教育係と約束
投下します。
その瞬間、笑顔だったユキノちゃんの顔がこわばる。ああ、この顔はいつだったか見たことがあった。私がグリンドラゴンとの戦闘で大怪我してギルドの病室に運び込まれた時、自身が放った高位魔法のせいで火傷させたと思っていた時の顔。
不安な感情が表情に出る子だ。この話ももしかしたら、自分がまた何かしてしまったと勘違いしているかもしれない。そういった誤解は早めに解くに限る。
「先に言っておくと、別に組みたくないとかじゃないからね?」
「じゃあなんでそんなこと言うんだよ」
怪訝な表情でエルギンは言う。その疑問はごもっともだ。
「ちょっとオリジンからでようかと思って。外を回って見るものいいかなーってさ」
「だったら俺たちと一緒に行けばいいじゃねぇか」
「そうだよー。五人の方が楽しいよ?」
マージも加わり、私にパーティとしての同行を再度促す。 その言葉は本当にありがたい。こんな私を誘ってくれていることにうれしく思いつつも、私は首を横に振る。
「今回の緊急クエストで思ったんだ。私はみんなみたいに力もなければ魔力も少ない。冒険者としてのランクもDだし、パーティを組んだところできっと足手まといになっちゃう」
マージはともかく、エルギンは分かっているはずだ。冒険者のパーティは基本的に、そのパーティ内で一番ランクの低い冒険者のランクに見合ったクエストを行うのが普通だと。高ランクのクエストも受けることは可能だが、その場合低ランク冒険者の致死率が跳ね上がる。理由は簡単で、実力が伴っていないからだ。
それをわかっていて私をパーティにいれようとしてくれているのは、私と彼らの仲だからか、それともユキノちゃんにあらかじめ相談されていたかは分からない。だが私が今このパーティに入るわけにはどうしても行かなかった。それはもちろんお互いのために。
「みんなと一緒に行ったらさ、きっと頼りっぱなしになっちゃうと思うんだ。特に戦闘面でなんか、私ができることは少ないだろうしね」
オークも単身で倒せない冒険者が戦力になるとは思わない。
きっと彼らはこの先オークよりも手ごわい魔物と対峙していくのだろう。エルギンとユキノちゃんのランクはB、ルーペンとマージはCだけど実力的にはエルギンに近しい。そんな中で私が役に立つとは到底思えなかった。
「だからこそ、私は一人で行くべきなんだ。自分が今よりもっともっと強くなるために」
エルギンとマージは顔を見合わせため息をつき、やれやれといった様子で首を振る。
「ユキノ。こうなったリタはもう自分の考えを曲げない。いくら言ったって無駄だぜ。あとは任せるから好きにしな」
「まぁなんとなく、こうなる感じはしてたけどねー」
そう言って二人はつぶれたルーペンを持ち上げると、手を振ってその場を後にした。
残されたユキノちゃんはまだ言葉を発することなくうつむいている。
思えばこの子とはとても印象に残る時間を過ごした。
初めて出会ったその日に冒険者としての基礎を教えようとデリルの森に入ったら、竜種であるグリンドラゴンを高位魔法で消滅させそのままランクBの冒険者となり、セカンドでは来訪者の情報集めをしケット姉弟と知り合って、その後魔剣騒動の鎮圧化に関わる。そして今回ランクアップを意識させてくれたのもユキノちゃんだ。
「あー、ユキノちゃん?」
おそるおそる名前を呼ぶと、ユキノちゃんはうつむいていた顔を上げる。泣いているかと思っていたが、案外すっきりした顔だったのでほっとした。
「わたしは、この世界に来てリタさんにいっぱいお世話になりました」
「そんな。大したことはしてないよ」
「いいえ。何もわからなかったわたしが今こうしているのは、全部リタさんのおかげです」
あんまり慣れていないから、こうも持ち上げられてしまうと照れてしまう。
「そのリタさんが、パーティを組まないのは自分の為というのであれば無理強いはしません。理由も納得できるものでしたし」
「ユキノちゃん……」
「だからっ!!」
ユキノちゃんの声に力が入る。今までよそを向いていた冒険者たちも、ユキノちゃんの声に反応し何事かとこちらに視線を向けた。
「だから……絶対に死なないでください。一人で行くというのであれば、それだけは守ってください。お願いします」
きれいな瞳が涙で潤む。
冒険者にとって絶対はない。魔物を相手にする職業だ。いつなんどき命を落とすかわからない。だから、彼女が言う願いを守れる保証はなかった。
だからこそ、私はあえて言う。
「わかったよユキノちゃん。死なない。またユキノちゃんと会うまでは絶対に」
さすがにこの場で、その約束は守れないという空気の読めないことを言うつもりはない。彼女が安心して私から離れられるように伝えるべき言葉。生きて会おうという約束。今はそれで十分だ。
「それに、今までがあれだっただけで今後は極力安全に行こうと思うから心配しないで」
グリンドラゴンに魔剣、オークロードに果ては魔人。とてもランクDの冒険者が対峙する相手ではない。そういった特殊なことはもうあまり起こらないだろう。今までが異常だっただけだ。
まぁ、旅先で出会う分には避けられないかもしれないけど……。
「わかりました。じゃあ今日は約束の日ということで、乾杯ですね!」
「おっ、ちょうど終わったみたいだな」
見ると、エルギンとマージがジョッキを持って戻ってきた。
「あれ? ルーペンは?」
「宿に置いてきたよー。明日は二日酔いコースだねぇ」
エルギンからジョッキを受け取り、私は三人と乾杯する。中身は酒ではなくサイダーだ。エルギンのことだ、明日のことを考慮してくれたのだろう。
すると周りの冒険者たちもジョッキを手に持ち私の周りに集まってきた。いずれも見知った顔で、一緒にクエストに行った人もいる。流れで一人一人と乾杯し、明日の景気づけにと注がれている飲み物を一気に飲み干した。ユキノちゃんも私に負けじと一気に飲み干し、次のジョッキをマージから受け取っている。
「どうですかリタさん。最後に一つ勝負というのは」
「面白いこと言うねユキノちゃん。私に勝てるとでも?」
「じゃあこれで勝負しなよー」
マージがテーブルに置いたのは、マージお手製の特性パフェだった。見ているだけで胸やけしそうなパフェが二つテーブルに置かれる。え? これで勝負するの? サイダー何杯飲んだかじゃなくて? 今の流れそうじゃなかった?
次第にテーブルを囲むように冒険者たちが集まってくる。
「うわーあれもおいしそうだなー。あれ? でもデザートコーナーにはなかった気がするけど。もしかして特注品かな」
「お前あんだけ食ったのにまだ食うのか。あーだからか、肩に担いだ時やけに重いと思ったら」
「あの時はまだ食べる前でしょ! それに私はそんなに重くないわ! レディに向かってなんてこと言うのよこの不良使い魔っ!」
「レディ? 笑わせんな、おこちゃまの間違いだろ」
「ムキーッ!! 何ですってぇ!!」
ギャーギャーと言い争いが聞こえてくるが今はそれどころではない。一見華やかに見える特製パフェだが、その実恐怖でしかなかった。いやこれ普通の人が食べる量じゃないでしょどう考えても。
隣に座る少女は目を輝かせながら用意されたスプーンを手に取った。
「わーおいしそう! リタさん、負けませんよ!」
「えっ!? あ、うん。よ、よーし。もうどうにでもなれ!」
宴会はそのあとも終わることなく夜通し続き、多くの冒険者がギルドの床で眠ることとなった。
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