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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第一章
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教育係と飛び級?

 GM(ギルドマスター)の部屋に通された私とユキノちゃん。


 ユキノちゃんの反応を堪能したプレミアは満足そうに笑っていた。


「しかしいい反応だったわね。ナイスよユキノ」


「まさか受付のお姉さんがギルマスだったなんて……」


「気にしないでユキノちゃん。こういうやつだから」


 新米の冒険者を相手にするのは同じく経験の浅いギルド職員が行うことになっている。それはお互いにまだ未熟という共通点から、双方が相手のことを思い成長してほしいという願いから作られた方針だ。


 しかし最近はその方針を無視し新米冒険者をからかっては遊んでいる不届きな者もいる。それがGM(ギルドマスター)なのだから頭が痛い。


「で? なんでわざわざこの部屋に通したの。私たちこれから魔物の討伐クエストに行こうとしてたんだけど」


 そう。あのあとユキノちゃんが受注していたクエストをプレミアは『ギルマス権限発動!!』とか言い出して強制的に破棄させた。


 いつもだったらそんなこと絶対あり得ない。一度受注したクエストをGM(ギルドマスター)が破棄するなんて今まで一度もなかった。


 文句の一つでもと思ったが、あまりにも神妙な顔つきのプレミアに結局言えず。なすが儘に部屋に通されたというわけだ。


「いやちょっとね。ユキノについてなんだけど」


「え? わたしですか?」


 急に自分の名前が出てきてユキノちゃんはきょとんとする。


「うん。リタは知ってると思うけど、冒険者登録するときに魔力を測定するじゃない?」


「ああ、あの水晶玉に触れるやつのこと?」


 冒険者登録を初めて行う者は必ずFランクからスタート、というわけではない。いくつかの特定条件を満たせばいきなりDランク、Cランクなど飛び級も可能なのだ。条件の中には魔力の高さなどもあり、特に魔法使い(ウィザード)は魔力が秀でているものが多く、登録した段階で私と同ランクの者も多く目にした。


 その魔力の高さや戦闘能力を測定するのが、ギルドが保有している魔道具『魔宝珠』である。


「そうそれ。でね、昨日ウチの新米の子の初出勤日だったから後ろで見ててあげようかなーなんて思ってたんだけど」


「要は暇だったんでしょ」


「ひっ、暇じゃないし。ギルマスはいつも多忙なのよ」


 本当だろうか。実に怪しい。


「それでね、ワタシって人の魔力を測れるスキルを持ってるじゃない。ちょっと職員と話してたらものすごい魔力反応がギルドに向かってきているのが感じとれたのよ。何事かと思ったわ」


 プレミアの保有しているスキル『魔力測定』は一般的に広く知られているが保有者がごく少数のスキルでもある。というのもこのスキルはGM(ギルドマスター)限定のスキルだからだ。自身のギルドによそからやって来た者を所属させるうえでとても重要なスキルである。


「いったいどんな人物がやってくるのか久々に身構えちゃってね。そうしたらドアを開けて入ってきたのが、なんとそこのユキノだったのよ」


「ユキノちゃんが?」


 私は隣に座るユキノちゃんを見る。服装は確かに珍しいがそれ以外はいたって普通の女の子だ。とてもプレミアが言うような強大な魔力を持っているとは思えない。それに当の本人はなにがなんだかという様子だ。


「そう。あんな強大な魔力で魔宝珠なんて触られたらたまったもんじゃないって思ってね。だからワタシは職員を下がらせたの。ワタシ自らユキノの人となりをみるためにね」


 オリジンのGM(ギルドマスター)であるプレミアは『観察者』の異名を持つ。単純に魔力を測ることのみならず、その人物の力量や性格など、ある程度なら見ることが可能だ。本人はギルマス権限なんてふざけているが、おそらく高位スキルなのだろう。


「で? 観察者から見てユキノちゃんはどうだったの?」


「そんなのリタのところへ行かせた時点で分かってたくせに」


 確かに、危険な存在だった場合はその場で処理しているはずだ。こんなんだが、プレミアの強さを冒険者ランクで例えるならS。オリジンを率いる実力は伊達ではない。


「あれ。でもそれだとユキノちゃんがFランクなのはおかしくない? 魔力は申し分なかったんでしょう?」


 プレミアが身構えた魔力を持っているのであれば、少なくともFランクではないはずだ。おそらく単純な魔法の打ち合いだったら私なんかよりも全然強いだろう。


 その彼女が現に今Fランクで登録されている事実について説明が欲しい。


「確かに魔力は十分すぎるほど高かったわよ。それこそAランク並みにね」


 でも、とプレミアは続けた。


「それ以外は普通の子なのよ。魔力が異常に高いだけ。何か経験を積んでいるとかそんなことは一切なかったわ」


「それってどういうこと?」


 生まれ持った魔力が高いのは分かる。だがそれ以外の経験がない? 箱入り娘だったのだろうかこんな元気な子が。箱入りだったらもう少しおとなしめに育つと気がするけどどうなんだろう。


 ユキノちゃんに至っては会話についてこれてないのかはたまた別のことを考えているのか上の空だ。


「つまり戦闘経験もなければ何かの知識もない。ただ魔力が一定基準をぶっちぎりに突破しているだけ。魔力だけで見ればB、もしくはAランク相当よ。だけどそんな子をいきなりそんな高ランクにすると思う?」


 プレミアの話を聞いて私は納得した。

 

 高ランクは力量に伴った危険が付きまとう。今のユキノちゃんをいきなり高ランク認定したところでいい結果は生まれない。Fランクは文字通り経験を積ませるためのプレミアなりの配慮なのだろう。


「私のところに寄こしたのも納得したよ。確かにほかの冒険者じゃこれは荷が重い」


「でしょう? ワタシの判断は正しかったわ。きっとリタならうまくやってくれるって信じてたから」


「まだ何もしてないけどね」


 先走るプレミアに苦笑しながら、私は今後の方針を頭の中で構築した。


 知識経験がないということは、やることは一つ。


「さてと、じゃあGM(ギルドマスター)の期待に応えるとしますか」


「ほえ? リタさん、どちらに?」


 立ち上がり部屋から出ようとする私の背から、ユキノちゃんが疑問の声を投げかけた。


 どこへだって? そんなの決まっている。


「新米冒険者に、私から知識と経験のプレゼントだよ。ついてきて」


 久々に、楽しいフィールドワークの始まりだ。

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