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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第三章
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教育係と一杯分の宴会

投下します。

 ヒイロに抱えられ、私たちはいつの間にか森の中に移動していた。


 亀裂の入った空間は完全に消滅し、見慣れた光景が目に飛び込む。デリルの森に戻ってきたことに気づくのにさほど時間はかからなかった。


「ここまでくれば大丈夫か」


 そう言ってヒイロは抱えていた私とカレンをそっと地面に降ろす。そして肩に乗せていたリリルも降ろそうとしたが、当の本人は肩に乗せられ酔ってしまったのか大分顔色が悪い。


「ったく、こいつは」


 これ見よがしに大きなため息をつき、頭を大げさに横に振ると、ヒイロはリリルを持ち上げ背負った。さんざん煽ったりはしていたが、なんだかんだ言いつつ彼は面倒見がいい。それは相手がリリルだからなのかも知れないが。


「今更だけど、助けてくれてありがとうヒイロ」


「なに、これから探しに行こうって時にタイミングよくこいつの魔力が回復してな。それ辿ったらあそこに出たってわけだ」


「魔力が……回復?」


 あの時確かポーションなどを飲む暇はなかったはずだ。自然回復といっても、リリルの魔力は尽きかけていたはず。そんな短時間で回復した魔力で辿れるものなのかと、ヒイロの話を聞いて疑問に思ってしまった。


「ああ。急にいつもの魔力量になったのを感じてな。確かもう底つく寸前だったはずなんだけどよ」


「リタ、あの飲み物じゃない?」


 カレンの言葉に私はあっと声を上げる。


「アベルの出した茶! 確か減った魔力が回復するって」


 そう。確かアベルはそんなことを言っていた。冒険者にも評判な魔力が回復する茶だと。だがアベルはなぜわざわざそんなものを出してきたのだろうか。回復したところで大した脅威にはならないという慢心か、あるいは別の思惑があったのか、それは分からない。


 なんにせよ彼のだした茶のおかげであの魔人、アンドラスの足元をすくうことに成功したのだ。


 それに、アンドラスはいくつか気になることを口走っている。早急にギルドに戻って今回の事を伝えないと。


「みんな、一旦ギルドに戻ろう。色々話さなきゃいけないことが山ほどできた」





                              ★★★





「リタさん! それに皆さんも! よく無事に戻ってきてくれました」


「リダざぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!! 心配じまじだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


 ギルドに戻るなり、私たちは多くの冒険者たちに迎えられた。戻ってきていないのは私たちだけだったらしく、今まさに捜索クエストを発令するところだったという。しかも緊急クエストで。発令される前に戻ってこれてよかった。心配だったのは分かるけど若干恥ずかしい。


「リタさん、よくぞご無事で!」


「だから言ったでしょー。リタなら問題ないって」


「まぁ、分かってはいたんだが。こうして顔を見るまで安心できなくてな」


 ルーペン、マージ、エルギンも戻ってきている。三人とも大した怪我もなくて何よりだ。私に抱き着いて大泣きしているユキノちゃんも特に目立った外傷はない。そもそも彼女の実力からしてオークロードに不覚をとることもないか。三人もついてたし。


「ごめんごめんユキノちゃん。ほら、大丈夫だから」


「本っ当に心配したんですからね! ギルドに戻ってきたらほかの冒険者の人が、リタさんが突然消えたなんて言うもんだから……わたし、わたしぃ……」


 そんなに心配してくれたのか。なんだか悪いことをしてしまった気持ちになり、若干胸が痛む。


 一向に泣き止まないユキノちゃんの頭をよしよしと撫でふと周りを見渡すと、カレンはアランたちのもとに戻り、いつの間に元気になったのかリリルはヒイロに背負われながらギャーギャーと騒いでいた。本当に仲いいなあの二人。


「皆さん」


 様々な声が聞こえていたギルド内が静かになる。声の主はサブギルドマスターのミラベルさんだ。冒険者全員を見渡せるよう輪の中央に進む。


「今回の緊急クエスト、本当にありがとうございました。誰一人かけることなく全員が戻ってこれたのも、全員が協力しあった結果です」


 謝辞を述べ、ミラベルさんは頭を深く下げる。こういった冒険者へのねぎらいの言葉は本当にありがたい。こう言ってもらえることで多くの冒険者の励みになるだろう。一人、また一人声が上がり、ギルド内は再び熱気に包まれた。


「ミラベルさんの為ならなんだってするぜ!」


「オークロードなんて何体でも倒してやる!」


「好きだー!」


「付き合ってください!」


 さすがはミラベル・ファストナー。オリジンの女神。プレミアだったらこんなこと言われない。冒険者の間で密かに集計されていた『オリジンギルドで付き合いたい女性ランキング』で第一位なだけのことはある。ちなみにプレミアは第八位だったっけ。


 コホンと咳ばらいをするミラベルさん。言われ慣れているのかその表情は(営業向けの)笑顔だった。


「今回は本当にありがとうございました。ささやかではありますが、今日の飲食代金はすべてギルドが賄います。皆さん、大いに楽しんでくださいね」


「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」


 割れるくらいの大歓声。今夜は飲めや食えやの祭りのようだ。それも代金はギルド持ち。これで盛り上がらない冒険者はこの場にはいなかった。


 そこからの流れは迅速で、まるで初めから準備していたかのように厨房の奥から料理がどんどん運ばれてくる。飲み物も途切れることなく運ばれ、大きな酒樽まで用意されていた。先ほどまで私の胸元で泣いていたユキノちゃんも料理が来るや否や、行ってきますという言葉を残し料理目掛けて突っ込んでいく。まぁ、元気になってくれてよかった。


 ほかのギルドでしているかはわからないが、緊急クエストのあとはいつもこのように大々的に宴会が行われている。これには冒険者同士の関係を新しく築いたり、持っている情報を交換したりと様々な用途が考えられていた。


「リタさん」


 ふと横を見ると、ミラベルさんがグラスを二つ手に持って歩いてきていた。そして片方を私に差し出す。グラスを受け取り一口飲むと、甘酸っぱいオレンジの味が口の中に広がった。


「やっぱりクエスト後のオレンジジュースは最高ですね」


「そう言っていただけると、準備した甲斐がありました」


 そういうミラベルさんの持つグラスにも同じようにオレンジジュースが入れられていた。普段であれば彼女の好きなカクテルが入れられているはずだが、今回は入っていない。


 ふと、ミラベルさんの表情が変わる。


「リタさん。戻って早々申し訳ありませんが、少しお時間よろしいですか?」


 なるほどそういうことか。


 ミラベルさんのグラスにカクテルが入っていなかったことに、私は今の彼女の言動で納得する。


 まだ彼女の仕事は終わっていないのだ。


「はい。実は私もそう思っていました」


「そうでしたか。ではこちらへ」


 オレンジジュースを飲み干し空いたグラスをテーブルに置く。


 私はミラベルさんの後を追い宴会会場を後にした。

お読みいただきありがとうございます。

本作品ですが累計10000PV突破しました。これも皆さまのおかげです!

今後ともよろしくお願いいたします!

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