教育係と魔人のうわさ
すみません、お待たせしました。
投下します。
「すみません、無理言ってしまって。それに料理まで」
聖教会リース支部。その中にある食堂に通された私とレクトは、用意されたシチューの味をかみしめていた。
「いえいえ。困ったときはお互い様です。それに外から来た方ともなれば、この街の消灯時間を把握していないのも仕方ないですよ」
そう言ってイザークさんは空になった私の容器をとると、再びシチューをいれてくれた。まろやかな味が癖になり、何杯でも食べれてしまう。隣に座るレクトに至ってはもう三杯目だ。
「おいしいですこのシチュー!」
「そう言っていただけると嬉しいです。もう一杯いきますか?」
「はい! お願いします!」
元気のいい返事とともに、レクトは四杯目を食べるべく容器をイザークさんに渡した。
レクト、君は遠慮というものを覚えたほうがいいと思う。そんなことを考えながらシチューを食べていると、レクトに向けていたにこやかな笑顔を私に向けてきた。
「遠慮せずにどんどん食べてくださいね。リタさんももう一杯いかがですか?」
「……お願いします」
謙虚な心では腹は満たされない。ごめんみんな、空腹には勝てなかったよ。みんなって誰だ。
自身に突っ込みをいれながら、私は二杯目のシチューをいただく。よくよく見るとシチュー自体は大きな窯から取り出しており、レクトがあと五杯おかわりしたところでなくなる様子はなさそうだ。
「それにしても、ずいぶん多く作ったんですね」
「え? ああ、シチューですか? 実は今日大勢人が来る予定だったのですが、急遽来られなくなりまして」
「ここに来るということは、冒険者ですか?」
「いえ。この先の街にある聖教会支部に所属している聖教騎士団の方々です」
「聖教騎士団?」
聞いたことないワードだ。オリジンやセカンドでもそんな名前の騎士団は耳に入った記憶がない。本当に聖教会の事となると分からないことがたくさんだ。
「聖教会に所属する者の中でも、戦闘面に長けた集団です。魔物討伐や除霊、元々の生業である回復魔法をつかっての治癒などをしているのですよ」
「へぇーそれは凄いですね」
戦闘に回復までできる集団なんて中々お目にかかれない。高ランクの冒険者の中でも、両方できるのは一握りだ。聖教騎士団は、個である冒険者とは逆の位置付けのイメージなのだろう。
「ええ。この支部の視察に来られると伺っていたのですが、なんでも街の周辺に魔人が現れたといううわさが立ち、急遽留まることとなったのです」
「魔人!?」
イザークさんの言葉に思わず声をあげてしまう。
魔物の上位互角にして意思を持つ災厄、魔人。つい最近アンドラスという魔人が現れ、オリジンに襲撃してきたばかりだ。その魔力は今まで出会ってきた悪意ある者の中で最も高く、あの時ヒイロが来てくれなければどうなっていたかわからない。
アンドラスは言っていた。次期魔王になるべく、魔王候補の魔人たちが魔王にふさわしい実績を作り出すため動き出した、と。今回現れた魔人も魔王候補者なのだろうか。実績を作るために現れたのであれば、オリジンのようなことが起こるかもしれない。
「ど、どうされましたか? リタさん」
「イザークさん。実は私、前にいた街でアンドラスっていう魔人と遭遇したの」
「魔人に!? それは、よくご無事で……」
「その時すごく強い知り合いが助けてくれたからなんとかなったけどね。直接体感したからわかる。あれは中途半端に対峙しちゃまずい存在だよ」
ランクAの冒険者でようやく戦える存在だ。聖教騎士団がいかに強いかは分からないけれど、万が一ということもある。私が知っていることが役に立つのであれば伝えなきゃならない。
それにちょうど次の目的地はその街だ。嫌でも行かなきゃならない。
「私とレクトはこの街で準備を整えて明日その街に向かいます。そこの聖教会の支部長さんに、私が知っていることを話そうかと」
