教育係と一難去って
投下します。
「それじゃみんな、手はず通りにね」
「おうよ!」
「ええ、任せて」
「了解だ」
「う、うん」
デリルの森にはいくつか開けた場所がある。ここはその一つで、オークロードは獲物を待つかのようにジッと仁王立ちで立っていた。
木陰に移動した私たちは作戦の最終確認をし、標的を見据える。
その凶暴な瞳はまだ私たちに気づいてはいない。仕掛けるなら今が絶好のチャンスだ。
アランとカレンが顔を見合わせ、瞬時にオークロードの真横まで突貫する。ザッハに支援魔法をこれでもかというくらい掛けられたのだ。当然先ほどとは段違いの速さで真横にたどり着く。
そのまま剣でオークロードの両脇を切り刻み、二人は瞬時に散開した。
「グオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
両脇を切られたことによりようやく獲物の気配を感じ取ったのか、その太い腕をやみくもに振り回す。すでにアランとカレンはオークロードから離れており、力任せに振るわれたその剛腕は宙を割いたのみ。バランスを崩したその隙を見逃さず、二人は再び両脇を過ぎ去り際に切り刻んだ。
この方法なら確実にダメージを与えられる。いくら力が強かろうと、当たらなければ無意味だ。支援魔法もザッハが絶えず掛け続けているので、二人の速さが落ちることはない。
だが、これで倒せるほど甘い魔物ではないのがオークロードだ。やみくもに振り回していた腕も徐々にだが二人を捉えてきている。当たりはしないものの、避けるために攻撃を中断してしまうのでダメージをうまく与えることが出来ない。加えてオークロードの回復速度が高いせいで傷口が塞がりつつある。
「さすが本物。斬っても斬っても傷が治っていやがる」
「泣き言わない! ほら行くわよ!」
オークロードに対しての攻撃があまり意味をなしていないことにアランとカレンは気づいている。だがその手を止めることはしない。なぜなら二人の行動はこれで正しいのだ。
二人が攻撃を続けている間オークロードの目に私たちは映ってはいないだろう。それでいい。そうでないと困る。
二人の役割は囮だ。とにかく素早い動きでオークロードを撹乱させこちらへの注意をそらす。
「ねぇ、本当にうまくいくの?」
不安げにそう言ったザッハはタイラーの盾で私共々守られている。作戦は説明したが、やはり納得はしていなかったようだ。無理もない。成功しなければここにいる全員ただでは済まないのだ。真っ先にオークロードの餌食となるのは前衛の二人。そのあとは私たちだろう。
「なんだザッハ、ここに来てそんなこと言いやがって」
「だってリタはランクDなんでしょ? 魔導士でもないのにどうやって放つのさ」
タイラーの軽口に喰いつくザッハ。ザッハの言う通りだ。今からやろうとしていることは、本来なら魔導士でもない私が到底行えない所業。その消費魔力ゆえに、熟練の魔導士ですら撃つのを躊躇う殲滅魔法を使おうとしているからだ。
ランクDの私の魔力はおそらくの魔導士適正を持つランクEの冒険者よりもやや低い。元々何かに特化した能力を持っているわけでもないので、すべての能力が平凡なものなのだ。戦闘能力だってランクD相当の腕を持っているわけじゃない。採取と低レベルな魔物の討伐、それらを繰り返し今のランクになったのだ。そんな私の作戦を聞いてザッハが不安がるのもわかる。
「言いたいことは分かるよザッハ。普通なら誰だってそう思うよね」
だが、彼らは知らない。非常に限定的な場面ではあったが私はその魔法を唱え放ったことがある。
灼熱の炎と盛大な爆発で、敵対した者の存在を消し去る大型攻撃魔法の奥義。
私は懐からポーションを一つ取り出す。万が一にとミラベルさんから渡された特別なポーション。飲めばたちまち傷が回復し気力体力魔力まで回復してくれる万能薬エリクサー。
ふたを口で外しエリクサーを飲む。緑色の液体をごくごくとのどに伝わらせると、体の魔力が徐々に高まっていくのが感じられた。
エリクサーには本来の役割である回復効果とは別に、使用者の魔力を向上させる効果もある。今回飲んでいるのはただのエリクサーではない。元ランクS冒険者、現オリジンサブギルドマスターのミラベル・ファストナーが作成したエリクサーだ。その効果は絶大なもので、一時的ではあるが私の魔力をベガルタを持っていた時の魔力に近づけることが出来る。
「でもね。みんなの命を懸けている作戦なんだ。もちろん勝算あっての発言だよ」
「え? リタの魔力が、上がってる……?」
「すげぇ……俺でも感じられるぞ」
体内を膨大な魔力が駆け巡る。さすがにベガルタを持った時の魔力よりかは低いけど充分だ。これだけの魔力があれば一回だけならまた撃つことが出来る。
私は懐から詠唱の綴りが書かれた紙を取り出した。さすがに二回目なのでこれがないとまだ唱えることが出来ない。どこかで噛んだり、飛ばして唱えでもしたら大変だ。タイラーに目で合図を送り、私は髪を見ながら詠唱に入った。
「煉獄の炎よ、その怒りその業火、我が前に顕現せよ!」
「アラン、カレン! そろそろ退避の準備だ!」
タイラーの声に俊敏に動き回っていた二人が反応した。魔法の詠唱にはまだ少しかかる。
「我が望みは殲滅、我が願いは破滅! かの者に真紅の滅びを与えん!」
二人がオークロードから距離をとる。そしてそのまま私たちの元へ戻ってきた。ザッハが身体強化魔法をかけ全員の能力を底上げする。タイラーは盾で仲間を守る体制をとり、アランとカレンは今からくる衝撃に備えた。
オークロードは二匹の獲物が居なくなったことにようやく気が付き、辺りを見回し、それらが一緒の場所に集まっていることをその目で見た。オマケに獲物が増えている。それに歓喜したのか咆哮が上がり、巨大な体をこちらに向け突進してきた。
私たちを見つけたときの顔。弱い獲物を見つけ、これからいたぶってやろうという感情があらわになった下卑た笑み。もしオークロードが私たちを見つけた瞬間突進してきていたらマズかったかも知れない。
お前の敗因は、獲物を目の前にしてその獲物を侮ったことだ。
「轟け!! エクスプロージョンッッッ!!!」
その瞬間、何十もの魔法陣がオークロードの真下に一瞬で現れ、同時にその頭上には鏡のように同じ魔法陣が出現した。一つ一つの魔法陣が絶大な威力を誇る爆発魔法。エクスプロージョンとはその集約魔法だ。すべての魔法陣が、一体のオークロードを中心に重なり合う。
すさまじい爆発が起こり、辺り一面を爆風が襲う。ザッハの身体強化魔法で体の耐久度を底上げしタイラーの盾に隠れながらも、その余波がビリビリと伝わってきた。オークロードの苦痛のこもった咆哮が響き渡り、炎は容赦なくその身を焼き尽くす。
爆発で巻き上がった煙が徐々に晴れていく。そこに形をかたどるものは最早なく、オークロードは文字通り消滅していた。
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。未熟な文章で申し訳ありません。精進します。
ご感想などもあればぜひよろしくお願いいたします。




