある程度のものが店頭に揃えてある。ある程度の物であればこの場所だけで一通り揃えられそうだ。


 見慣れないものだと法衣やお守りが置いてある。値段はそこそこ張っていて、法衣一着で防具が三つ買えるほどだ。この街で力を持っているのが聖教会なのでこの値段は仕方ないんだろうが、土産などには向かないだろう。


 法衣の性能を表示した説明書きによれば、あらゆる状態異常に対しての抵抗力があがるとか。さらには傷ついた際に回復魔法が自動で発動し傷を治してくれるとのこと。その代わり耐久性には優れていないようだ。それを考えると防具というよりは装飾品に近い。


「お嬢さん、旅の方ですか? 外は危険でしょう。この法衣はいかがですか? 毒や痺れにかからなくなりますよ」


 店頭で法衣の説明書きを読んでいた私に法衣姿の男性が近づく。


「この法衣は聖教会に所属する方々が羽織っているもののレプリカとなっています。しかしレプリカといえどもその効果は目を見張るものがあり、旅をする多くの方たちに使用していただいております」


「そうなんだ。こっちのお守りは?」


「はい。それぞれお守りごとに効果が異なり、例えばこれは洗脳や魅了といった精神に干渉する状態異常の魔法から身を守ることが出来ます」


 男性は並んでいたお守りの中から黄色のものを手に取る。毒や痺れといった体に干渉する状態異常であればアイテムを使えば何とかなるが、精神に干渉する状態異常はそうはいかない。その状態異常を解こうにも、そもそもアイテムが使えない場合が多いからだ。


 法衣ほどではないが、このお守りはほかのお守りに比べて値段が少し高く表示されている。


 仮に今の装備で精神干渉の魔法をかけられた場合防ぐ手段はない。値段はするが、それを考慮すると買っておくべきか。幸いお金はたんまりあることだし。


「じゃあこの黄色のお守りください」


「はい。どうもありがとうございます」


 お金と引き換えにお守りを手に入れた。お守り自体は持っているだけで効果を発揮してくれるようなので一旦懐にしまっておこう。


 思わぬ買い物をしたが、これはこれでいいものを買った。さて、そろそろお腹も限界なので食べ物を買いに行こう。


 どうやらこの通りは売っている物ごとにエリア分けされているらしく、武器・防具、法衣・お守り、食べ物の順に並んでいるようだった。


 食べ物のエリアにたどり着いた私は、四方から漂ってくるおいしそうなにおいに歓喜する。オリジンやセカンドで見たことある食べ物や、まったく見たことのない食べ物も目に入った。せっかくなので、まだ食べたことのないものをいただくとしよう。


 立ち並ぶ出店の中で比較的人が並んでいない店を発見した。並んでいるのは一人。青紫の長い髪に白いローブ、凛とした佇まいが上品さを醸し出している。


 何だろう。この出店の食べ物はもしかしてほかより高いんだろうか?


 見た感じ一般人とは思えないその姿に目が離せず、気が付くと私は彼女のすぐ後ろに並んでいた。売っているのはどうやら真っ白な丸い食べ物のようで、ツブアンとコシアンという札で二種類に分けられている。ツブとかコシは味の事なんだろうか、それとも別のことを指しているのかな?


「おじさん。コシアン一つくださる?」


「ああセリスか。戻ってきてたのかい。毎度どうも。ほれ、コシアンだ」


「やっぱり饅頭はコシアンに限るわね」


 どうやらあの白い食べ物はマンジュウというらしい。セリスと呼ばれた女性は今度はツブアンの方のマンジュウを二つ注文する。


 店主はマンジュウを丁寧に箱に入れ布を巻き、それを華やかな仕様の袋に入れた。


「ほれ、ツブアン二つだ。落とさないように気を付けな」


「そんな包まずに、そのままくれればいいのに」


「何言ってんだ。渡す相手が相手じゃ……おっと、いらっしゃい」


 店主が私に気づき声をかける。セリスは振り返り私が並んでいることを確認するとすぐに横に避けた。


「あら、ごめんなさいね。私はもう買い終わったからどうぞ」


「ありがとうございます。店主さん、実はこの……マンジュウを見るのは初めてで。ツブアンとコシアンの違いってなにかな?」


「饅頭が初めてってことはお客さん、外から来たのかい?」


「うん。旅の途中リースに寄って、そこでこの街の話を聞いて来たの。さっき着いたばかりなんだ」


「へぇーリースから。そりゃ大変だったろう。なんでもヴァレスタとリースをつなぐ街道に魔物が現れたって話じゃねぇか」


「いたいた。フレイムリザードが何体も。まぁ出てきたやつは全部倒したけどね」


「そりゃすごい。お客さん冒険者か何かか?」


「そうだよ。ランクはDだけどね」


 そう言って私は冒険者カードを見せた。スキルやその他もろもろの情報が載っている冒険者カードだが、本人以外がこのカードを見るときは不可視の魔法で名前とランク以外は隠れるようになっている。そのためこうして身分証明書のような使い方もできるのだ。


「リタ・フレイバー……。冒険者……リタ……」


 セリスは私の冒険者カードを見るなり何かを思い出すかのようにつぶやいている。


「ねぇ貴女、『白の剣聖』と知り合いかしら?」


「シルヴィア・アロンハートのことですか? はい、大事な友人です。それがなにか?」


「そう。そうだったのね……。おじさん、コシアンとツブアンを一つずついただけるかしら?」


「あいよ」


 店主からマンジュウが二つ入った容器を受け取ると、彼女はそれを私に差し出した。


「彼女には前に会ったことがあるの。その時にあなたのことをとても楽しそう話していたわ。親友というべき存在がオリジンという街にいるって」


「シルヴィアがそんなことを」


「ええ。その時思ったの。彼女が親友と呼ぶ人に会ってみたいって。うれしいわ。だってこうして会うことができたんですもの。この饅頭は出会えたことへの祝福として受け取って」


「それじゃあ、遠慮なく」


 セリスから饅頭と書かれた容器を受け取る。見たことのない文字だが、その横にちゃんと大陸語でマンジュウと記されていた。異国の言語にも精通しているなんて、さすがは聖教会の大きな支部があるだけのことはある。


「自己紹介がまだだったわね。私はセリスティア・ロードベルグ。セリスでいいわ。よろしくね」


「改めて、リタ・フレイバーです。私もリタでよろしく」


 差し出された手を私はすかさず握り返した。


「リタはヴァレスタは初めてだったわね。良ければこのあと街を案内しましょうか。コシアンとツブアンの違いも教えてあげたいし」


「それは助かるよ。お願いしてもいいかな」


「もちろんよ。じゃあ行きましょうか」


 幸いまだ時間はある。セリスに連れられ、私はヴァレスタ観光と洒落込んだ。

饅頭はこし餡が好きです。


誤字脱字、ご感想などあれば是非よろしくお願いいたします。

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