教育係と脅迫とやすり
投下します。
森での騒動を終え、私たちはギルドに戻ってきていた。
今だ気を失っているキール君をロールさんに預け、私とユキノちゃん、そしてシルヴィアはギルドマスターの部屋へ向かう。
傷ついた冒険者は大勢いたが幸い死者は一人も出ていない。戦いが終わった後のシルヴィアの迅速な指示のおかげだ。
扉を開け部屋の中に入る。普通なら勝手に入ることはできないが今はシルヴィアの顔を立てて特別に使うことが出来た。ランクSの特権である。
「さて。じゃあ話してくれますか皇帝陛下。女神がどうとか言ってたけど、あなた本当は何者なの?」
『何者かだと? 我が名はベガルタ・ゾ・ディルムンド。ディルムンド帝国最後の皇帝であり』
「リタはそういうことを聞いてるんじゃないわ」
シルヴィアは空間からやすりを取り出す。あれも通常のやすりとは違い精霊の加護がついている代物だ。確か魔力が多すぎる魔剣を人が持てるように魔力を削り取るものだと聞いたことがある。
シルヴィアはベガルタを手に持ちやすりを使ってゆっくりを手を動かした。
「あまり的外れなことを言うと、刃がなくなるかもしれないわね」
『ひぃっ! やめろっ! 分かった、分かったからその手を止めろぉ!』
剣に対しての脅迫。この世界を探してもそんなことが出来るのはシルヴィアくらいだろう。
情けない声を上げたベガルタの言葉通り、シルヴィアはやすりを持つ手を止めた。
『治めていた国の発展を願い、余を巨悪と見立てて一芝居打ったのだ。結果は知る由もないがな。その後女神と名乗る女に次の生はどう生きたいかと聞かれ、そしてこう答えた』
一呼吸あけ、ベガルタは言った。」
『誰かの剣になりたい、とな』
「その結果、剣になっていたと?」
『あれはそういう意味で言ったのではなかったのだが……』
どうやらその女神は人の話を曲解するタイプのようだ。
『そして余の体は魔剣として再構築され、あの洞窟に安置されることとなったのだ。そのあとだな、あのポロジックとやらが余に謁見を求めてきたのは』
初めは臣下のごとく下手に出ていたが、徐々に態度が変わり始め次第には自分こそが所有者にふさわしいと言い始めたらしい。態度が変わり始めたころには、あの魔剣を持っていたということだ。
『あの魔剣を持ち余の前に現れるようになってからだな。不遜な態度に変わったのは。思えばあの魔剣に精神汚染されていたのやも知れん』
「キール君を操っていたあなたがそれを言う?」
『何度も言うようだが、あの小童とは正式に契約を交わしているぞ。お互い同意の上で小童は余に体の所有権を渡したのだ』
そこの部分は本人に話を聞いてみないと何とも言えないが、キール君は療養中だ。無理に起こすわけにもいかない。それにベガルタが来訪者だと分かった以上、プレミアに報告する必要がある。
でもどう報告しようか。しゃべる剣が実は来訪者で、セカンドの周りは異界化して、さらにギルドマスターが不在。
来訪者と異界化の件は終わったが、ギルドマスター不在の件はどうしよう。
「契約云々の件はキール君が起きてから聞くとして、あなたの目的はなに?」
もし誰かの体を奪って暴れたいとか言い出したら、残念だけどここで破壊せざるを得ない。そんな危険な魔剣を野放しにしたらまたキール君のような犠牲者が出かねないからだ。
『目的だと? 先ほども申したであろう。誰かの剣になりたい。確かに思っていた結果とは違うがそこは変わらん。今度こそ余は力なき者の剣となるのだ』
妙にそこにベガルタはこだわっていた。多分その言葉に嘘はない。
「あの、ベガルタ……さん?」
ふと、今まで沈黙していたユキノちゃんが手を上げた。同じ来訪者であるユキノちゃんも、何か思うことがあるのだろう。
『なんだ娘よ』
「えっと、ベガルタさんが生きていた世界に日本っていう国はありましたか?」
『ニ、ホン? いや知らぬな』
「そうですか。じゃあ女神さまの特徴って覚えてます? 金色の長い髪で胸の大きな人だったーとか」
『確かに金色の綺麗な髪だったが、胸はさほど大きくはなかったな。むしろあるのかあるのかどうか疑問を抱くほど絶壁だったぞ』
「うーん、そうですか。別人なのかな」
ユキノちゃんとベガルタの出会った女神は、同じ金髪だが胸の大きさが違うらしい。複数人いるのだろうか。それにしても女神にそんな格差があるなんて。絶壁よりはあるほうだし。私はほっとした。
『む? ほう……そろそろか』
突然ベガルタがそんなことをぼそりとつぶやく。何がそろそろなんだ。
シルヴィアは変わらずベガルタを握ったままで、なおかつ魔力はやすりで削り取っている。
『ああ、そんなに警戒しなくともよい。やつが起きここに向かっているのが感じ取れただけだ』
「やつ?」
そしてコンコンとドアがノックされる。
「すみません。キールです。入ってもいいですか?」
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