ギルドマスター達の会合
投下します。
オスティアーナ王国。小さな村や町の人間が集まり、一人の男を王として祭り上げ、その男によって繁栄した歴史ある国だ。
男の名はロイド・フォン・オスティアーナ。かつて英雄オリジンとともに世界を旅した英雄である。
オリジンが冒険者という基礎を固め、ロイドはその冒険者を纏める組織を作り上げた。それが現在のギルドである。
王国は今なお崩れることのない強固な繁栄を維持していた。高ランクの冒険者はもちろん最上級魔術師や剣技に長けた騎士の精鋭など、近隣諸国を寄せ付けないその戦力の高さはひとえに現王の人望の厚さが影響している。オリジンが冒険者の聖地であるならば、オスティアーナ王国は冒険者にとって守るべき場所だ。
その王国にももちろん冒険者ギルドが存在する。王宮からそこまで離れていない場所に建造され、高ランクの冒険者が顔をそろえる場所。ギルドの名前は『オスティアード』。王国名と一文字違いなのは初代国王にして初代ギルドマスター、ロイド・フォン・オスティアーナの意向があったからだと広められているが、実際の理由はなんだったかのかまでは記録が残っていない。
そのギルド内の一室。大きな円状のテーブルを囲むように席が用意されており、五人がそこに腰かけていた。一介の冒険者はおろかランクSの冒険者でさえ許可がないと入れない部屋。各ギルドの最高責任者であるギルドマスターが集う部屋である。
「というわけで、セカンドのギルドマスターは魔剣に乗っ取られて死亡。今はワタシがオリジンと兼任中ってわけよ」
金色の髪をなびかせ淡々と状況報告する女性。オリジンギルドマスターであり現在セカンドのギルドマスターも兼任している『束ねる者』プレミア・ファストラッド。彼女は一通り話し終えると足を組みなおし腕を組んで反応を待った。
「ポロジックが………そうか」
顔をしかめそうつぶやいたのはプレミアの向かいに座る漆黒の鎧を身にまとった男性。王国北部を中心に活動を広げている冒険者ギルド『コクトウ』。そのギルドマスターにして『黒騎士』の二つ名を有するバレリア・フィッツカルデ。
「彼とは昔クエストに行った仲だった。ギルドマスターになってからはここでの会話以外特に話さなくなってしまたが………そうか」
気落ちした声で話したバレリアの言葉はそれ以上続かない。それ以上言う言葉が彼にはなかった。あるのはもっと接しておけばという後悔のみ。
クエストに行ったということは、バレリアとポロジックは相当昔からの仲だったのだろう。それが魔物に洗脳され死亡したのだ。その悲壮感はすぐに割り切れるものではない。プレミアは声をかけようとしたが、その前に別の声が上がった。
「プレミア、本当のこと話せよ。乗っ取りじゃないだろ、ポロジックが死んだ理由はよ」
バレリアの隣に座り、机の上に足を投げ出している尊大な態度を見せつけている男。王国東部に存在するギルド『ライジン』のギルドマスター、『雷神』のトキト・クラウドが鋭く切り込んだ。
「俺の掴んだ情報によれば、ポロジックは乗っ取られなんじゃない。そうだろ」
「どういうことだプレミア」
「説明するわ。でも、あながち乗っ取りっていうのも間違いじゃないのよね」
さてどう説明するか。プレミアはなるべく柔和な言葉を選び話を続ける。
「異界化した場所を発見したポロジックは、そこで一本の魔剣を見つけたの。その魔剣は俗にいう来訪者だったみたい」
「魔剣が来訪者だと? 聞いたことがないな」
「その魔剣を、初めは危険だから管理下に置こうって考えたらしいんだけどあんまりうまくいかなかったみたいで。そのうち全く別の魔剣が出現して、その魔剣にそそのかされちゃったわけなのよ」
「……魔剣は時に己の邪な部分を増幅させてしまう。うまく使わなければ最悪精神を支配される」
「つまり、精神的な部分に付け込まれてポロジックは操られたってわけか」
プレミアの説明に二人は自己解釈も含めとりあえずは納得した。プレミアも内心ほっとする。嘘の報告はしていない。プレミアがセカンドに到着し聞いた話をそのまま述べただけだ。到着する前の話は知らないし聞いていないのでわからない、ことにしてある。ゆえに報告しなかった。
「ポロジックの件は分かりました。それで、先ほどからあなたの後ろにいる方は?」
プレミアの右方面に座る白いローブを身にまとった長身の女性。回復系統の魔法を使う冒険者が多く所属するギルド『イシス』のギルドマスターであり『聖母』としてあがめられているレティシア・バームロウルだ。イシスは大陸全土にわたり活動をしているギルドであり、その本拠地は王国南部に位置する『聖教会』を中心とした都市である。レティシアはそこで聖教会のトップである教皇としての顔も持っていた。
