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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第三章
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悪夢の見せ方

 使い魔は基本的に召喚主の魔力によってその力が上下する。せっかく強力な使い魔を苦労して呼び出したところで、肝心の召喚主の魔力が低ければ本来の力を発揮できないのだ。


 クラインハートの家系に生まれた人間の魔力はいずれもが高く、上位精霊だって召喚できる魔力を有する。三人の姉はみんな上位精霊を使役し、クラインハート家の一員として様々な功績をあげていた。


 その家系に生まれながらも、持ち前の魔力は中の下、召喚できる精霊は低級の精霊のみ。クラインハートの落ちこぼれ。それが私だった。


 どんなに頑張っても魔力は上がらず、どんなに嘆いても現実は変わらない。家族からは気にすることはないと言われていたけれども、当時の私は周りの声に押しつぶされそうだった。


 そんな私の心の支えとなっていたのが、初代クラインハート家の当主、リルル・クラインハートの存在。公の文献で彼女は生まれつき魔力が低くかったが、のちに数多の使い魔と契約し、世に蔓延る魔族と勇敢に戦ったと記されていた。


 彼女と自分には魔力の低さで共通点がある。そのことが唯一、折れそうな私の心を何とかつなぎとめる要因となっていた。


 そしてある日、私は何かに導かれるようにクラインハート家の蔵に入る。初代当主が契約してきた使い魔と再契約するための魔本が安置されたこの蔵には、私の魔力で契約できるような使い魔は存在しない。だが、数ある魔本の中の一冊。一番奥に置かれていた魔本を私は手に取った。


 ページをめくっても何も書かれていない白紙の魔本。私はこの本に呼ばれたのだ。


 そして直後、魔本からすさまじい魔力があふれ出す。最初は魔本の暴走かと危惧したがどうやら違ったらしい。魔力は私の頭上を飛び越え後ろに着地し徐々に人の姿を形成し始めた。


 私よりも背が高く、体つきは細身だが、その眼光は鋭い。黒髪で見たことのない服装。


「あん? また呼ばれたのか?」


 声から性別は男ということがわかる。というか、姿は人間そのまんまだ。呼び出された使い魔は自分の体に欠損部部がないか確認し、満足したのか今度は私に向き直る。そして私の顔を見るなり怪訝な顔をした。


「お前……リルルか?」


 どうやらこの使い魔は初代当主と私を間違えているようだ。まだ召喚されて間もないので視界が良好ではないのかもしれない。私は首を横に振って答えた。


「私はリリル・クラインハート。リルルは初代当主様よ」


「リリル、ね。俺はヒイロ。ヒイロ・ユキザキだ。よろしくな」


 ヒイロ。そう使い魔は名乗り右手を差し出してきた。握手のつもりらしい。なかなか紳士な使い魔のようだ。私は特に警戒することなく差し出された手を握る。そして、


「いったぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 バチンッ! と何かに右手の指が挟まれた。見るとヒイロの手のひらに仕掛けられた金具が私の指を挟んでいる。当の使い魔は肩を小刻みに震えさせていた。


「リリルも引っかかったが、後継のやつまで引っかかるなんてな……ぷっくく、だーはっはっはっはっは!!!!!」


 一転、大口を開けて大爆笑する使い魔。こ、こいつ性格わるっ!


 私は挟まれた金具を指から取り外し大声で怒りをぶつけた。


「ちょっと! 何すんのよ!」


「いやー悪い悪い。あいつに似てたもんだからつい、な」


 涙が出るほど笑いつくした使い魔は、私の頭に手を置き雑になでる。置かれた手を振りほどいた私は魔本を確認した。やはり先ほどとなんら変わらず白紙のままだ。本来使い魔を再召喚した魔本には使用した証として使用者の名前が魔力の痕として残る。だがヒイロを呼び出した魔本には何も書かれていなかった。


「にしても辛気くせー場所だな。倉庫か? こんなところで召喚されるなんて、これも因果かねぇ」


 ヒイロは辺りを見渡し安置してある魔本を手に取る。叩くと埃が舞いゲホゲホと咳込んだ。安置しただけで特に管理もしていない百年くらい前の魔本なので当然である。


 ヒイロに言われるまでもなく、こんなところで召喚する気はなかった。そもそも勝手に出てきたのはヒイロの方だという思いを目に込め睨むと、彼は私が持つ魔本に興味を示す。


「あん? ああ、なんだ。その魔本で俺を呼び出したのか。なるほどな」


「知ってるの?」


 私の問いにヒイロは特に答えず、背を向けて蔵の出口へ歩いていく。


「とりあえず出ようぜ召喚主様。いつまでもこんなとこにいたんじゃ何も始まんねーぞ」


「あっ! ちょっと待ちなさいよ!」


 意気揚々と蔵から出ていくヒイロを、私は慌てて追いかけた。





                       ×××





 なぜ今それを思い出したのかはわからない。突然記憶の引き出しを開けられ無理やり見せられた、そんな感じだ。


 私とヒイロの出会い。大切な思い出だ。


「う……ん?」


 気が付くと私は木に寄りかかって座っていた。立ち上がろうとするが体に力が入らない。確かオークの集団と遭遇してそれを殲滅した後、オークロードが三体現れたところまでは覚えてる。三体のオークロードにヒイロが嬉々として向かっていき、二体を倒して、あとの一体は……。


