エピローグ
ようやく二章がおわります。
どうぞ最後までお付き合いください。
「なにも壇上から降ろさなくてもいいじゃない。ほんのスキンシップよスキンシップ」
「いーや、あれはただのおっさんの絡み方だった。ロールさんもちゃんと言わないと。こいつはすぐに付け上がるからね」
「あ、あははは……」
ギルドでの全体周知が済んだ後、私たちはそろってギルドマスターの部屋にいた。
全体周知をしたことでセカンドのギルドマスターの権限はプレミアに移り、サブギルドマスターの役職は今後正式にロールさんが全うすることとなる。
ガリウスは変わらず冒険者を続けるそうだ。というより、彼が前線からいなくなると他の冒険者の士気にかかわるらしい。本人としては後続の冒険者を育てる立場になりたかったみたいだが、それはもう少し先でもいいだろう。
赤き盾ことポロジックの処遇は、魔物に洗脳されてしまった、という結末で決着がついた。ガリウスの悪いうわさもすべて洗脳されたポロジックが流したことだと、後日セカンド全体に通達される予定とのこと。
異界化した森や洞窟も今は魔力量が一定化し落ち着いているらしい。これでもう高位魔族が攻め込む心配もないだろう。
「それにしてもリタ、今回も災難だったわね」
プレミアが急にまじめな顔に切り替える。
「先のグリンドラゴンの件や今回の魔剣の件……どうしてこういつもあなたばかりこんな目に」
「プレミア……」
ギルドマスターとしてではなく、友人として心配してくれているのだろう。確かにここ最近ワタシの周りは騒がしい。身に起きる危険も以前と比べて頻繁に起きるようになった。
特に今回は本当に死ぬかもしれないといった場面がいくつもあり、ランクDの私にとって規格外な体験だったと思う。
「あのねプレミア。冒険者に危険はつきもの。でも私は一人じゃないんだよ。ユキノちゃんやヴィーちゃんにゴルド、そしてプレミアがいたからこそ、ランクDの私がこうして無事にお茶を飲めるんだ」
私はカップに口をつける。ロールさんが入れてくれたお茶は格別だ。なんかこう、優しい味がする。
「みんなには本当に感謝してます。だからそんな顔しないでプレミア。いつもの破天荒な顔を見せてよ」
「破天荒な顔ってどんな顔よぉ……」
よかった、とりあえず顔を上げてくれた。しおらしい感じは彼女には似合わない。やっぱりプレミアは明るく破天荒じゃないと。
少しの沈黙の後、シルヴィアが切り出した。
「ところで、その子の持っている魔剣はどうするつもり?」
シルヴィアの目線の先のキール君は、まだ傍らにベガルタを携えていた。ベガルタ曰く、同調しすぎて最早まともに扱えるのがキール君しかいないらしく、放置するのも危険なので持ち歩いてもらっている。
「うーん、どうするって言われてもねぇ」
珍しくプレミアが言葉を濁す。普段であれば何か案の一つも出すところだが、ニマニマしているところを見るに何かを待っているようだ。
「無理やり取り上げてもほかに使える冒険者はいないし、かといって封印するっていうのもねぇ」
『ふ、封印だと!? 冗談ではない! キールよ、こやつらに何か言ってやるがいい!』
ベガルタが焦りだした。プレミアが言う封印とはおそらくオリジンの倉庫で寝かすことを指している。拘束するという意味ではないが、収納されたベガルタを次に見る日が来るだろうか。今回使用したグリフォンの羽も年季がはいった代物だったはず。つまりそういうことだ。
「あの、シルヴィアさん」
ベガルタに促され、キール君が口を開く。
「僕は今回のことで、自分は弱いってことを自覚しました」
「きみの年だとこれから成長すると思う」
「ありがとうございます。でも僕は今からでも強くなりたいんですっ」
キール君が立ち上がり、シルヴィアに勢いよく頭を下げた。
「お願いですシルヴィアさんっ。僕を弟子にして連れて行ってくれませんか!」
それは白の剣聖への弟子入りの懇願。確かにシルヴィア以上に剣に剣技に精通している冒険者は私は知らない。強くなりたいなら強いものから学ぶ、それも一理ある。
