教育係と疑心個体
投下します。
「強化魔法行くよー!」
ザッハの掛け声とともに私たちに身体強化の魔法が付与される。体が軽くなり、筋力も増加した。その後アランとカレンが素早くオークロードの懐に入りその体を切り刻む。オークロードの攻撃が来た瞬間タイラーが入れ替わりに前に入り込み盾で防御。その後すかさず前衛二人の追撃が叩き込まれる。
「おらぁぁぁぁあああ!!!!!!!」
「はぁあああああああ!!!!!!!」
鋭い剣劇が瞬く間にオークロードの体に傷を入れた。その勢いに押されたのか、オークロードはアベルたちから距離をとるため後ろに下がる。だがそれは悪手だ。
「ゴアッ!?」
オークロードの右足が突如できた穴にはまる。バランスを崩したオークロードはその大きな巨体を仰向けに倒した。
「よし。うまくいった」
私は仕掛けた罠がちゃんと起動し一安心した。さすがに強化魔法をかけられているとはいえ、アランやカレンのように真正面から対峙するのは危険すぎる。身体強化によって普段の倍の速さで動けるようになった私は、あらかじめオークロードの後ろに回り込み、こっそり罠を仕掛けていたのだ。案の定まんまと罠にはまりさらに追撃のチャンスを作ることに成功する。
「アラン、カレン。やっちゃって!」
「了解だ! いくぞカレン!」
「言われるまでもないわよ!」
二人の剣劇がさらにオークロードを切り刻んだ。活性化した状態のオークロード相手にどうなるかと思ったけど、これなら何とかなりそう。
オークロードが立ち上がり反撃するも、その攻撃はタイラーによって防がれた。その後再びザッハから支援魔法がかけられる。状況は意外にもこちらの優勢だった。
「なんだよ、大したことないな」
「……そうね。これじゃいつものオークと変わらないわ」
前衛の二人はとどめを刺すべく再びオークロードに向かっていった。目の前の討伐対象はゆっくりと起き上がる。
オークと変わらない。カレンが発したその言葉が、私はひどく頭の中に残った。確かに活性化状態のオークロードがこんなに簡単に仕留められるわけがない。追撃を受けたり罠にかかったり、これではまるでただのオークだ。
アランとカレンが起き上がったオークロードに最後の一撃を喰らわせる。雄たけびをあげながらオークロードはその体を魔力として分散させた。戦闘が終了し戦闘態勢を解く。後衛のザッハとタイラーも戦闘が終了したことを確認しこちらに歩いてきた。
「いやー大したことなかったね」
「ああ。意外とあっけなかったな」
「それだけ俺たちが強くなったって事だろ。なぁカレン」
「え? えぇ……そうね」
男性陣の意気揚々とした態度とは真逆に、ただ一人カレンは腑に落ちないといった様子だった。おそらく私と考えていることは同じだろう。
今のは本当に、オークロードだったのか。
「グガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
突如、倒したはずのオークロードの方から咆哮が聞こえた。見ると新たなオークロードが一体こちらを見据えている。仲間の敵討ちだからだろうか、その獰猛な瞳は不気味に赤い光を宿していた。
「ハッ! 何体来ようが関係ねぇ! ザッハ、頼むぜ!」
「了解! それ!」
ザッハが再び全員に身体強化の魔法をかける。そして先ほどと同様にアランとカレンがオークロードに切りかかった。
「おらああああああああ!!!!!!!」
「てぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!!」
私も先ほどと同様オークロードの後ろに回り罠を仕掛ける。今度も特に気づかれてはいない。オークロードがひるんで後ろに下がったとき、右足を地面に埋もれさせ転倒。その後追撃。大丈夫、今度もうまくいくはずだ。
そう思った矢先、オークロードの視線がこちらに向けられた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
オークロードの振りかぶった太い腕が私に直撃する。避ける暇もかわすタイミングもなかった攻撃を受けた私はその勢いで吹っ飛ばされ、近くにあった木に叩きつけられた。
