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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第四章
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教育係とがめつい案内人

投稿が空いてしまいすみません。

投下します。

「まったく。旅に出て早々、襲ってきたのが魔物じゃなくて子供とはね」


 お金が入った袋を再度腰にぶら下げた私は息を吐く。


 お金を奪っていった少年を追いかけ小さな小屋に入った私は、藁の上で休んでいる少年を発見。そしてバインドで体の自由を奪い袋を回収後、『こめかみグリグリの刑』を執行した。


 一度ユキノちゃんにやってもらった時めちゃくちゃ痛がったのを今でも覚えている。頭が左右から圧迫されつつさらに出っ張らせた指の第二関節で一点をグリグリと押された感覚はそうそう消えるものじゃない。目の前の彼もそうらしく、バインドを解き自由になった両手は頭を押さえていた。


「うう……痛い」


「そりゃ自分が悪いでしょ。いきなり袋を盗んだんだから」


 とはいえ。この小屋を眺め、そして少年の服装からして大体の予想はつく。


 オリジンの街付近はプレミアやギルドの関係者が見回りをしたり、冒険者が魔物を狩ったりで比較的治安がいい。だけどこうしてオリジンから離れてしまうと近郊の状況が嫌でも見えてしまう。特にここら辺は地図上不可侵な場所であり、誰かが管理していたりはしないのだ。


 一応国の領土ということにはなっているけど、国がここに兵士を派遣して治安を守るなんてことはしない。こういう国の領土でありながら治安維持がされていない場所はここだけではなくほかにもたくさんある。そのすべてに兵を置いてしまうと人員不足になってしまうのだ。


 そうした場合、魔物の増殖や野盗などの被害が多発する。


「ねぇ君、一人なの?」


 言葉は時に刃物になる。小さな子供に何かを聞くときは慎重にならないと。


「は? 誰かと一緒にいるように見えるの? 眼科いったほうがいいんじゃない?」


 私は再び刑を執行する。今度は少し強めにグリグリしてあげた。時には厳しさも必要だからね。


「いだだだだだだ!!!!!!! 一人です! 僕一人ですぅぅぅぅ!!!!!!!」


「素直でよろしい」


 両手を頭から離す。初めからそう言ってくれれば私もこんなことしなくて済んだのに。


 二回も刑を執行され涙目になった少年は恨めしそうに私をにらむ。そんな顔されても、生意気な態度をとった少年が悪い。私は悪くないぞ、きっと。


 だけどさすがに泣かせてはまずい。いろんな意味で。道具の入った袋をまさぐり、先ほど渡そうとしたポーションを取り出す。


「これ飲みな。頭の痛みが少しは和らぐかも」


「いいよ。そんな高そうなもの」


 少年はポーションを受け取らず、自分の両手を頭にかざした。


「主よ、傷を癒したまえ。ヒール」


 少年の両手から光が放出される。柔らかい光はそのまま少年の頭を包みこんだ。


 ヒールは回復魔法の一種で、数ある回復魔法の中で最も使い手が多い。習得が簡単なのも使い手の多さの理由の一つだ。体の傷はもちろん、体内の痛みや損傷にも多少の効果はある。


だけど、確か消費する魔力自体は攻撃魔法のそれと同等で多かったはずだ。普通はヒールを使わずにポーションを受け取るところなんだけど。


「今のって回復魔法だよね」


「え? うん、そうだよ」


「疲れてない? 大丈夫?」


「回復魔法使ったのに何で疲れるの?」


 私の問いに対し、少年は『は? この人何言ってんの?』くらい思っていそうな顔をする。いやそう思いたいのは私の方なんだけど。


「回復魔法を使うってことは魔力を消費するってことなの。それも少し多めに。人によっては数回使ったら魔力切れを起こす人もいるんだよ」


「今までけっこうヒールを使ったけど、魔力切れなんて起こしたことないよ」


「へぇー……」


 どうやら少年の魔力量は相当なものらしい。このくらいの歳で魔力に恵まれているなんていいことだ。私なんて仮にヒールを使えるようになったところで、今の魔力量じゃ日に数回しか使えないだろう。


 自身の魔力量を増やす魔道具なんかを使えばまた違うかもしれないけど、小金持ちになった今の状態でもその魔道具を買うには足りない。手持ち金すべてを突っ込めば買えないこともないけど、そこまでして欲しいものでもなかった。


「ヒールは元々使えたの? それとも教えてもらったとか?」


「教えてもらったんだよ、聖女様に」


 聖女。


 あらゆる回復魔法を使うことができ、聖なる力で魔物を屠る存在だ。確か特定の人物を指す単語ではなく、教会に功績を認められた女性が名乗ることを許される称号だとプレミアから聞いたことがある。


「魔物に襲われた時に助けてもらったんだ。魔物が、聖女が来たって言ってたから間違いないよ」


「それは良かったね」


「うん。怪我した俺にヒールをかけて、さらにはそのヒールを教えてくれたんだ。怪我しても自分で治せるようにって」


 少年が初めて笑顔を見せた。よほど聖女との出来事がうれしかったのだろう、目がキラキラしている。


 聖女との出会いを一通り話し、少年は満足したように藁の上に腰かけた。柔らかい藁に沈むその姿は気持ちよさそうで、私も思わず沈みたくなる。


「まぁお金は無事だったし、ちゃんと罰も与えたから泥棒の件はもういいよ」


「うぅ……ごめんなさい」


 少年は頭を抱えうずくまる。よほどこめかみグリグリの刑が効いたに違いない。さっきまであんなに晴れ晴れとしていた顔が引きつっている。


 お金に関しての問題は解決した。ただ、少年がヒールを使ったことで別の要件が発生する。


「ねぇ、そのヒール私に教えてくれない?」


「え? お姉さんヒール使えないの?」


 グサッと胸に何かが突き刺さった、そんな気がした。


 言葉は時に刃物にもなりうる。まさにその通りだった。


 ああそんな、そんな『この人こんな魔法も使えないの?』みたいな目を向けるのはやめてほしい。


 誰でもヒールが使えると思ったら大間違いだ。確かに回復魔法としては初級だけど、魔法全体で見れば習得はなかなか難しい。そもそも冒険者は個々の役割によって習得している魔法が違うので、ランクAでもヒールを習得していない者もいる。ゴルドとか。


「う、うん。そうなんだ。使えないんだよ、ヒール……」


「なんか一気に暗くなったけど……大丈夫?」


 でも、と少年は続ける。


「悪いけど僕は教えられないよ。だってやり方わかんないし」


「そっかー。そうだよね」


 冷静に考えてみればそうだ。十歳くらいの子供が人に魔法を教えられるわけがない。聖女に教えてもらった時だって、きっと無我夢中でやっていたのだろう。


「ねぇ、この先の街に行くの?」


「え? うん、そうだけど」


「僕もついていっていい? 実は僕、元々この先の街にいたんだ。ある程度なら案内できるよ」


 それは願ってもない話だった。初めて行く街で案内人を確保できたのは上々といえる。宿の場所も武器屋の場所も、一から探すとなると時間がかかるが案内人がいれば話は別だ。


 私は少年に右手を差し出す


「私はリタ・フレイバー。ランクDの冒険者よ。よろしく」


「僕はレクト。よろしくリタさん」


 握手を交わし、私とレクトは街を目指すべく小屋を出た。


「ところで、案内料は金貨三枚でどう? いいよね? ね?」


「うーん、がめつい」

お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字、ご感想などあればぜひよろしくお願いいたします。

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