教育係と臨時パーティ結成
投下します。
よろしくお願いします。
イザークさんの厚意に甘えてから一夜が経ち、私とレクトは一宿一飯の恩に報いるためクエストボードを見ていた。あまり冒険者がいないのもあってか未消化になっているクエストが多い。
採取や修繕といったクエストが多く残っていたが、それらは街の人たちや新米の冒険者でも達成可能なクエストだ。せっかくだし討伐系のクエストを受注してみようと私はボードに張り付けれらたクエスト用紙を確認する。
近隣の森に出現したスライムの討伐。街周辺に現れたゴブリンの排除。農作物を荒らすコボルトの殲滅。どれもさほど難しくなく、これも新米の冒険者で事足りるクエストだ。これらに関しては定期的に依頼されているクエストらしく、緊急性はない。
こういった新米冒険者でもできるクエストを消化するのはあまり良くないと私は思う。彼らの成長の機会はやっぱりクエストの中でしかない。いくら訓練や知識を付けても、実戦慣れしていないとその力を発揮できないからだ。
「ん?」
そんな中一つのクエストが目に入った。
クエストは『フレイムリザードの討伐』。なんでもこの先の街道にフレイムリザードが突如現れ陣取っているというのだ。サーラの大森林ではよく見かける魔物だが、突如現れたということは大森林から出てきた個体の可能性もある。フレイムリザードに関してはある程度動きも知りつつ、討伐適正ランクもDなのでちょうどいい。
それにフレイムリザードが陣取っている街道こそ、大神官がいる街へ続く道なのだ。結局遭遇する羽目になる。普通に倒して進むよりも、クエストとして倒したほうが報酬も受け取ることが出来る。
「イザークさん。このクエスト受注します」
「はい、フレイムリザードの討伐ですね。ランク的に誰も受けることが出来ずに困っていたんですよ」
「助けになれて何よりです。それにどのみち遭遇することになりますし」
「大神官様のいらっしゃる街に行くには、あの街道を通らなくてはなりませんからね」
私はイザークさんにクエスト受注を受理してもらい、まだクエストボードとにらめっこをしているレクトに声をかける。
「おーいレクト。そろそろ行くよ」
私の呼びかけに答えはするが、その視線は未だクエストボードに釘付けのままだ。一体何をそんな夢中になってみているのだろう。
レクトが真剣な表情で見ていたのは冒険者用のクエストボードではなかった。回復、治療といった単語が多く書かれている用紙がいくつも張られている。これは教会へのクエストボードだ。
「お恥ずかしい限りです」
受付からでたイザークさんがそのまま歩いて教会のクエストボードの前に立つ。ため息交じりに吐いた言葉が現状を物語っていた。
「この教会支部に回復魔法を使える者は私しかおりません。職員もほかには居ないんですよ」
「え!? そうだったんですか?」
だが確かに言われてみれば、もう昼に近い時間だというのに私とレクト、イザークさん以外でここに来た人はいない。イザークさんの言っていることが真実なのであれば、冒険者用と教会用のボードの管理やクエストの設定、報酬の配当などすべて一人で行っていることになる。
さすがにそれはひどすぎるんじゃないだろうか。
「人員補充のお願いとかは教会本部にはしてないんですか?」
「もちろんしています。ですが人が少ない街の支部に送れる人材はいないと。それにこの支部を管轄しているのは大神官様なので……」
要するに、こんな嫌がらせ紛いなことを受けている原因はその大神官にあるということだ。クエストがこんなに未消化なのも頷ける。クエストの量に比べそれをこなせる者が圧倒的に少ないのだ。
「聖女様は?」
今までクエストボードを見ていたレクトがイザークさんに向き直る。
「聖女様だったら助けてくれるよ。絶対に」
「聖女様、ですか」
「うん。聖女様は初めて会った僕のことを助けてくれたんだ。ヒールも教えてくれた。イザークさんは教会の人なんでしょ? 事情を説明すれば、聖女様なら絶対助けてくれるよ」
レクトが熱弁する。思えば彼は教会の聖職者になるべくこうして旅をしているのだ。そのレクトからすればここの状況は見過ごせないのだろう。それに大神官が決めたこととはいえ、聖女様から直接言われれば考えを改めるかもしれない。
「イザークさん。聖女様は今どちらに?」
「ええ。数日前に聞いた話によれば、大神官様のいらっしゃる街に滞在していたとか。そこから移動したかまではなんとも」
「じゃあますますその街に行かなくちゃね」
聖女様が滞在していたとは運がい。これでその街に行く理由が増えた。
「うん。聖女様に会ってお礼を言って、教会で働かせてもらうんだ」
「レクトくんは聖徒を志願しているのですか?」
またわからない単語が出てきた。
「あのイザークさん。聖徒っていうのは?」
「聖徒は教会内部の人間を指す言葉です。階級が一定以上になると聖職者として認められるんですよ」
「へぇー。教会の人全員を聖職者って呼ぶわけじゃないんですね」
「はい。私のように支部を任される者や、個の力が認められた者が聖職者と呼ばれるのです」
つまり、これからレクトが教会で働くようになると聖徒と呼ばれるようになり、認められると聖職者になるということだ。なんだか冒険者のランクに似ている気がする。
「ここでは無理ですが、大神官様の治める支部では聖徒になるための試験を受けることが出来ます。レクトくんはヒールは使えると言っていましたよね」
「はい。聖女様に教わったから」
「であれば、あとは戦闘面ですね。そこさえ問題なければ聖徒になれるかも知れません」
「戦闘面?」
「ええ。魔物と対峙する場合もありますから。その時にヒールだけでは対処できませんので」
確かにイザークさんの言う通りだ。今の聖教会は冒険者ギルドを持っている。その関係上当然魔物との戦闘も発生するはずだ。そんなとき使える手札がヒールのみじゃ貧弱すぎる。
イザークさんは何かを考えるようにあごに手をやり支部を見渡す。相変わらず誰も来ないことを確認し、やがて決心したように大きく頷いた。
「リタさん、レクトくん。お願いがあります」
改まってそういったイザークさんはバッと私たちに頭を下げた。
「大神官様のいらっしゃる街までで構いません。私も連れて行ってください。おねがいします!」
「イザークさんっ、頭を上げてください」
突然の申し出に驚きつつも、私はきれいな角度で下げているイザークさんの頭をなんとか上げさせる。
「ここはどうするんですか? イザークさんしかいないんでしょこの支部」
「そうです。ですが、現状を変えるためにも私はかの街へ行くべきだと思います。それに同行すればレクトくんの戦闘面のスキルアップもお手伝いできます」
どうやら現状に不満を持っていなかった訳ではなさそうだ。そりゃそうだろう。全部一人で回すのにも限界があるのだ。大神官がだめなら直接聖女様に言うのがいいと判断したのだろう。
私とレクトにとっても大歓迎だ。私は支部内に入りやすくなり、レクトは戦闘面の面倒を見てくれるみたいだし。断る理由はなかった。
「わかりました。じゃあこれからよろしくお願いします」
「お願いします」
「ええ。二人ともよろしくお願いしますね」
握手を交わし、一時的にだがイザークさんが仲間に入った。ともなれば、まずは目下の仕事をこなすとしよう。
「じゃあパーティ初クエストということで、フレイムリザード討伐に行きますか」
私たちは掛け声とともにリース支部を後にした。
テテテテーテテテテイザークが仲間になった。
というわけでこれからフレイムリザードを倒しに行きます。
誤字脱字、ご感想などあればぜひよろしくお願いいたします。




