教育係と白の剣聖
投下します。
そろそろ二章も終わります。
「魔物を囲め! 魔法が使えるやつは詠唱の準備をしろっ!」
ガリウスの号令で、近接系統の冒険者たちが一斉にポロジックに畳みかかった。
さすがBランクの冒険者なだけあって戦い慣れている。ポロジックの攻撃をかわしつつ、その攻撃の一つ一つが確実にダメージを与えていた。
「よし、近接系は下がれ! 遠距離系の魔法が飛んでくるぞ!」
詠唱が終わり、攻撃魔法が次々とポロジック目掛けて放たれる。さすがにエクスプロージョンのような高位魔法は飛び交ってはいないが、サンダーブレードやウォーターカッターといった魔法が見られた。
電撃はその身を焦がし、水の刃はその身を刻む。
戦況は数で勝る冒険者側が圧倒的に優勢だった。
「グオオ……ガ、リウ……スッ!」
だがポロジックは倒れない。それどころか切り刻んだはずの傷口が驚くべき速さで塞がっていった。
「半魔神化か。何がそこまでお前を追い込んだポロジックッ!」
大剣を振りかざし、ガリウスが単身ポロジックに向かっていく。
振り下ろされた大剣は鋭い斬撃とともにポロジックの体を二つに分けた。
分かれた上半身と下半身はしばらく動いていたが、そのうち動きが鈍くなり、やがて完全に停止する。ポロジックが出していたいびつな魔力も感じられない。
「せめて最後は安らかに眠れ」
ガリウスはそういうとポロジックの下半身を炎で焼いた。塵一つ残さず消し去り、今度は上半身を消しに一歩一歩近づいていく。
意外とあっけなく終わってしまったが、まぁ数が数だ。いくら魔剣の力で強化されたからといっても、この包囲網の中ではどうすることも出来ないだろう。
『なんだ。あの痴れ者は死んだか』
「わっ! リタさん、その剣から声が聞こえましたよ?」
ユキノちゃんが私が握っている剣を見て驚きの声を上げる。そうだ、あまりに沈黙していたので忘れていた。この剣しゃべるんだったっけ。
「ごめんユキノちゃん。言ってなかったね。この剣はベガルタって言って、キール君を操っていた魔剣だよ」
『失敬な。あの小童とは利害が一致したから体を借りていただけだ。それに余の名はベガルタではない。ベガルタ・ゾ・ディルムンド。ディルムンド帝国最後の皇帝にして―――――――――――』
「わぁーリタさんリタさん、その剣私にも貸してくれません?」
『貴様! 余をそこら辺の玩具と同等の扱いをするでない!』
ベガルタの制止を聞かず、ユキノちゃんはしゃべる剣をぶんぶんと振り回した。
「おお、言い振り具合ですなー。ほれほれー」
『やめんか小娘! それにまだ終わっていないぞ!』
「終わってない?」
ベガルタの言葉の意味。それが分かったのはすぐだった。
何かを切り裂く音が聞こえ、私とユキノちゃんは音の方へ振り向く。同時にあのいびつな魔力が再び感じ取れた。
目の先にはガリウスが立っている。だが背中からは鎧を貫通した剣の切っ先が血を浴びて貫通していた。
その先には二つに分かれたはずのポロジックが無傷のまま立っている。下卑た笑みを浮かべ、手にした魔剣をガリウスに深々と突き刺し奇声交じりの声を上げて笑っていた。
「ぐっ、ポロジック……っ」
うめき声をあげガリウスはそのままどさりと地面に倒れた。傷口からはおびただしい量の血があふれ出ている。あのまま放っておくと非常にまずい。確実に死んでしまう。
「ひぃぃぃぃぃ!!! ガリウスさんがやられちまったぁぁぁ!!!」
冒険者の一人が悲痛な声を上げる。それがいけなかった。
恐怖は伝染する。それも自分たちの大将がやられてしまったとなればなおさらだ。元々ガリウスのカリスマで集まった連中だ、要が倒れればもろいものである。
『魔剣の暴走だ。人間程度が収められると思ったか。あれはもう誰にも止められん』
ベガルタが静かにつぶやいた。
ふとユキノちゃんを見ると顔色が悪い。あんなものに出くわすこと自体が初めてだ。無理もない。
周りの冒険者を手当たり次第に薙ぎ払ったポロジックはまっすぐこちらを見ていた。あんな姿になってもベガルタを手に入れるという目的はどこかに残っているようだ。
そして狙いを定めたのか、ポロジックが一直線に向かってくる。防ぐ手段はない。
(せめてユキノちゃんとキール君だけはっ)
私はユキノちゃんからベガルタを奪い取り離れた。案の定ポロジックは私の方に進路を変える。
「リタさんっ!!」
ポロジックの振り回す剣が私に振り下ろされる。グリンドラゴンのときは何とかなったけど、これは今度こそ死んだ。
ユキノちゃんとキール君が無事逃げ延びられることを祈りながら、私は目を閉じる。
ガキィン!! とにぶい音が響く。
だが何時までたっても体に痛みが感じられない。
恐る恐る目を開けてみると、白く透き通った長い髪を揺らした女性が目の前に立っていた。
「間一髪、間に合ったようね」
それは聞き覚えのある優しい声。
振り返った顔は変わらず凛々しく気高いものだった。
冒険者のランクの中で最上位のランクがSであり、その中でも単体で古龍とさえ渡り合う強さを持つ存在。
「ヴィー……ちゃん?」
Sランク冒険者『白の剣聖』、シルヴィア・アロンハートがほほ笑んでいた。
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