レティシアの振りにより、視線がプレミアの後ろに立つ人物に集中する。プレミアは話題を振ってくれたレティシアに心の内で賛辞を贈ると、軽く咳払いをして立ち上がった。
「ああ、そうね。紹介するわ。彼女はロール・ケット。今セカンドのサブギルドマスターとして働いてもらっているの。今はワタシが兼任してるけど、ゆくゆくは彼女にセカンドを任せようと思ってるわ」
「あ、あの! 皆さん初めまして。セカンドサブギルドマスターのロール・ケットと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
紹介されたロールは上ずった声で挨拶をし頭を下げる。緊張の余り全身が震えてしまっていたが、何とかかまずに言えたと本人は安堵していた。
「へぇーロールちゃんって言うんだ。俺トキト。よろしくな。この後一緒に飯でもどう?」
「やめないかトキト。俺はバレリア・フィッツカルデだ。この黄色い頭に何かされたら遠慮なく言ってくれ」
「私はレティシア・バームロウルです。ロールさん、よろしくお願いしますね」
三人が代わる代わるロールの挨拶に返答する。どうやら歓迎されているようだと、プレミアはにこやかにうなずいた。実際のところ他ギルドのギルドマスターと関わり合うことはあまりない。精々がこの定期会議か、もしくはよほどの緊急事態のときだけだろう。それでも、今後のロールの事を考えればと思い連れてきたが、プレミアの思惑は見事成功した。
「ううーん。ふわぁぁぁ………みんなおはよー」
今まで愛用の枕に頭をのせ熟睡していた少女があくび交じりで顔を上げる。寝起きだからかまだ完全に覚醒しておらず目は半開きで頭を左右に振っていた。数少ない予知魔法を扱える冒険者が属するギルド『ノルン』のギルドマスター、『予知夢』のマクラ・ユメミはこのギルドマスターが集まる会議においても眠ることを咎められない。なぜなら彼女の真価は起きたときに発揮されるからだ。
「おはようマクラ。今ちょうどセカンドの状況を説明してたところよ」
「うん。なんとなく聞いてたー。それよりプレミア、ちょっとヤバいかも」
「ヤバい?」
マクラの真価。それは今後起きる出来事が夢として客観的に見れることにある。夢で見たことは高確率で起こるし、今までマクラの予知夢が外れたことはない。そのマクラからやばいと言われたのだ。プレミアに緊張が走る。
「ぐ、具体的にどうやばいのかしら。ワタシはこの後どうなるの?」
「ううん違うよー。プレミアがヤバいんじゃなくって、オリジンがヤバいかもーって話」
「オリジンが? どういうこと?」
その時会議室の扉が勢いよく開けられた。入ってきたのは白と黒の装飾を施した装備に身を包んだ少年。その表情は血気迫るものだった。
「プレミア!」
「殿下? どうしたんですそんな慌てて」
会議室に現れたのはオスティアーナ王国第二王子のオルガ・フォン・オスティアーナだった。王子という立場であるが各ギルドマスターと王族の橋渡しの責務を担っており、自身もランクAの冒険者である。
「大変だ! オリジン近くの森にオークジェネラルとオークロードが複数現れた!」
「何ですって!?」
プレミアはすぐさま通信魔法を使いサブギルドマスター、ミラベル・ファストナーに連絡を取る。いつもならものの数秒で繋がるのだが今回は繋がる気配が全くない。
「活性化しているオークども相手だとちょっとヤバいわね。ゴルドもこっちに来ちゃってるし」
仮に緊急クエストを発令していたとしても、低ランクの冒険者は戦闘はしないはずだ。ミラベルや高ランクの冒険者たちがいるので万が一はないと思うが、多くの負傷者が出ることは避けられないだろう。
「違うよープレミア」
必死に考えを纏めようとするプレミアに、マクラが追い打ちをかけた。
「やばいのはオークたちの事じゃないよー」
「え? じゃあ一体何がヤバいのよ」
左右に揺れていたマクラの動きが止まった。完全に眠気が覚めたのだろう。先ほどのけだるい様子とは打って変わり目つきが鋭いものとなった。この状態の枕は一時の間ではあるが予知夢で見た内容を正確に伝えることが出来る。そのマクラがゆっくりと口を動かした。
「デリルの森に魔神の存在を確認。個体名『アンドラス』」
伝えられたその内容は、プレミアの予想を超えたヤバさだった。
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