 思い出そうとすると頭痛が響く。まるで頭の中で打楽器を叩いているかの如くやかましかった。思考がうまくまとまらず、辺りを見渡して気づいたことが一つある。


「あれ、ヒ……イロ?」


 あの生意気な使い魔の姿が見えない。彼に限ってオークロードに敗れることは万に一つもないだろう。であれば彼の姿が見えないのはなぜか。ヒイロだけじゃない。オークも、オークロードも、一緒に戦っていたほかの冒険者の姿も消えている。


 ふと、目の前に三つの影が現れた。どれも見知った顔で、一年くらい見ていない顔。


「あら、落ちこぼれがこんなところで何してるのかしら?」


「魔力もないくせに出しゃばるからこうなるんだ」


「まぐれで出てきた使い魔に頼りっきりだからこうなるのです」


 三人の女性は口々に私に罵声を浴びせた。それはその三人からは一切言われなかった言葉の数々。私に対し敵意を向けた三人の女性は上位精霊を召喚し攻撃態勢をとった。


 ああなるほど。さっき色々思い出したのはこのためか。わざわざ姉たちの顔を思い出させ、ヒイロとの出会いを思い出させ、そしてこの状況。


「……はっ」


 おかしくてつい笑ってしまった。三人の女性はじりじりとその距離を詰めてくる。私が笑ったのが気にくわなかったのか、一人が精霊を使い攻撃を仕掛ける。


 だが、私はもう知っていた。


「無駄よ。もうネタは分かってるんだから」


 火炎弾が私に直撃する。私を支えていた木が燃え一瞬で灰となった。だが、私は無傷。つまりそういうことだ。


「姉さんたちを出したのは失敗ね。あの人たちは絶対にそういうことは言わないの」


 三人の女性の体にひびが入る。地面にも、空にも。この空間そのものが形を維持できなくなっていた。


「さて、夢から覚めなくちゃ」


 立ち上がり、私は前を見た。





                       ×××





 世界が割れる。いや、偽物の世界が消えるという方が正しい。元の世界で最初に映った光景は、ヒイロが三体目のオークロードをけり倒しているところだった。


「嬢ちゃんが起きた!」


「ヒイロさん! リリルさん起きたよ!」


「おっ、やっと目ぇ覚ましたか」


 何人かの冒険者が私を取り囲んでいた。周りには空っぽのポーション入れがいくつも散らばっている。どうやら私に使ってくれたらしい。しかも魔物から守ってくれていたようだ。


「あの、ごめんなさい。私みんなに迷惑を……」


「何言ってんだ。むしろ助かったはこっちだぜ」


「あなたとヒイロさんが来てくれなければ、私たちはオークどもの餌食になっていたわ」


「本当にありがとう!」


 口々にお礼を言う冒険者たち。大したことはしていないと返し、私はヒイロの元へ向かった。ヒイロは私の顔を見るなり頭を軽く手刀で叩く。


「ったく、いきなり寝やがって」


「うぅ……ごめん」


「撤退も考えたが、あいつらが任せろって言うんでな。そのままオークどもの相手を引き受けてたんだ」


「そっか。ありがとうヒイロ、ご苦労様」


 ハンッ、と短く返事をし、ヒイロはにやにやといつもの薄ら笑みを浮かべる。


「それで? ぐーすか寝てた召喚主様はいったいどんな夢を見られてたんで?」


「それは……」


 とても陰湿な夢。夢というより悪夢の類だった。からかうつもりだったんだろうが、私の反応を見てヒイロのふざけた笑みが怪訝な顔に変わる。


「あん? どうしたリリル」


「あれは夢なんかじゃない」


 精神干渉系の魔法。そんなものをオークやオークロード、オークジェネラルが使えるわけがない。うすうすは感じていたけど、この騒動にはオークジェネラルよりも厄介なものが後ろに控えている。そんな気がした。


「精神に直接干渉して相手の悲惨な過去を強制的に見させる魔法。そんな感じ」


「なんだそれ。いかにも魔族が使いそうな陰湿な魔法だな」


「姉さんたちが出てきて、落ちこぼれって言われたんだけど」


「あーそりゃ逆効果だな。あいつらがそんなこと言うはずねぇしな」


 そう。私はそれが分かっていたからこそ、悪夢から自力で抜け出すことが出来た。だがほかの冒険者はどうだろう。自分の忘れたい、思い出したくない過去を無理やり見せられ、最愛の人物に拒絶されてしまうことに果たして耐えられるだろうか。


「行こうヒイロ。なんか私嫌な予感がする」


「……了解だ。こういう時のお前の勘は当たる」


 ほかの冒険者たちに別れを告げ、私たちは森の奥へと向かった。

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