「それは素晴らしい考えです。ですが、直接お会いになるのは難しいかと」
「どうして?」
「こことは違い、この先の支部はとても規模が大きいのです。それにそこの支部を纏めているのは支部長ではありません」
「支部長じゃない? じゃあ一体だれが纏めているの?」
「直接会うのが難しいと言ったのはそこが原因です。かの街の支部を纏められている御方。それは……」
イザークさんは一瞬言葉に詰まり顔をしかめる。そして伏せた目を私に向け。重々しく口を動かした。
「聖教会本部より大神官の地位を与えられた聖職者。ロズウェル・フォード大神官です」
□□□
「以上が報告となります大神官様」
聖教会支部の一室。甲冑に身を包んだ騎士の報告を、大神官と呼ばれた男は静かに聞いていた。
「魔人と思われる存在は見受けられなかったが、高位の魔物それに低位の活性化した魔物がいたと」
「はい。いずれも意思疎通できる個体はなく、魔物はすべて騎士団が一掃いたしました」
「それはご苦労。さすが聖教騎士団だ」
大神官は言葉で騎士をねぎらい両手を組み合わせ祈りをささげる。
「今後も騎士団に神のご加護があらんことを」
「ありがたき幸せです。大神官様。より一層の忠誠を誓います」
「うむ。今日は疲れただろう。ゆっくり休みなさい」
「はっ! それでは失礼いたします」
深々と一礼し、ガシャガシャと音を立て騎士は部屋から出ていった。
大神官は騎士が机に置いた報告書に目を通す。
「グリンドラゴン二体にオーク十体。それとゴブリン三十体をすべて討伐、か。さすがだな」
いらだった様子でバサッと報告書を床に投げ捨てる。
「なお、魔人と思わしき存在は確認できずうわさの出どころも不明。引き続き調査を行うものとする」
突如聞こえた声にギョッとし大神官が顔を向けると、見知った男が散らばった書類をせっせとまとめていた。
「せっかくまとめてくれたのに酷いことしますねぇ。あの騎士さんがかわいそうだと思わないんですか?」
「何しに現れたアベル」
「いえ。魔物が聖教会自慢の騎士団になすすべなくやられてしまっているところを見ましてね」
「なんだ、同情の心でも沸いたか」
「まさか。カモフラージュとしてはまぁまぁでしたと賞賛しに来たんですよ」
アベルは散らばっていた書類を纏め机に置く。だが順番は違っていた。一番前の紙には先ほどアベルが読み上げた魔人についての報告が記載されている。
「魔人が現れたといううわさをが蔓延してしまった以上、自身の正体がバレる危険性が高くなる。それを避けるためにわざわざ魔物を召喚して注意をそちらに向けた。あとは魔人は魔物の見間違いだったと広めれば一件落着、というところですか」
「誰がそのうわさを広めたかは調べさせたが、結果はかんばしくない。案外……」
大神官は鋭い眼光をアベルに向ける。
「うわさを広めたのは『人間』ではないのかもな」
「おやおや。それはそれは」
疑念。憎悪。恐怖。あらゆる負の感情が向けられても、アベルの笑みは崩れない。
「いずれにせよ、アンドラスさんのようにならないでくださいね。茶飲み友達が減っていくのはさみしいものですから」
「いつからそのようなものになったのだ。用がないなら消えうせろ」
アベルが空間魔法を使いドアを出現させる。ドアノブを引くと、その奥は別の場所につながっていた。
そして奥に歩いていきくるりと反転すると、大神官に笑顔で向かって手を振る。
「それではボクはこれで。頑張ってくださいね。フォード大神官」
ドアが閉まり、そのまま消滅する。
残された大神官は気が抜けたように息を大きく吐き、椅子にもたれ疲れたように天井を見た。
シチューおいしいですよね。好きです。
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