教育係と足かせ
投下します。
「なるほど。私はプレミアを釣るための餌ってわけね。でも今の話を聞いて、素直に言うこと聞くと思う?」
「聞くさ。聞いてもらうために君だけではなく、わざわざこの二人にも来てもらったのだから。『二人ともこちらにきたまえ』」
アンドラスの言葉にカレンとリリルは椅子から立ち上がり、そのままアンドラスの両脇に立つ。そして両羽を広げ、鋭利な先端部分を二人の首元に添えた。
「聞かなければ二人の命はない」
「このっ……」
「彼女らがここへ来たのは偶然だと思ったか。違う。これらは君を釣るための餌だよ」
「リタ! 私に構わないで! 絶対に聞いちゃダメ!」
「だだだ大丈夫だよ。きっとすぐ私の優秀な使い魔がここに来るから。そしたらこんなやつやっつけっちゃうんだから!」
「威勢のいいお嬢さんたちだな」
アンドラスが羽を動かす。例えるなら首元に剣の刃を突き付けられている状態だ。動かせば当然その部分が切れる。二人の首元に小さな切り傷ができそこから赤い血が流れた。
「やめて!」
「やめるかどうかは君次第だ。さてどうする。私に協力するか、それとも三人仲良くここで死ぬか。好きなほうを選びたまえ」
そんなの最早二択じゃない。答えはすでに決められているようなものだ。二人を死なせないためには私がこいつに下るしかない。
「私がここで従うって言っても、きっとプレミアが私ごとあんたを消滅させるよ」
「それはないな。『束ねる者』は何より君の安全を優先する節がある。だからこそ、ほかの誰でもない君なんだよ」
アンドラスはその顔をいびつにゆがませ声を出して笑っていた。
「力もない。魔力も低い。冒険者としてのランクも低い。そんな弱小な小娘があの『束ねる者』の足かせになるだなんてな。ホハハハハハハ!! これほど御し易いものはほかにあるまいよ!!!」
アンドラスの言っていることはもっともだ。オリジンギルドマスター、『束ねる者』プレミア・ファストラッド。彼女の存在は大きく、普段あんな風だが彼女自身の能力はランクS級だ。そんな彼女の弱点を唯一あげるとしたら、それは私なんだろう。薄々自分でもそう思っていた。
彼女は私に対して過剰すぎるほど過保護なところがある。少し怪我をして帰っただけなのにその後のクエストは「暇だから~」と同行したり、私が受注したクエストに、ランクの全然違うゴルドやそのほかの見知った冒険者を入れてパーティを組ませたりと。
そんな中私が魔人の人質になるのは非常にマズい。私のせいでオリジンに、何よりプレミアに迷惑が掛かってしまう。でもここで断ればカレンとリリルの死は避けられない。
「さぁリタ・フレイバー。私に隷属すると言え。そして『束ねる者』を手中に収めるために私にその身をゆだねろ! 言わなければ」
「言わなければ、どうなるんだ?」
突如男の声がアンドラスのすぐ後ろから聞こえた。聞き覚えのある軽い口調。人を小ばかにした感じ。
直後、アンドラスの腹が勢いよく破裂し、体内の血肉をテーブルにぶちまける。腹からは男の腕が貫通しており、その拳は赤く染まっていた。
「がはっっっ!!!! な、んだ……と?」
男が腕を引き抜き、バランスを崩したアンドラスの両羽が男の手によって引きちぎられる。繋がっていた部分からは噴水のように血が噴き出した。そして両脇にいたカレンとリリルを抱え込みそのまま飛び、男は私の前に着地した。
「よう。生きてたかリタ、それにリリル」
「く、来るのが遅いのよぉぉ………」
男性の顔を見るや顔をくしゃくしゃにして泣き出すリリル。抱えている二人をおろし、男は最早瀕死状態のアンドラスに向き直った。
「き、さま……何者だ……っ!」
「俺か? 俺はこの召喚士リリル・クラインハートの使い魔」
男は拳をアンドラスに向け、不敵な笑みを浮かべる。
「主人より超高性能な使い魔様だ。じゃあな魔族野郎」
向けられた拳から膨大な衝撃波がアンドラス目掛け放たれ、そのままアンドラスを飲み込む。防御する暇すら与えず無慈悲に放たれた衝撃波はアンドラスのみならず、その後ろまで飛んでいき、階段や祭壇を破壊した。
先ほどまでこの場の空気を凍り付かせていた魔人は、ヒイロの手によって瞬時にその姿かたちを消滅させる。それはあまりにもあっけなく、それがオリジンを手中に置くと息まいていた魔人の最後だった。ヒイロが放った衝撃波で空間にも影響が出てきたのか、ところどころに亀裂が入る。
亀裂から光が差し込んでいるところを見ると、どうやらここは元々あった場所に全く別の空間を作り出したものらしい。そんな高度な空間魔法を使えるのはこの場には一人しかおらず、当の本人は若干怒りながら壊れたテーブルを足蹴にこちらに歩いてきた。
「あーあ。もう酷いじゃないですか。せっかく頑張って作ったのに。あの祭壇なんて結構凝ってたんですよ?」
そんなのんきなことを言いながら歩くアベルとかいう男はあの衝撃波の中、全くの無傷だった。精々が服についた埃を払う程度である。そんなアベルにヒイロは訝しそうな眼を向けた。
「あん? お前どこかで会ったか?」
「さぁ、どうでしょう。それより、そろそろここから脱出したほうがいいですよ」
アベルが天井を指さす。崩れかかっているこの空間は最早、その形を維持できなくなってきていた。こんなところにいつまでも残っていたら一体どんなことになるか想像もつかない。
「言われるまでもねぇ。行くぞお前ら」
ひょうひょうとした態度のアベルに舌打ちをし、ヒイロが私とカレンを脇に抱え、召喚主であるリリルは肩にそのまま乗せた。
「わっ! ちょっと、レディはもう少し優しく扱いなさいよ!」
「そういうことはもう少しレディらしく振舞ってから言うんだなこのおこちゃまが」
「ここ出たら覚えてなさいよあんた!」
こんな時まで喧嘩するなんてこの二人はなんというか、うん。
去り際、私はアベルがいた方を見る。彼はまだそこにいて、あろうことか笑顔で手を振っていた。アンドラスの姿はもうどこにも見えない。ヒイロの攻撃で消滅したのだろうか。あるのは散乱しているアンドラスの体の一部のみ。
最後まで魔人の消滅の有無は分からないまま、私たちはヒイロに抱えられこの空間を脱出した。
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