教育係と恩には恩を
だいぶ空いてしまいました。すみません。
投下します。
小さな小屋から道に戻った私たちは、ただひたすら道なりに進んでいた。
街はまだまだ遠くにあるようで、目先に見えるのはだだっ広い草原。行商人の馬車にもすれ違うことなく、まるで世界で二人だけになってしまったかのようだ。なんて、そんなことありもしないことを思ってしまうくらい何もいない。
ふと目線を横に向けると、隣を歩く少年は先ほど渡した金貨を見ながら目を輝かせていた。
まぁお金自体はまだたくさんあるから構わない。それにこの分だと街についてからも案内料を求められるだろう。がめついとは言ってしまたけど、これが彼なりの生活の仕方なのかもしれない。
私が彼くらいの歳のときはまだ実家で生活をしていた。何不自由なく育ててもらい、衣食住はもちろんお小遣いだってもらい不満はなかったと思う。
その点レクトはこの歳で生きる術を身に着けていた。回復魔法も使えるし、将来有望な職業に着けることだろう。案外守銭奴になりそうな気もするが。
「どうしたの? リタさん」
声を掛けられ私はハッと我に返る。いけないいけない、ちょっと見つめすぎてたみたい。
「いや、嬉しそうに金貨を見てたからさ」
「そりゃうれしいよ。なんてったって金貨だからね。しかも三枚。これがあれば当分は食べ物に困らないよ」
レクトの言う通り、金貨三枚もあれば私でもしばらく食が途切れることはない。それこそオリジンの食堂に毎日通えるほどだ。あそこの値段設定すごく安かったし。
確か討伐した魔物の肉を調理して出しているから、料理の素材のコストがあまりかからないって聞いたことがある。ゴルドが狩ってきたレッドドラゴンの肉なんて絶品だった。
「服も買うよ。今着ているのは大分痛んじゃったし。それで、夜はふかふかのベッドで寝るんだ」
とりあえず街に着いたら真っ先に服屋に案内してもらおう。そして食事をとった後宿屋に向かい一泊。ベッドはもちろんふかふかのやつで。なに、少しばかり高くてもかまわないさ。なんたって私今小金持ちなもんで。
冒険者ギルドに行くのを二の次に設定し、私はレクトのお金の使い道をニマニマしながら聞いていた。
「それで最後に……リタさん笑ってる?」
「ううん、笑ってないよ。ほら、最後はどうするの?」
「最後はね、教会に行って寄付するんだ」
今までの使い道とはまるで違う、子供らしからぬ答えが返ってきた。
「寄付?」
「うん。僕がヒールを覚えられたのも聖女様のおかげだし、会ったばかりだったのに本当にやさしくしてくれたんだ。だからそのお礼にと思って」
今時教会に行って寄付金を渡す者がどれだけいるか。オリジンには教会こそなかったが、冒険者たちにそんなことをする者はいなかったと思う。みんな自分のために使うのが普通だと思っているからだ。
冒険者は英雄願望を抱いているの者が多い。冒険者として名を上げるためには名声はもちろん富も必要だ。強い装備を身に着けたり便利な魔道具を買ったりなにかと入用なのである。もちろん全員がそうではないけれど。
私だって、今持っているお金を寄付しようだなんて考えは思いつかなかった。せっかくだし良いものを食べていい魔道具を買いいい装備を整える。自分のために使おうと思っていた。
「寄付かぁ。レクトはえらいね。普通は自分のことに使わない?」
「うーんまぁ普通はそうなんだけどね。僕は助けてもらった恩をまだ返せてなかったから、何か聖女様の助けになりたかったんだ」
「それで寄付をするんだ」
「街に行って、この金貨三枚がいくら残るかはわからないけどね」
どの程度のレベルを考えているかはわからないが、先ほどレクトが言っていたことを実現するのに金貨一枚、最大でも二枚使えばおつりがくる。よほどの豪遊をしない限りは必ず残るはずだ。それにこの後街についても案内がある。そこでまた稼ぐつもりに違いない。
それに、私も今の話を聞いて教会に興味が出てきた。
オリジンやセカンドにも教会は存在せず、実際のところ実物を見たことがない。なんとなく回復や呪いの解除をしているイメージはあるけどそれまでだ。そういった見たことないものを見れるのも、旅のだいご味なんだろう。
それに、レクトが話してくれた聖女様も一目見たいし。
「そういえば、レクトは冒険者とかにはならないの?」
歳にそぐわぬ魔力量に加え回復魔法が使えるのだ。それだけで重宝されるに違いない。教えられただけでヒールを会得したのだ。この先適切な師事を受けることが出来れば高ランクの冒険者も夢ではない。
「冒険者になれば今よりもっとお金が手に入るし、回復魔法を使えるってだけでほかの冒険者たちから引く手数多だよ」
「冒険者かぁ。確かにリタさんを見てるとそれもいいかなって思うけどね」
そういったレクトの目線は明らかに私ではなく、腰にぶら下げた金貨の入っている袋に向けられていた。
「いや、これはたまたま手に入っただけなんだよ。いつもこんな稼いでいるわけじゃないんだ。ごめんね」
「そうなの? でも一攫千金のチャンスもあるんだよね。それを考えると冒険者もいいなって思うけど」
「何かやりたいことがあるの?」
「うん。せっかく回復魔法が使えるんだし、教会とかで働きたいなって。聖女様の役に立ちたいし」
レクトが照れたように頭をかく。どうやら聖女様に並々ならぬ憧れを抱いているようだ。彼がここまで心酔するなんて。これは必ず会わないと。
話しながら熱き続けて、ようやく目の前に街が見えてきた。
「あそこ?」
「ううん。目的地はあの街のさらに奥だよ」
「じゃあとりあえずはあの街で一泊しようか」
子供もいるし、さすがに夜通し歩くわけにもいかない。それにちょうどお腹も空いていたところだ。
そんなことを思っていたら隣からグウゥと音が鳴る。見るとレクトがお腹を押さえながら恥ずかしそうに笑っていた。
「じゃあまずはご飯にしようか」
「賛成!」
ここぞとばかりに元気よく走り出すレクトを、私は負けじと追いかけた。
6月はあまり更新できないかもです。すみません。
誤字脱字、ご感想などございましたら是非よろしくお願いします。