「な!?」
「リタッ!!」
アランとカレンの悲痛な声が聞こえる。ザッハの身体強化魔法のおかげで辛うじて意識を失ずに済んだ私の目に飛び込んできたのは、切りかかった剣を両手で捕まれ、そのまま宙に持ち上げられている二人の姿だった。
「こいつっ!」
タイラーが盾を持ったままオークロードに突っ込む。オークロードはアランを一目見て下卑た笑みを浮かべると、タイラー目掛けて投げつけた。
「ぐおっ!」
「がはっ!」
「ぐえっ!」
オークロードに向かっていくタイラーにアランが激突する。そしてその勢いのままザッハのところまで吹き飛んでいった。ガシャンと音を立て剣と盾が地面に散らばる。相当な速さで投げつけらそれがぶつかったのだ。三人とも立ち上がることが出来ずにいる。
「このっ!」
カレンが剣を離し腰の短剣で切りつけるが、オークロードはまるで効いていないかのようにその笑みを止めない。振りかぶったこぶしがカレン目掛けて降ろされるが、カレンもそれを回避する。
「バインド!」
カレンが拘束魔法をオークロードにかけた。魔法耐性は低いのか意外にもすんなり魔法によってその獰猛な動きを封じられる。
そして隙をついて私のそばへ素早く来てくれた。
「リタッ! 死んでないわよね!?」
「な、なんとか……」
死んではいない。死にそうだ。などと冗談を言っている場合じゃない。骨は何本も折れている。内臓はきっととんでもないことになっているに違いない。さっきから口の中が血の味しかしないのはそういうことだ。
カレンは手持ちのポーションのふたをすべて開け私に飲ませてくれた。だが飲み込む力がなく、せっかく口に入れてくれたポーションを涎のごとくたらしてしまう。
「カ、レン……ごめ……のめ、な」
このままではせっかくのポーションを無駄にしてしまう。私は良いからカレンが使って。そう言いたかったが言葉が続かない。口まで開かなくなってきた、いよいよまずいかも。
「……リタ、ごめん」
カレンは一言私に謝ると、ポーションを自身の口に持っていきそのすべてを口に含んだ。そして私の口に自身の口を付ける。ポーションが喉を伝い体の隅までいきわたる、そんな感覚だ。とても上質なポーションなのだろう、即効性があり、とりあえず痛みはやんだ。
体を起こし手を開く。折れていた骨がくっ付いていることを確認し、私はカレンに向き直った。
「ありがとうカレン、助かったよ。けどごめんて?」
助けられた身としては謝られることは一切ないと思うけど、カレンは先に謝った。恥ずかしそうにうつむく彼女はか細い声で答える。
「……口を合わされるの、いやじゃなかったかなって」
言っているそばから顔はますます赤くなり、そしてどんどんうつむいていく。先ほどまでの凛々しい彼女はどこへやら。私は両手でカレンの手を握り笑顔で答える。
「全然。そんなことも考えてくれるだなんて、カレンは優しいね。本当にありがとう!」
「い、いえそんな。まぁ助かってよかったわ」
「うん! ありがとう」
「も、もういいわよっ」
私たちは立ち上がりオークロードへ向き直る。バインドの拘束もそろそろ限界のようで、魔法の帯にひびが入りつつあった。オークロードが解放されるのも時間の問題だろう。
「ねぇカレン。私に一つ作戦があるんだけど、乗らない?」
「いい案があるの?」
「うん。でもまずはあの三人を連れてここから一旦離れよう。話もしたいし」
「わかったわ。じゃあ行くわよっ」
拘束されているオークロードの横を走り抜け、私は小柄なザッハを担ぎ上げそのまま走る。
「ほら、あんたたち起きなさい!」
「ぐへっ!」
「ごふっ!」
アランとタイラーの顔面に張り手を喰らわせ強制的に意識を覚醒させた後、カレンは二人を連れて追ってきた。
あのパーティ、アランがリーダーって言ってたけど本当はカレンなんじゃ。そう思ってしまう一場面を目撃してしまったが、今はこの場を後にすることに集中しよう。
バインドが解けたのか、遥か後方では何度目かわからないオークロードの咆哮が響き渡った。
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