教育係と小さな泥棒
投下します。
金は天下の回りものとはよく言ったもので、私はかつてないほどに小金持ちになっていた。
オリジンで受けた緊急クエストの報酬に加え、狐の館に置いてあった自身の荷物を売っぱらい、旅に出るには十分すぎるほどの資金を得ている。これなら今の装備を新調したりポーションを買ったりすることが出来、さらに旅に出て早々野宿をすることもないのだ。
さすがに魔物がどこにいるかわからない状況で野宿するのは危険すぎる。この問題が解決でき、私は一安心していた。
「それにしても、平和だなー」
オリジンの街を出て数刻。道をひたすら歩いているが、魔物の気配が一切ない。それもそうだ。この道は行商人などが頻繁に使う道らしく、馬車も通るので整備されていた。道の周りも一体が草原となっており見晴らしもいい。
こんなところで魔物が出るはずもなく、私は黙々と道を歩く。
地図だとこの先に街があるはずだ。そこにはオリジンと同じように冒険者ギルドがあり、確か治癒魔法に長けた冒険者が大勢いると聞いている。せっかくなのでそこで治癒魔法の一つでも会得出来たら、というのがとりあえずの目的だ。
旅をするのであれば治癒魔法は絶対に会得しておいたほうがいい。ヒールくらいであれば私の魔力でも十分唱えられるはず。ハイヒールまで行くとちょっと魔力が足りないかも。
私が自分の魔力のみで使える魔法といえば、相手の動きを封じるバインドくらいだ。単に自分の魔力が低くてほかの魔法を覚えてこなかっただけなのだけど、さすがにバインドだけじゃ心もとない。攻撃魔法、身体強化魔法といった選択肢もあったけど、今確実に必要なのは間違いなく治癒魔法だ。だって怪我して動けなくなったら最悪死ぬからね。
「んん? あれは……」
しばらく歩くと、前方に人影が見えてきた。ローブに身を包んだ小柄な体格の人がうずくまっている。子供だろうか。周りを見渡すがほかに誰もいない。
「どうかしたの? 大丈夫?」
声をかけローブを覗き込むと、赤色の瞳と目が合った。風が吹き、ローブで隠れた顔があらわになる。年はセカンドで知り合ったキールくんくらいだろうか。まだ幼さが残る赤い瞳とは対照的に真っ白な髪の少年は、おびえた様子で固まっていた。
「どこか怪我でもしたのかな? えーっと、ポーションは」
とりあえず手持ちのポーションを飲ませようと腰に下げていた袋に手を伸ばす。私が少年から目をそらしたほんの一瞬、それを狙っていたかの如く少年は素早く私の腰に手を伸ばし、お金が入っている袋を引きちぎるとそれを持って一目散に逃げだした。
何をされたのか理解するのに数秒掛かり、気が付いた時には少年の姿が遠くに点として見えるほどになっている。
「あーなるほど。これはつまり……」
状況を理解し頭を切り替える。少年に向けていた慈悲の心はもうどこにもない。あるのは犯罪者である罪人を必ずひっとらえるという使命感のみ。
「待てぇぇぇぇぇぇ!!!!!! お金返せぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
何もない草原に私の声が響いた。
★★★
「ハアッ! ハアッ! ハアッ! ハアッ!」
広い草原を少年は全力で走っていた。手には膨らんだ袋が握られており、その中身は貨幣である。
つい先ほど一人でのんきに歩いていた冒険者から奪い取った金だ。この道は行商人が多く通り、ちょっと具合が悪い振りをしてうずくまっていれば大抵の人間は何事かと止まり様子を見に来る。少年はその隙をついてこうして金銭を奪っているのだ。
しかし、今日のこの貨幣の量は誤算だった。まさかただの冒険者がこれほどまでの金銭を保有しているとは思ってもみなく、袋の重さにただただ震える。
もしかしたらあの女は冒険者ではなく、いいところの令嬢だったのかもしれない。そんな考えが思い浮かび、もっと奪えたかもしれないと少年は自身の行動を悔やんだ。
しばらく走り、寝床にしている小屋にたどり着く。息も切れ切れで心臓が今にも飛びでそうだった。だがその苦労に見合った金銭を手にし、少年は満足そうに積まれた藁の上に倒れる。
もう一歩も動けないが、ここを知る者は自分しかいない。あの女がここに来ることは絶対にないと安心していた。これでしばらくは生活に困ることはない。
「ふーん。ここが君の隠れ家ってわけか」
聞こえるはずのない声にギョッとしあわてて体を起こすが、突如光の輪っかで体を拘束され、少年はそのまま地面に転がる。なんとか首を動かし上を見上げると、先ほど撒いたはずの女が目の前に立っていた。
「バインドも役に立つもんだ。さて、と」
女の腕が伸びる。ああ、またかと少年は覚悟した。
今まで行商人の馬車などを狙い続け、成功したこともあり、当然失敗したこともある。むしろ失敗した割合の方が多い。そうなった場合どうなるか。基本的には二発で済み、多い時には五、六発。失敗するたびに体はボロボロだった。
今回は何発だろう。女は非力だからもしかしたら武器を使ってくるかもしれない。
不安が募り緊張で体がこわばる。
女が落ちていた袋を拾い上げ中身を確認した。そしてそれを再び腰にしまうと女が足元の少年に目を向ける。それは道端の石ころを見るような冷たい目だった。これから自身が行うことに何の感情も抱いていない氷の瞳。
「私のお金を盗もうとした落とし前。その身で受けてもらうよ」
女は両の拳を握りしゃがみ込む。武器を使われることはなさそうだと、少年は少しだけほっとした。そして全身に力を入れる。女の力であれば、こうすれば骨は折れないはずだ。
殴られる恐怖に震えながら、少年は自身の頭に女の拳が添えられたのに気づく。
殴られないのかというふと沸いた疑問は、頭に走る激痛によってものの見事にかき消された。
「いででででででで!!!!!!!!! いたいいたいいたい!!!!!!!!!」
「見たか! これぞユキノちゃんに教えてもらった秘儀、『こめかみグリグリの刑』だぁぁぁ!!!」
「いだだだだだだだだ!!!!!!!!! やめ、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!!」
小さな小屋に、少年の断末魔が響いた。
お読みいただきありがとうございます。
私も昔こめかみグリグリの刑をやられたことがありますが、メチャクチャ痛かったです……。
今更ながらツイッターを始めました。
今後はそちらでも進捗をお伝えしていこうかと思います。
よろしくお願いいたします。