だが相手はランクSの白の剣聖だ。おいそれとそれを許すはずが、
「いいわよ」
「「いいんだ!?」」
私とゴルドが声を上げ、プレミアはやはりニマニマと笑みを浮かべながら静観している。やっぱり多少はしおらしいほうがいいのだろうか。あの顔は見ていて少しイラっと来る。
「でも条件があるわ」
シルヴィアは指を三本立てた。
「一つは私はランクSだから、ついてくるということは今回のような危険がいくつも降りかかることになる。つまり危険が伴う旅になる」
「覚悟の上です」
「もう一つは、私の指示には必ず従う。危険な行動はとらないこと」
「絶対に守ります」
「最後の一つは……」
そう言ってシルヴィアはロールさんの方を向いた。
「最後はそう、お姉さんの許可をもらうこと」
さすがに二人で話を進めるわけないか。シルヴィアはロールさんがキール君の姉だと教えてもらっている。大事な弟を危険が伴う旅に同行させるのだ。ここは避けて通れない。
「お姉ちゃん……」
緊張した表情でキール君は姉を見る。ロールさんは静かに弟の言葉を待っていた。
「お姉ちゃん、僕シルヴィアさんに同行したい! もっと力をつけたいんだ!」
「力を付けるだけだったらここに残ればいいじゃない。今すぐに強くなる必要なんてあるの?」
「あるよ! だって今のままじゃお姉ちゃんを」
そこでいったん言葉を区切り、深呼吸をして続けた。
「今のままじゃこの街の人を守れない。ガリウスさんたちにいつまでも甘えてられないんだ。僕は、誰かを守り切る強さが欲しい」
一瞬、何かを言いたげだったロールさんが目を閉じる。そしてキール君同様シルヴィアに頭を下げた。
「シルヴィアさん。弟の事、よろしくお願いいします」
「お姉ちゃん……っ!」
「キール。シルヴィアさんのいうことをよく聞いて立派な冒険者になりなさい。あなたがなりたい冒険者に」
どうやら許しがもらえたみたいだ。
「ロールさん。あなたの弟は私が責任をもって面倒を見ます」
「キール君だっけ? これ何気にすごいことなのよ? 今までシルヴィアは弟子を連れて旅なんてしたことないんだから」
プレミアの言う通りだ。シルヴィアのところに弟子入りを懇願するものは多かったが、ついに一人として弟子をとらなかったと聞いている。そのシルヴィアがどういった心境の変化か弟子をとった。それだけキール君に思うところがあったと見える。
「これからよろしく、キール」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
新パーティ誕生だ。キール君が大成すればのちに、剣聖が組んだ冒険者として名が知れ渡るかもしれない。若い芽が育つさまを見るのは、教育係を普段やっている私にとってすごく喜ばしいことだ。
「それじゃあ私はそろそろ行こうかな」
セカンドの来訪者は結局ガセ情報みたいだし、これ以上ここに滞在する理由はない。オリジンへ戻ってまた新人さんの面倒でも見ようかな。それとも武器を新調するのもいいかもしれない。
「ユキノちゃんはどうする? 私とオリジンに戻る?」
「そうですね。一旦戻りましょうか」
「それなら俺も一緒に」
「あらだめよゴルド。あなたはワタシと居残り。ここの基盤を盤石にしないとね」
「なっ! き、聞いてねえぞそれ!」
プレミアとゴルドが言い争う中、ガリウスとロールさんが何かを話していた。
「まったく、うるさい連中だ」
「ふふっ。でもいいですね、こんなに賑やかなのは久しぶりです」
「……サブギルドマスター、大丈夫そうか?」
「大丈夫ですよ。プレミアさんやギルドの冒険者の皆さん。それに―――――――――――」
ガリウスの問いに、ロールさんは笑って答えた。
「今度はあなたもいるんですから」
その言葉に、顔まで赤くなった赤獅子の姿を私は忘れないだろう。
セカンドでの大切な思い出として。
誤字脱字のご報告ありがとうございます。
今後とも皆様に見ていただけるよう努力いたします。
誤字脱字、ご感想などあればぜひよろしくお願いいたします。




